今だけは昔みたいに



─── side conoca


 明日は1月17日せっちゃんの誕生日。
 きっと、せっちゃん自身は覚えてない。
 せやから、ウチはいつも通りに話しかけるんや!



 授業が終わって、みんなは部活へ行ったり、寮へ帰ったりと教室から出て行く。
 中には教室にそのまま残っておしゃべりしとる人も居るけどな。

 ウチは、そんな中せっちゃんに話しかける。

「せっちゃん。 今日せっちゃんの部屋泊まりに行ってもええ?」

 もちろんウチがこんな事を言うんは明日が特別な日やから。

「え? 別に構いませんが、今日は部活で帰りが遅くなってしまうんです……」

 思ったより簡単にOKを出してくれるせっちゃん。
 せやけど、せっちゃんの帰りが遅うなってまうからって、せっちゃんは少し考える仕草をしてから

「6時頃には帰れると思います。 帰ったら迎えに伺いますので、それまでお嬢様は自室で待っていていただけませんか?」
「せっちゃんの部屋で待ってようと思ったんやけどなぁ……」
「お嬢様を一人でお待たせするなんてできませんよ」

 こっそり忍び込んで待ってようかな……
 アカン、せっちゃんに怒られそうや……
 それに、カモ君から貰わなあかんもんもあるし、せっちゃん来るまで部屋で大人しく待っとこ。

「せっちゃん来るまで部屋で待っとるえ。 ほな、ウチ先に帰っとるな!」



 せっちゃんと別れたウチは寮へ帰る前にネギ君を探して職員室へ向かう。
 用事があるのはネギ君やのうて、一緒に居るカモ君なんやけどな。

 職員室に着くと、ちょうどネギ君が職員室から出てくるところやった。

「ネギくーん!」
「あ、このかさん。 どうしたんですか?」

 ネギ君の肩には目的のカモ君が!

「ちょっとな、カモ君に用があるんやけど……」
「よぉ、このか姉さん。 オレっちに用ってーとアレかい?」

 相変わらずカモ君は勘ええなぁ。

「さすがカモ君! その通りや」
「アレって何ですか……?」

 ネギ君が不安そうに首を傾げとる。

「兄貴、オレっちこのか姉さんと一緒に先に帰ってるぜ!」
「え? カモ君!?」

 カモ君はネギ君の肩からウチの肩へと飛び移る。
 そんなカモ君の行動にネギ君は更に驚いたみたいやった。

「ちょいカモ君借りるな。 ネギ君」
「あ、はい…… でも、アレっていうので二人で悪い事しちゃダメですよ!」
「ネギ君心配しすぎやでー。 別に悪い事するもんやないから大丈夫やって」

 心配性のネギ君にそれだけ言い残してカモ君を肩に乗せたウチは
 寮に向かおうとして一つ大切な事を忘れている事に気が付いた。

「あ、ネギ君! ウチ、今日はせっちゃんとこ泊まるんよ。
 でな、アスナにも言っといてくれへん? 夕飯は作っとくから二人で温めて食べてな」
「わかりました。 アスナさんには僕から伝えておきます」
「ありがとな。 ネギ君」

 伝える事は伝えたし、後はカモ君にアレを貰うだけやな。



「で、アレはどこにあるん?」

 寮に着いたウチは早速カモ君に例のアレの在処を聞いた。

「今出すから、そんなに急かさないでくれよ」

 カモ君はネギ君の部屋代わりのロフトへ行くと、何やらごそごそと漁って小さな瓶を取り出して戻ってきた。
 その瓶には『睡眠促進薬』いうラベルが貼ってある。

「なぁカモ君、『睡眠促進薬』ってただの睡眠薬とちゃうん?」
「甘いな、このか姉さん。 こんな名前でも正真正銘の魔法薬なんだぜ」

 カモ君は瓶をウチに渡しながら薬の説明をしてくれる。

「瓶の中に入ってる粉末状の薬を飲めばどんな強靭な精神力を持ってる奴でもコロっと寝ちまう優れものだぜ!
 一応取説もあるから読むかい?」
「取説まであるん? ほな、アスナ達の夕飯用意したら読ましてもらうわ」

 ウチはカモ君から魔法薬の瓶と取説を受け取って夕飯の支度を始めた。



ピンポーン

「ハーイ」

 夕飯の支度を終わらせて、魔法薬の取説を読んどるとベルの鳴る音がした。
 時計を見ると6時ちょうど。
 予告通り6時ピッタリやなんて、流石せっちゃん、時間に正確やなぁ。
 扉を開けると、思ったとおり学校から直接ここに来たんか、カバンを持ったままのせっちゃんが立っとった。

