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217 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/29(木) 11:54:39 ID:DSF+B2Rp

しとしと、ぽちゃん。
雨と言えばそんな音が頭の中に降り注ぐ、たいていはそう。
朝方はどんよりねずみ色の雲が空をゆらゆらと泳いでいた。
サーと静かに滴る雨がこの小さな折り畳み傘を優しく撫でた。
不思議と気分は清々しい。
その理由は分かってる、きっと・・・

予感がした。

「バイバイ、木乃香」

同室の彼女は部活に行くらしい。
珍しい、なんて怒鳴られることを知っていて言うはずがない。
だけど言ってしまう。

「うっさいわねー」


218 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/29(木) 11:55:12 ID:DSF+B2Rp
その後の笑顔が自分にはない綺麗さを帯びているから。
後姿に手を振って階段を降りる。
カバンから傘を取り出して、以前まで少し億劫に感じていた。
今はちょっぴり嬉しい。
あなたからもらったものだから。
あなたが選んだものだから。

自分色、なんやって。

「お嬢様っ」

玄関にあったのは予感だった。
何でという前に笑顔が自然と零れてしまい少し気恥ずかしい。
彼女はそうとも知らず人懐っこい笑みを浮かべて訪れを待った。
すぐ行くから、そんなうずうずせんの。こっちが照れるやん。
下足箱、自分の2つ下に彼女のがある。
いつも、この距離感がたまらなく切なかった。
今も、思い出す。

「せっちゃん、」
「はい・・・?」
「・・・雨、降っとる?」

219 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/29(木) 11:55:44 ID:DSF+B2Rp
彼女は目線を外に向けた。
その間に、これを消すから、ちょっとだけ、ね。

「はい、今朝よりちょっと強いくらいですね」
「そか」

学校指定の靴を履いて彼女の隣りに立つ。

「ほな、行こか」
「はいっ」

くすぐったそうに笑う。
それが子どもっぽくて、可愛くてついもらい笑い。
ほんと、もっと早くこんな雨の日を迎えられていたらな。

なんて。

帰り道、いつも通りのそれなのにどうしてか違う気がした。
さっきまでどっちかと言えば憂鬱に浸っていたのに心は違って。
この雨とは不釣合いなくらい晴れ晴れとしている。
それは彼女の傘も同じで、彼女のは白に近い水色。
それはまるで晴れた空だ。

220 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/29(木) 11:56:15 ID:DSF+B2Rp
「せっちゃん、今日部活やなかったっけ?」
「え・・・あ、はい。でも、なくなったんです」
「へー、そやったん」
「はい」

あれ、と思い彼女の横顔を見つめた。
そこには普段の何気ない会話から生まれる笑顔に過ぎなかったが、
やっぱりどこが大人びたようなそれに思えた。
不意に行かないで、と誰かの声が聞こえた。
雨の、音。

「嘘です」
「え?」
「ほんとは、さぼりです」

せっちゃん?と首を傾げると彼女は申し訳なさそうにこちらを振り向いた。
まるで母親に叱られている子どものように肩を竦めて。
次に紡ぐ言葉が瞬間的に分かってしまった。
だから、先に言うね。

「なー、せっちゃん」
「はい・・・」
「ウチのひまわり、もういっぱいお水飲んだんやて」
「は?」
「せやからな、もうこれ差せへん」
「お、おじょうさっ――」

221 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/05/29(木) 11:56:46 ID:DSF+B2Rp
パサッと傘を閉じた。
全身にいくつもの小さな滴が降り注ぐ。
制服に点々と濃い染みが広がり、髪もしっとりと濡れていく。
目を閉じた。

「あーさむい」
「あ、あの・・・」
「さむいなー、むっちゃさむい」
「お嬢、さま・・?」

駄々っ子のように突っ立ってその場を動こうともしない自分を
彼女がどうするか、瞼の裏に思い描く。
まずおどおどして、それから一歩踏み出して、それから・・・
傘を打つ雨の音が真上にした。
そして頬に感じるぬくもりは紛れもないあなたの手。

「風邪、引いちゃいますよ」
「平気。せっちゃんがあっためてくれるんやろ?」

へへ、と笑って彼女の華奢な腕にしがみつく。
ぴくんと一瞬震え、すぐにそれがほぐれた。
ギュってしてくれた。

「ありがと、せっちゃん」

おおきに、あったかい。


おわり。


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