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751 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 20:43:27 ID:4TfQNY+D
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耳につくうっとおしい雨音を聴きながら、天を仰いだその目線に入る曇った空にいくつか呪詛を吐いた。止む気色も、弱まる気色も無く地面を打つ雨がうらめしい。
自分を横切る生徒の手には傘。自分の手には夕凪を入れた竹刀入れのみ。
前方へ一歩踏み出せば雨の洗礼を受けるだろう。もっとも、後退しても何の解決にもならないが。
お天気お姉さんは「本日はさっぱりとした陽気になるでしょう」と爽やかな笑顔と共に 告げたのに、これはどう言う仕打ちなのだろう。
お姉さんの「さっぱり」とは「さっぱり〜ない」の略なのだろうか。
自然に寄っていた眉に水滴がぴちゃんとついた。制服の袖で乱暴に拭う、この雨も、それで拭えれば越した事はないのだか。
現在地 麻帆良女子中学校 中央玄関。天候軒並み最悪なタイミングで雨。
走ろうか、弱まるまでまとうか、迷っている桜咲刹那が一人。
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雨と言う天候が好きか嫌いかと聞かれれば、嫌いだと答える。
服に水滴が付けば張り付いて不快だし、足取りは重くなる例え晴れても、その日の土壌は最悪だろう。百害あっても一利なし。
「……ああ、もう」
口の端から漏れた、固形物のようなため息。走ろうか。
均衡状態を保っていた天秤が少し揺らいだ。此処にいても情況が好転しないだろうと踏む。お天気予報なんて鵜呑みにした私が愚かだったのだ。
けれど、あと一歩が踏み出せないのも、事実。
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752 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 20:44:35 ID:4TfQNY+D
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「あ……せっちゃん?」
背後からかけられた声。振り返らなくても、易々と想像できた声の主。息を整えて、振り向きざまに相手の名を呼ぶ。
「木乃香お嬢様」
視界に入る烏の濡れ羽色の髪。やんわりと口の端がかたどる笑みは、雰囲気とシンクロしているようだ。
「どうしたん?こんな所で」
軽く首を傾げ、丸っこい目を私に向けた。その拍子に動く、よく手入れされた長い髪。
「はあ……それが「ストォオオオップ!!」
理由を言いかけて、止められた。目を皿のようにさせて思わず口をつぐむ。
「まって!ウチが当てるから!」嬉々とした表情で言うと、んー…と顎に手を当て、木乃香お嬢様はもはや既成された思考のポーズを取った。時代遅れのシャーロックホームズでもしませんよ、そんな仕草。
んー……と再度唸ると、木乃香お嬢様は上から下へ視線を這わせて、それを私の手元で止めた。
あ、の短い声が出て、ポンッ、と手を打つ。もう洗礼されたデフォルメ行動ですね。
「傘忘れたんやろ?」
返答の仕方は非常に簡単で、しかしそれ故にとてもこっぱずかしい。言い出しにくくて俯いた顔をんー?と覗き込んでくるから、尚更。
その状態が何秒か続いて、結局私の方が折れた。
「……はい」
蚊の鳴くような声だったけれど、確かに相手には聞こえたようで、ドジやなぁ、と明るい苦笑を伴う声が熱い耳へと入って来た。
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753 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 20:45:05 ID:4TfQNY+D
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「こ、ここ木乃香お嬢様…!これは……!!」
広げた傘に2人が入る。俗に言う相合傘。世間からずれた位置にいる私でもこれ位知っている。勿論どんな間柄の人間がこの行為に及ぶのかも。
「ええねんって。ウチの傘大きいし」
いえ、そう言う問題では…!!言いかけて、事に気付いてさらに申し訳なくなった。
「そんな!肩が濡れます!」
現に濡れている。制服の色が右肩だけ少し違うのがその証拠。風邪を引かれてはっ……眉間によったしわ。端が折られた言葉。
視界に映るのは木乃香お嬢様の笑顔
「せっちゃんの肩も濡れるやろ?おあいこやって」
ああ、なんて、幸せな事を言ってくれるんだろう。その一言で救われる。けれど、その一言に甘えてはならない事も重々承知。
「私は走って帰ります!」
言い切って、傘から抜け出そうとすれば、摘まれる右手。必然的に止まる足。
「……っ」
「せっちゃん」
名前を呼ばれただけなのに、言い返せない。反論する言葉を声にごっそり丸ごともっていかれた。真直ぐな目線、ほら、もう、そらす事が出来ない。
「せっちゃん」
「……はい」
鶴の一声ならぬ木乃香お嬢様の一声。自分に対しての絶対的な発言力を持つから、よけい性質が悪い。雨の気色は先刻と変わらず降り続き、弱まるを知らず強まるを知らず。
触れ合う肩の温かさよ。
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754 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 20:45:41 ID:4TfQNY+D
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「せっちゃん」
「はい」
「雨、降るねぇ」
「…そうですね」
2人同時に天を仰いだ。曇った空に見えないお天道。落ちる水滴は相変わらず服に張り付いて不快だけれど、
「せっちゃん」
「はい」
「せっちゃんは、午後から雨の日やったら、傘持って込んでいいよ」
「……はい」
もつれる足と比例して長くなる寮までの距離。それでも、長くなればそれだけ相手を身近に感じれると言う事で。
雨の日も案外いいかも知れないとふと思う。自分の変わり身の早さと現金さに苦笑をもらせば、隣でん?と首を傾げる愛しい人。
なんて事無い雨の日の一幕。日常の中のささやかな幸せの時間。
しとしとぴっちゃん しとぴっちゃん。雨雨降れ降れ もっと降れ。
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