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249 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/06/05(木) 00:54:43 ID:W7PpXLpL
「せっちゃんは、ウチがおらんとき寂しかった?」

え、と振り向くとそこには見たこともないような憂いた顔があった。

宿屋の1室には2つほどのベッドがありそこに刹那と木乃香は眠った。
あまり立派とはいえないベッドではあったが今までの野宿生活を考えると
そうも言ってはいられない。むしろちょっとした幸せを感じた。
これはベッドのせいでも、久しぶりに食べた食事らしい食事のせいでも
ないことは分かっていた。

真夜中、なぜかパチッと目が覚めて目を凝らすとベッドのすぐ横に
佇む人影がいた。
刹那は驚いて身を起こしその影に向かって声を掛けた。

「どうしたんです、お嬢様・・・?眠れないのですか」

何も答えようとしない彼女を窓から月の光が照らした。
どうしてだろう。
無表情のそれはひどく寂しげで、今にも泣き出しそうな空に似ていた。

250 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/06/05(木) 00:55:37 ID:W7PpXLpL
刹那は無言でそっと移動し隣りにもう一人分のスペースを空けた。
布団をずらして彼女を見上げると察したのか、彼女は「お邪魔します」
とちょっぴり照れた風にささやいたのが刹那には聞こえた。
彼女に気付かれないようクスッと笑うと刹那は布団を掛けてやった。
くるっと半回転して木乃香は刹那の方に顔を寄せて目をつむった。
刹那はなんとなく落ち着かなくて天井を見上げた。
そして、彼女が言った。

「せっちゃんは、ウチがおらんとき寂しかった?」
「え・・・」
「ごめんな、こんなこと急に言ってもうて・・・昼間もびっくりしたやろ」
「い、いえっ、そんなことは・・・ちょっと、びっくりはしましたけど」

その続きは飲み込んでしまった。ここで言うべきではないと瞬間思った。
木乃香はちょこん、と刹那の二の腕の上の方に鼻先をくっ付けた。
彼女がこちらに目線をやった気配がして、また目を閉じた。

「ウチ、せっちゃんがおらんでも大丈夫や、一人でも平気、強なったから。
そう思て過ごしてきた。せやけどな、楓に無理して我慢する必要ない、言われて」

みんなそれぞれ頑張ってるんだ、泣くわけにはいかない、明日にはきっと会える。
そう毎日自分に言い聞かせてちくちく痛む心の声を無視してきた。
それはだんだんと大きくなって、ついには無意識に顔に出るようになった。
朝起きると必ず顔に泣いた痕があってごしごしと服の袖でこすってた。

251 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/06/05(木) 00:55:59 ID:W7PpXLpL
「せっちゃんは一人かもしれへんのにウチが泣いたらアカン。楓がおるのに
弱音吐いたらアカン。ずっと押し殺してたんよ、・・・せっちゃんはどやった?
明日菜とおったから寂しなかった?ウチがおらんでも平気やった?」

布団の中に落としていった言葉はちゃんと彼女の耳に届いただろうか。
そんな疑問は無駄だったと分かったのはそれからすぐだった。

「実は、何回も取り乱してしまったんです。お恥ずかしながら我を忘れて
泣き叫んだり、しょっちゅう明日菜さんのことをお嬢様と呼んだりして。
明日菜さんにはいっぱいご迷惑をお掛けしました」
「ふふ・・・見たかった」

このとき彼女が頬を染めたことを木乃香は見なくともわかっていた。

「でも、もうそんなことしなくていいんだと思うとなんか、」
「・・・変な感じ?」

刹那が木乃香の方に体を向け、二人は対面した。
こんなに顔を近づけたのはいつ以来だろう。
ああ、昼間以来か、と木乃香はひとり笑んで刹那は不思議そうにする。

「なぁ、せっちゃん、寂しかった?」
「はい。寂しかったです・・・たぶん」
「たぶんってなんやのー!むぅ・・・」

せっちゃん?

突然頬を撫でる優しい感触は紛れもない目の前の彼女からのものだ。
その手を幾度となく思い浮かべては目の前が霞んでいった。
もうそんなことはないはずだったのに、どうしてだろう。またかすむ。

「もう、我慢しなくていいんですよ。わたしはここにいますから・・・
今、わたしはお嬢様の目の前にいますから。だから、」

252 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/06/05(木) 00:56:26 ID:W7PpXLpL
その手に涙が伝うことはなかった。
代わりにそれは枕を濡らし、そして刹那は手を頬から離し広げた。

「泣いてもいいんですよ。いくらでも、貸しますから」

その胸に木乃香は飛び込んだ。
泣き声が刹那の中に振動として流れ込み涙は今度は胸元を濡らした。
じんわりと濡れた感触を感じ、刹那はゆっくりと彼女の髪、背中を撫でていく。


「このちゃん、ごめんね」


もう離さない・・・
強く、彼女を抱き寄せた。



おわり


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