「お嬢様。 お迎えに参りました」
「部活お疲れさん、せっちゃん。 そんじゃ、せっちゃんの部屋いこか! ウチが夕飯作ったげるえ」

 ウチは簡単なお泊りセットと魔法薬の入ったカバンを持って部屋を出た。

 せっちゃんの部屋に着くまでの間、ウチらはずっと話してたんやけど、
 せっちゃんはウチのこと「このちゃん」って一度も呼んでくれへんかった……



 せっちゃんの部屋に着いてすぐ、
 ウチが夕飯を作ろうとすると部屋の奥にカバンを置きに行っとったせっちゃんが戻ってきた。

「私も手伝います。 お嬢さまだけに作っていただくなんて……」
「でも、せっちゃん部活で汗かいとるやろ? 先にお風呂入ったほうがええよ?」
「しかし……」
「汗かいてそのままにしとると風邪ひいてまうよ?」

 せっちゃんは渋々お風呂に行ってくれた。

 せっちゃんがお風呂に行ったってことはウチの傍には誰も居らんってこと。
 今のうちに、さっきカモ君から貰った『睡眠促進薬』を使っとかんとな。
 取説によると、一振りで効果が出るらしいえ。
 せやから、せっちゃんの好きな焼き魚に『睡眠促進薬』を一振りかけたんやけど、ホンマにこれだけで効果出るんやろか……



 ウチが夕飯を作り終わると同時にせっちゃんがお風呂から出てきた。

 夕飯の間、ウチはせっちゃんの様子を伺いながら食べとった。
 せっちゃんは平然と焼き魚を食べ終え、食事が終わってもまったく眠そうな素振りを見せへんかった。
 効果が出るまでには個人差があるって書いてあったけど、これは効いてないんちゃう……?

「ウチちょっとお風呂入ってくるわ、その間お茶でも飲んで待っとってなぁ」
「あ、はい。 ごゆっくり入ってきてください」

 ウチは薬を溶かしたお茶をせっちゃんに出してからお風呂へ行った。
 さすがにお風呂から出る頃には薬効いとるやろ。



 お風呂から出てみると、せっちゃんは立てた片ひざを抱えるようにして、うとうとしとった。

「せっちゃん、お布団で寝ないと風邪ひくえ」
「……あ、申し訳ありません。 寝てしまったようで……」
「ウチが手伝ったげるからちゃんとベッド入らんと」
「すいません。 お嬢さま……」

 ウチはせっちゃんを支えてベッドに寝かせる。
 これで今回の目的の半分ぐらい達成やな。
 せっちゃん、寝ぼけたりせぇへん限りいつもみたいにウチにベッド譲って床で寝てまいそうやからなぁ……
 さてと、ウチも寝ようかな。
 せっちゃんと一緒に寝るん何年ぶりやろ……?
 ウチは静かに寝息をたてるせっちゃんの横に潜り込んで目を閉じた。



 窓から射し込む朝日の明るさで目を覚ます。
 目の前にはせっちゃんの寝顔。
 この寝顔をもっと見ていたいという誘惑に囚われながらも、ウチはせっちゃんを起こさないようにそっと布団から出る。

 時計を見るとだいたい8時半。
 この時間なら、アスナもネギ君も学校に着いとるやろか。
 ウチはテーブルの上に置きっぱなしになっとる携帯電話をとって担任のネギ君に電話する。

「呼び出し音はしとるのにネギ君出えへんな……」

 出そうにないネギ君は諦めて、今度はアスナにかけ直す。
 呼び出し音が数回鳴ってからアスナは電話に出てくれた。

『このか? 何かあったの? 朝練に刹那さん来なかったし、二人とも登校してこないし……』

 やっぱ理由無いとアカンよね……
 余計な心配させてまうかもしれへんけど、ウチは用意しておいた休む為の嘘をつく。

「あ、連絡遅れてゴメンな、アスナ。 実はな、朝起きたらせっちゃん具合悪そうにしとってな……
 せやから、今日ウチとせっちゃん学校休むってネギ君に伝えといてくれへん?」
『え!? 刹那さん大丈夫なの?』
「今はぐっすり寝とるから大丈夫やと思うえ。 たぶんおじいちゃんのお願いで忙しそうやったから疲れが溜まっとったんやないかな」
『わかったわ、ネギにはそう伝えとく。 あ、ちょうどネギが来たみたいだから電話切るね』
「うん。 ありがとな、アスナ」

 アスナとの電話を切ったウチは、カモ君から貰っとるもう一つの魔法薬をカバンから取り出した。
 その薬を持ってウチはもう一度せっちゃんの隣に横になる。
 もちろん、せっちゃんの寝顔を満喫する為や。



