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◆yuri0euJXw 氏
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155 名前:1/3 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2008/05/17(土) 17:52:48 ID:rFEAwwGk
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咳込むたびに頭が割れるように痛む。
私は、だるい体を天井へ向けた。
こんなに酷く風邪を拗らすなんていつ以来だろう。
思考力の落ちた頭で記憶の糸をたぐり寄せるがその動きは緩慢だった。
キッチンから小気味良い軽快な音が聞こえてくる。
誰かがいることがこんなに安心できるなんて‥‥。
お嬢様の楽しそうな鼻歌を聞きながら、私は一つの記憶にたどり着いた。
◇◆◇
「まぁ、ヒドい熱どすなぁ。」
濡れた手拭いを搾りながら幼子の額にのせ、木乃香の世話人が呆れたように言った。
それは決して悪意のものではなく子供に向けた優しい愛情が込められていた。
「ほな、ゆっくり休みなはれ。旦那様にはウチから言うときますよって。」
静かに障子戸を閉めると人の気配が遠退いていった。
「せっちゃん。堪忍な。」
木乃香は刹那の小さな手を握り締め心配そうに顔を覗き込んでいた。
熱でクラクラするなか刹那はその手を握り返した。
「このちゃん。堪忍な。迷惑かけてもうて‥‥。」
ケホケホと咳込みながら幼い刹那は木乃香に言った。
刹那は少し熱っぽさを感じていたが、木乃香が心配するので、一緒に遊びに出たのだった。
案の定、木乃香の屋敷内で目眩に襲われ倒れてしまい、慌てた木乃香が泣きながら世話人を連れてきて、木乃香の屋敷の一間に休むこととなったのだった。
刹那にとって幸か不幸か熱が落ち着くまで木乃香の元に留まることとなったのだった。
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156 名前:2/3 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2008/05/17(土) 17:53:10 ID:rFEAwwGk
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◇◆◇
あの頃‥‥以来かな?こうして熱に浮かされるなんてことは‥‥。
私はキッチンにいるお嬢様の姿を目だけで追った。
なぜか嬉しそうなお嬢様は、満足げに味見をしていた。
軽く咳込みながら私は自分のことを思った。
強くなりたいと思ってきた。でもお嬢様と情を交わした自分は弱くなってしまったのだろうか。
心細さが身に染みていたときのお嬢様の来訪。
取り乱してしまいそうだった自分。
甘えているのかな?
ゴロンと寝がえりをうつ。幾分肺が楽になった。
もう止めよう。頭がガンガンしてよく考えがまとまらないや。
「はい。できたえ〜。」
私はフラフラと体を起こして体勢を整えようとしたがまた酷く咳込んでしまった。
見かねてお嬢様が咳止めを下さる。なぜか子供用のシロップ。でも私には懐かしい味だった。
お嬢様との記憶につながる昔懐かしい甘い味。
「済みません。ご迷惑をおかけして‥‥。」
咳込む私の背を撫でていたお嬢様の手が、私の頭を優しく撫でた。
「またそういうこと言う〜。」
そのまま抱き寄せられお嬢様の胸に包み込まれる。
「安心してええよ。今度こそウチが治したげるからな。」
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157 名前:3/3 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2008/05/17(土) 17:53:32 ID:rFEAwwGk
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あの頃、泣きながら私を看病してくれたお嬢様は、必死に「ウチが治したげたい。」とそう言っていた。
覚えていて下さるのだ。幼い頃の私との記憶を。
お嬢様は熱いおじやをフウフウと吹き冷まし私の口へ運ぶ。そして私はそれを口にする。
熱のせいで味はわからないはずなのに温もりが体の隅々まで広がる。
「ほな、ゆっくり休んどき。また様子見に来るから。」
お嬢様は私の顔を撫でながらそう言った。
優しい微笑み。でも私の中にこみ上げてくるのはどうしようもない寂しさだった。
いつもなら黙って送り出せるのに、私は差し出されたお嬢様の腕を必死に捕まえた。
「‥‥っ、行かないで、ひ‥‥一人にしないでくださ‥‥。」
言い切る前にまた咳込んでしまった。
どうにもかっこ悪い。
でも,お嬢様に傍にいてほしかった。あの時は風邪がうつるからと途中で引き離されてしまった。
廊下から心配そうに覗くこのちゃんが印象的で,早く治さなきゃって‥‥そう思って。
でも今は‥‥。
お嬢様のために距離を置かないとと思いつつも,自分の欲望に抗えないのは,やはり熱のせいなのだろうか。
「今日のせっちゃんは,甘えんぼやねぇ?大丈夫や。うちがそばにおる。安心しいや。」
私の額を撫でるお嬢様の手が優しくて,心地よくていつしかそのぬくもりに包まれて私は眠りについた。
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