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779 名前:イヴ即席SS[sage] 投稿日:2008/12/24(水) 23:50:25 ID:93U5ecgk

ひどく鼓動が高鳴っている。
明日のために寝なければいけないのだが、鼓動が邪魔で寝れない。
もう学校は昨日から冬休みなのだが、ベッドに転がる少女――刹那には、
退魔の仕事などやることはいっぱいあるのだ。

「・・・・むう」

刹那は胸を押さえて寝返りを打つ。
同居人はいない。
同居人は何やら小荷物を持って昼に出かけていったきりだ。
一人きりの静かなこの空間が、妙に怖い。

(なぜこんなに・・・・不安なんだ・・・・?)

なぜこんなに、この空間が不安で恐ろしいのだろう。
今日は何事もなかったはずだ。
クラスメイトとも話す事はなかったし、幼馴染とも少ししか話さなかった。
学寮内の生徒たちは、実家に戻る準備やクリスマス会の準備でバタバタしていた。
もちろん刹那の幼馴染――木乃香も例外ではなかった。
木乃香は実家に戻る事は無いようだが、クリスマス会の準備にかり出されていた。

『せっちゃん、クリスマス会出るやろ?』
『いえ・・・・すみません。明日予定があるので、早めに寝ようと思っていて・・・・』
『そうなんや・・・・あ、そや――』
『このかー、はやくー!』
『あ・・・・堪忍な、せっちゃん』

――ズキッ

幼馴染の木乃香がその場を去ることに、なぜか胸が痛んだ。
そして幼馴染が去った後に周りに誰もいない――そんな自分がとても哀れに見えた。
幼馴染の周りにはあんなに人がいるのに、なぜ自分は無意識に皆から一歩退いているのだろうか。
修学旅行が終わってから随分と打ち解けてはいたが、木乃香がいなければ周りとあまり話さないのは相変わらずだった。


780 名前:イヴ即席SS[sage] 投稿日:2008/12/24(水) 23:51:52 ID:93U5ecgk

(準備を手伝う気にもなれない・・・・今日は部屋に戻ろう・・・・)

そこから先のことは特に覚えていない。
クラスメイトに会わないように部屋に逃げてきたから。
逃げ回る私はとても情けなかったに違いない。

「・・・・くっ」

胸の痛みを和らげようとするためか、身体は自然と泣き出した。
呼吸に困難を感じて息を吐けば、それには嗚咽が混じる。
それは怪我の痛みで流す涙とは違った。

(私は一人で大丈夫だったじゃないか・・・・お嬢様が無事でいてくれれば・・・・お嬢様が、いれば・・・・)

だがその木乃香は自分のものではない。
ずっと自分の所にいてくれるわけではない。
木乃香の周りには自然と人が集まる。
人柄がいいから・・・・それは当然の事だ。
だがそれが刹那の心を痛めた。
木乃香がいなければ、自分は周りに気にも止められないから。

(お嬢様がいなければ・・・・私は変わっていた? ・・・・何を考えてるんだ・・・・!)

周りのお祭り騒ぎに刺激され、自己主張を始めた心。
主である木乃香にすらも嫉んでしまう。
自分で選んだ道なのに、自分より木乃香を選んだのは自分なのに・・・・。
矛盾に自己嫌悪し、布団の中でもがく。
誰もいない暗闇である事が唯一の救いだった。

(私は、皆と・・・・お嬢様・・・・、このちゃんともっと仲良くなりたい――)

そう、"私"として。
従者ではなく、半妖でもなく。
"唯一無二の存在"として、木乃香の元にいることが出来たなら・・・・。
そうしたら彼女は、私の想いに答えてくれるだろうか?


781 名前:イヴ即席SS[sage] 投稿日:2008/12/24(水) 23:52:53 ID:93U5ecgk

――私のことだけを見てくれるだろうか?

ダンッ!