─── side setsuna


「う……ん…」

 目を開けると目の前にはニッコリと笑ったこのちゃんが居た。
 昨日このちゃんがお風呂に入った辺りから記憶が無い……
 意識がまだはっきりとしていない私は、何をするでもなく目の前のこのちゃんの顔を眺めていた。
 ぼーっとしていると、徐にこのちゃんが私の首に腕を回してきた。

「あ、この…… かお嬢さ…っん!?」

 いきなりこのちゃんにキスされた。
 寝ぼけていた私の意識が一気に覚醒する。
 どうやら口移しで何かを口の中に入れられてしまったようだ。

 口に入れられた物が飴であると気づいた時には、時既に遅し。
 ポンっという音と共に私の体は小さくなっていた。

「おはよ! せっちゃん」
「な…… お、お嬢さま…… 何をするんですか!?」
「何ってキスやよ? ウチせっちゃんのこと好きやから」

 何気に凄いことサラッと言いすぎやで、このちゃん……
 そりゃ、私かてこのちゃんのことは好きやけど、ちっさくする理由にはなってへんよ……

「そ、そりゃー私かてこの…… かお嬢様の事は好きですが、私が聞きたいのは小さくした理由のほうです」
「あ、そっちやったん?」

 本気なのかワザとなのか、このちゃんは一回恍けた後に、少し申し訳無さそうな顔になって説明してくれた。

「何も言わないでちっさくしたんは堪忍な。
 でも、せっちゃんちっさくしたんは、ウチからせっちゃんへのプレゼントなんよ!」
「お嬢様からのプレゼント……?」

 何だろう? このちゃんからプレゼントを貰えるような理由なんて無いのに。
 そもそも、小さくなるのがプレゼントって……?
 いくら考えても私にはプレゼントを貰う理由が浮かばない。
 考え込んでる私にこのちゃんは答えを教えてくれる。

「誕生日おめでとう! せっちゃん」
「え? たん…じょう…び…?」

 誕生日を最後に祝われたのは何年前だろう……?
 小さい頃、京都でこのちゃんに祝ってもらったのが最後だったような気がする。
 ここ数年は剣の稽古やこのちゃんの護衛に力を入れていたから、
 誕生日のことなんて綺麗に忘れていた。

「やっぱせっちゃん覚えとらんかったん? 今日はせっちゃんの誕生日やよ。
 でな、ちっちゃい頃のせっちゃんのお誕生会の事とか思い出して思ったんよ。
 せっちゃん最近忙しそうやったから、
 今日ぐらいは仕事のこと忘れて昔みたいに一緒に遊んだら楽しくあらへんかなって」

 そう言うと、このちゃんも飴を舐めて私と同じぐらいまで小さくなってしまった。

「な、一緒にあそぼ?」

 あそぼ? と言われても……

 あっ!

 そこで私は重大なことを思い出した。
 たしか今日は平日……
 そこまで考えて、私は起きてから初めて時計を確認した。
 時計は無惨にも11時を示していた……

「お、お嬢様! もう11時ですよ! 遊んでる時間なんて……
 あ…… こんな姿じゃ学校行けないじゃないですか……」
「せっちゃん、せっちゃん。 大丈夫やって。 ネギ君には学校休むって伝えてあるから」

 あまりに用意周到なその一言で私は確信した。
 今日は、このちゃんと一緒に遊ぶしか選択肢がないのだ…… と。



 今、私とこのちゃんはよく一緒に遊んでいた頃の姿になっている。
 見た目の年齢としては、小学校低学年ぐらいだろうか?

「私へのプレゼントというよりはお嬢様が遊びたかっただけなのでは?」
「そ、そんなことあらへんよ?」

 このちゃんの用意していた子供服に着替えながら、私は少しだけ意地悪を言った。
 理由は私ばっかり驚かされて不公平だと思ったから。
 図星だったのか、反論するこのちゃんの表情は苦笑いだった。

 本来、従者である私が主に対してこの様な事を思うなどあってはならない事。
 もしかしたらこの姿に影響されて、考え方が幼くなっているのだろうか……?
 何事も形から入るという考え方は、あながち間違っていないのかもしれない。
 このちゃんまで小さくなってしまったから、
 無意識のうちに一緒に遊んでいたあの頃に戻ったような気になっているのかもしれない……

 今日一日は昔に戻って遊ぶのも悪くないかもしれないな。
 何より、このちゃんが楽しそうだ。

「お嬢さま、遊びに行きますよ」
「やん、お嬢さまなんて言わんといてー」
「では…… このちゃん、行きますえ」

 今だけは昔みたいに呼ぼう。
 そのほうがこのちゃんが笑ってくれるような気がするから。
 それに、私にとってはどんなプレゼントよりも、このちゃんが笑ってくれるほうが嬉しいから。

-end-



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