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76 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/10(土) 00:10:09 ID:4eQOz9Xr
桜咲刹那は現在困っている。
その原因は麻帆良祭において開催された「まほら武道会」に出場したことだ。
この武道会に参加した主たる目的は裏で手を引いてあるであろう超鈴音の企みを探ることにあった。その目的は果たせなかったが、明日菜、エヴァンジェリン、ネギと闘うことで得られたものは刹那にとって大きなものであり、刹那個人としては有意義なものであったといえる。
その後知名度の向上によりしばらくの間時の人となったが、日が経つにつれ周囲は沈静化していき、半月が経った現在では麻帆良祭以前と変わらぬ日々を送れるようになった。ある一点を除いて。
その一点とは部活動であり、現在進行形で刹那を困らせている全てがそこにある。

77 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/10(土) 00:13:34 ID:4eQOz9Xr
剣道部に所属する際、刹那は部員や顧問にある説明をしている。
―京都の個人道場で剣道を習っていた。
―他流試合が一切禁じられている。
―その為試合には出られないし練習での手合わせもできない。
要約するとこの三点になる。実際には京都神鳴流にそのような制限はない。
むしろ活発に他流を学ぶ傾向にある。武器を選ばずとはよく言ったものだ。
生真面目な刹那には、手合わせで手加減など出来ようはずもなく、それを自覚した上で考えた苦肉の策であった。
変わり者の多い麻帆良学園だからであろうか、この条件はすんなり受け入れられ、無事剣道部に所属できた。
部活動で得られた仲間との触れ合いは刹那の宝物といっても良い。
修学旅行前までの刹那にも、部活動の仲間とは笑顔で話す場面がよく見られた。
そんな中で行われた、まほら武道会。その舞台でどれほど高度な戦闘が行われていたのか、一般人の目には理解できなかったであろう。
だが、その舞台に立ち闘った者たちの持つ図抜けた力量は伝わった。当然剣道部員にも、である。
そして現在。刹那はとても困っている。

78 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/10(土) 00:15:02 ID:4eQOz9Xr
「この通り!お願いだからぁ。ね?」
「そう言われましても…」
放課後、校舎の廊下を歩いていた木乃香は目的地の近くから聞こえてきた声を耳にして立ち止まった。
剣道部部室がもうすぐ見えようか、という所である。
前者の声に、なぜかイラつく。誰だったろう?少なくともクラスメイトではないように思えた。
立ち止まったのは、聞き間違えるはずのない後者の声にひきつけられたからだ。
木乃香の心を常にざわめかせるその声は、何だかとても困っているように聞こえた。

79 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/10(土) 00:17:29 ID:4eQOz9Xr
「どしたん?せっちゃん」
「あ、お、お嬢様!」
わたわたと慌てる刹那。白い頬に朱が差す。いい加減慣れてもいいだろうに、未だ木乃香に対する過剰反応は治まらないようだ。
普段の木乃香ならその姿に、抑えきれない、抑える気もない満面の笑みを向けたであろう。
その笑みは刹那と共にいた女生徒を見て急速に引っ込んだ。イラつく声の正体。
過去二年間、正確には修学旅行前まで、刹那と共に笑い共に汗を流し、クラスメイトの龍宮真名を除けば刹那の一番近くにいた女。
剣道部部長がそこにいた。過去に自己紹介されたが名前は覚えていない。覚える気も無い。
「あ、木乃香さん!こんにちは!」
「こんにちは、ブチョーさん。ちょうせ」
っちゃんに用があるから、つれてってもええ?
と続くはずの言葉は突然肩をつかまれ揺さぶられて中断された。
「木乃香さんからもお願いしてもらえないかな!刹那さんに。
大会までの間だけでいいから、稽古つけて欲しいんだよね!みんなに!」
「ちょ、部長っ」
刹那は一瞬浮かんだ殺意を仕舞い込みつつ、やんわりと、だが有無を言わさずブチョーの手を木乃香から引き剥がした。
ブチョーは気にする風もなく手を握られたまま続ける。
「いーじゃん、他流試合禁止令解かれたんでしょ?」
「それはまぁ、そうなんですが…」
部に所属する際、他流試合は禁じられていると宣言したにも関わらず、
武道会で堂々と他流試合をしていた刹那が、苦しい嘘を取り繕うためについたこれまた苦しい言い訳である。
言質を取られた刹那は大会出場こそ辞退したものの、
それならばせめて稽古をつけて欲しいと請われ続けていたのだった。
刹那は困っていたのだ。

80 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/10(土) 00:20:58 ID:4eQOz9Xr
「…まで…」
「え?」
不意にもれてきた声に、ブチョーがたじろぐ。
「いつまで、」
「お嬢様?」
これまで感じたことの無い圧迫感を覚えた刹那は危険を感じ、その発生源から部長をかばう位置に無意識に動いた。
護衛のサガであろうか。しかしそれは圧迫感を増強する結果になった。
「いつまで手ぇ握っとるの…?」
声はあくまで静かだった。その表情も決して怒りに満ちたものではない。
むしろ悟りを開いた菩薩のような静かな笑み。
そう、悟りを開き、情けも容赦も捨て去った者の笑みがそこにあった。

―刹那さん固まってた…。結局、木乃香さんが私たちの手を丁寧にほどいて、
刹那さんと腕組んでね。ほなな、ブチョーさん。て言って、刹那さん連れて行ったの。
わたし、何もできなくて。見送ることしかできなかった。
木乃香さんがね、刹那さんの耳元で、だけどわたしにも聞こえる声でね。
覚悟できとるよね?って。
そこまで言うとブチョーは震え、それ以降は口を閉ざした。
三日ほど姿を見せない木乃香と刹那を心配した3-Aクラスメイトの明日菜、担任のネギが
聞き込みを重ね見つけた、恐らく最後に二人に会った人物、剣道部部長の証言である。

その二日後、二人は何事も無かったかのように登校を再開した。
二人は何をしていたのか。尋ねられない空気は普段空気を読めない明日菜でさえ感じ取れたが、
あえて空気を読まず、尋ねた。五日もどこでなにしてたの!と。
木乃香は曖昧に笑い、刹那は―――結局、困っていた。

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