邪念を振り払うように、敷布団ごとベッドを叩いた。
所詮出来るはずがない。
思っただけですぐ変われるなら、誰も苦労はしないんだから。

(キリがない・・・・呪術で意識を落とそう・・・・)

朝になればきっと、いつも通りの自分がいるから。
刹那は意識的に自身の魔法抵抗力を下げる。
そして札を取り出して、睡眠の呪術を自らにかけた。

*

「せっちゃんー、おきとるー?」

呼び鈴を鳴らしてみるも、幼馴染の反応はない。
もう寝てしまったのだろうか?
いや、例え寝てても呼び鈴を鳴らせば起きるはずだ。
彼女はそこまで眠りが深くないはずだから。

「おっかしいなぁ・・・・ありゃ、カギあいとるやんー」

何気なく手をかけたドアノブを押し引くと、ドアは何の抵抗も無しに開いた。
悪いとは思いつつも、真っ暗な部屋に明かりをつけて奥へと進む。
部屋の奥には布団にもぐる幼馴染がいた。

「せっちゃん、具合悪いん?」
「・・・・すぅ」
「せっちゃん? ・・・・珍しいなぁ、熟睡してるん・・・・?」


782 名前:イヴ即席SS[sage] 投稿日:2008/12/24(水) 23:55:32 ID:93U5ecgk

修学旅行で仲直りしてから、共に寝ることは珍しくなかった。
しかしここまで深く眠っている事は初めて。
木乃香が夜中に少し意識を覚醒させただけで、その気配に気付いて一緒に起きるほど彼女は眠りが浅いのだ。
ふっと木乃香は刹那の目尻が赤いことに気付いた。

(せっちゃん・・・・泣いてた?)

一度立ち上がって、持ってきたケーキとプレゼントをテーブルに置く。
時間を見ると、まだ20時。
刹那がまだ起きてると思って、クラスのクリスマス会を抜け出してきたのだ。
もちろん、刹那と二人っきりのクリスマス会をしようと思って・・・・だ。

「せっちゃん? なんかあったん・・・・?」

刹那の髪を撫でながら、先ほどよりも近い距離で顔を見つめる。
頬にはまだ乾ききっていない雫の後、手元には魔法に使用する札。
それはついさっきまで泣いていた証拠だった。
幼馴染が無理やり自らを眠りにつかせていた事に、木乃香も気付く。

(せっちゃん・・・・一人で泣くタイプなんやな・・・・)

滅多に見ない涙に、木乃香はどうすることもできなかった。
何が辛かったのだろう。
泣くほど辛い事があった幼馴染に気付く事が出来なかった自分が嫌になってくる。
昔も・・・・泣いて謝る刹那に何もしてあげられず、結果離れ離れになってしまった。

「せっちゃん・・・・」

本当ならばアーティファクトで起こして、謝って・・・・できるなら、抱きしめたい。
でも刹那を起こすのは悪い気がした。
クラスでのクリスマス会よりも――自分よりも、刹那は仕事を選んだのだから。

「せっちゃーん、手作りのケーキなんやよー?」


783 名前:イヴ即席SS[sage] 投稿日:2008/12/24(水) 23:57:08 ID:93U5ecgk

反応はないとわかっていても、話しかけずにはいられなかった。
きっと答えはこう。
――さすがはお嬢様です。

「せっちゃんは、クリスマス会とか嫌い?」
『嫌いではないのですが・・・・まだ慣れていなくて』

返ってくる言葉は予想できるのに、なぜ心はわからないのか。
刹那の横に寝転がって寝顔を見つめる。
何が悲しかった?
ウチでは力になれなかった?

「堪忍な、気づけへんで・・・・。いつも傍にいてくれるから・・・・思いあがっとった」

忙しさで時間があっという間に過ぎて、気がつけば刹那が傍にいなくて。
きっと仕事の準備で忙しいんだろうと思っていた。
でもいつまでたっても戻ってこなくて、不安になって・・・・。
もっと早く来ていれば、刹那は一人で泣いてなかったかもしれない。
傍で助けになれていたかもしれない。

「なぁ、もし・・・・もしな・・・・」

そっと刹那の手を引き寄せて、それを胸に抱きしめる。
暖かい手に少し安心して、木乃香は目を閉じた。

(ホンマにサンタさんがおったら・・・・ウチ、せっちゃんの心がほしい・・・・な・・・・)

暖かい温もりと優しい香りが、木乃香を夢の中へと誘う。
きっと目が覚めたら、そこにはいつも通りの刹那がいて・・・・驚いた顔で起こしてくれるに違いない。
その時に試しに言ってみようか。

『せっちゃんの心をください』と。


FIN


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