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「せっちゃんの羽根また見せてくれへん?」
今日は英語の補習の日ということでアスナさんを含むバカレンジャーの5名とネギ先生は今も教室で補習中のはず。
そんな理由で珍しくお嬢様の部屋で二人っきりでお茶を頂いている時にお嬢様が前振りも無くそんなことを仰った。
でも、私は自分の翼が嫌いだ。
たとえ私の翼を見て天使みたいと言ってくれたお嬢様の頼みでも、簡単には出したくない……
「私の翼はあまり縁起の良いものではありません。 残念ですが……」
「ダメなん……?」
私が断ろうとしたのを察したお嬢様がしょんぼりしながら私のことを見つめてくる。
「え、ぇっと……」
お嬢様にそんな表情で見つめられたら……
断り切れる訳、無いじゃないですか……
「はぁ……」
私はため息を吐いて背中に意識を集中させる。
普段は隠している翼を出す為に……
バサッという音と共に普段は見えない翼が姿を現す。
「ありがとうな、せっちゃん!」
さっきまでしょんぼりしていたお嬢様が嬉しそうに私にお礼を言ってくれた。
それだけでも翼を出した意味はあったかな、と自分自身に言い聞かせる。
「お嬢様には敵いませんよ…… それにしても何故急に私の翼など見たいと仰ったんですか?」
「昨日アスナと話してる時に偶々せっちゃんの話になったんよ、アスナがせっちゃんの羽根の触り心地は最高やって言うとったから……」
どうやら、元凶はアスナさんだったようだ。
「羽根…… 触ってもええ……?」
「私がお嬢様のお願いを断れるわけないじゃないですか」
「ありがとな、せっちゃん」
「ひゃっ!?」
苦笑しながら私が答えると、お嬢様は嬉しそうに私の後ろに回って抱きついてきた。
てっきり普通に触るだけだと思っていた私は情けない声を上げてしまった。
「あはは、ごめんなぁ」
背中から何故か嬉しそうなお嬢様の声が聞こえた。
顔は見えないけど、きっと笑っているんだろうと思う。
「ウチ、修学旅行の時は飛んでるせっちゃんに抱っこされとったからせっちゃんの羽根触れなかったんよ」
「言われてみれば私の翼に触るような時間はありませんでしたね」
「そーなんよ。 だからずっと触ってみたかったんや」
お嬢様は私の翼に顔を埋めるようにしているようだ。
「やっぱアスナの言ってた通りせっちゃんの羽根気持ちええなぁ」
私はお嬢様に翼を触られて嬉しい反面、自分の嫌いな場所を触られている嫌悪感に襲われていた。
「あ、あの…… お嬢様? そろそろしまってもいいですか?」
「あ、うん。 ええよ」
背中からお嬢様が離れたのを見計らって翼をしまう。
翼が無くなった背中にまたお嬢様の感触を感じた。
お嬢様の腕が首にまわされ私は後ろから抱きしめられる形になっている。
「ねぇせっちゃん…… せっちゃんは自分の羽根嫌いなん……?」
「ぇ……?」
自分の羽根が嫌いかって……?
好きなはずないじゃないですか。
この翼は私が化け物である証のようなもの。
それに、色が白い所為で烏族からも異端として扱われた。
この翼の所為で今まで何度辛い思いをしてきた事だろう……
私が返答できずに考え込んでいると少し慌てた感じでお嬢様は言葉を続けた。
私が黙って俯いてしまったので心配したのかもしれない。
「ウチはせっちゃんも、せっちゃんの羽根も大好きやよ。 真っ白で…… 綺麗で…… 天使みたいな羽根。 せっちゃんが何であってもウチがせっちゃんを好きなことは変わらへんよ?」
お嬢様は、そう言って私の首に回している腕に力を入れて、より一層強く抱きしめてくれた。
やはり、お嬢様には敵わないな……
私が心配していた事をお嬢様は全て受け入れてくれる。
そんな貴女だから私も好きになったのかもしれませんね。
でも……貴女に好きと言われても、私自身は好きになれそうも……
「それにな、ウチはその羽根のお陰でせっちゃんに会えたような気がするんや」
お嬢様の今の言葉で、小さい頃考えていたifを思い出した。
もしも、私の翼が黒かったなら……
もしも、翼が生えていなかったなら……
もしも、私が普通の人間だったなら……
幼い頃の私はこのifの先には幸せしかないと思っていた。
でも、今の私には分かる。
このifの先には『このちゃん』が居ない。
もしも、私の翼が黒かったなら、私は烏族の里を追い出されずに里で暮らし続けただろう。
もしも、翼が生えていなかったなら、不吉な白い翼が無いのだから烏族の里で暮らしていたかもしれない。 もしくは人に紛れて普通に暮らしていたかもしれない。
もしも、私が普通の人間だったなら、関西呪術協会とは全く関わらない場所で暮らしていただろう。
私の翼が白かったからこそ、私は烏族の里を追われ、長に拾われたのだから。
『近衛木乃香』とどこかで偶然会う事はあるかもしれない。 けれどそれは『このちゃん』じゃなくて全くの他人。
『このちゃん』の居ない人生なんて考えたくない!
私は首に回されているお嬢様の腕に自分の手を重ねて私の中で出した結論を告げる。
「私は小さい頃から自分の翼が嫌いでした。 でも今のお嬢様の言葉で大切な事に気付かされました」
背中越しにお嬢様が驚いたような気がした。
さっきの台詞はそこまで考えて言ったわけじゃなかったのかもしれない。
そんなお嬢様に構わず私は言葉を続ける。
「私の翼が白かったからこそ、私はお嬢様に出会うことができました。 お嬢様の言う通りなんですよ。 だから私も……」
すぐには好きになれないかもしれない。
だけど、お嬢様と会うきっかけをくれた白い翼。
そう考えれば、少しは好きになれるかもしれない……
「私も、大好きな人に会うきっかけをくれたこの羽根を好きになれる気がします」
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