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832 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/19(土) 12:40:07 ID:OG9xJjKa
刹那の部屋で行われる勉強会。勉強があまり得意でない刹那にとって
授業以外で行う勉強は苦痛以外なにものでもないが,木乃香が自分を
補うといったシチュエーションに励まされ,いつからか木乃香の個人
教授が日課となっていた。

「せっちゃん英語苦手なん?」
「はあ、まあ...」

こともあろうに担当クラスの英語教師は”英語で寸劇をやりましょう”
などというとんでもない宿題を決め,木乃香と刹那はその特訓をしているのだった。
なぜか英語の授業の癖に,演技力まで審査対象となっており(審査員は生徒たち)
成績優秀者にはなんととびきりな特典がついてくるのである。

そのため,台詞は暗記,身振り手振りにも気を配り,とんでもないハイレベルな
寸劇大会が行われることになってしまったのだ。

「せっちゃん,英語なんて呪文の詠唱覚えるようなものやないの?
せっちゃん,難しい詠唱こなしてるやん。」

それでも英語は苦手なの?と問うてくる木乃香に刹那は不貞腐れて答える。

「それはそれ,これはこれです。」
「でも,難しい呪文一杯しっとるやん。いつ覚えたん?」
「あれは小さい頃,師匠について何度も復唱して覚えたものですから。それに…。」

(お嬢様…あなたを守るためでしたらこの桜咲刹那なんでもこなしてみせます。)

と心の中でつぶやく。そして刹那の話を聞いて木乃香がなにか閃いたようだった。

「それや!せっちゃん。ウチが順番に読むよって,後ついて復唱しぃ。」

833 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/19(土) 12:41:03 ID:OG9xJjKa
有無を言わさず,即実行に移す木乃香お嬢様と,
なにも言えずに唖然としつつも従う刹那がそこにありました。

◇◆◇

「これで最後にしよか。」

みっちりと繰り返された英語の復唱もやっと最終ステージを迎えた。

「いくで。」

ヘトヘトになっている刹那の顔を見て,木乃香は愉しそうに目を細めると,
最終ステージへと進む呪文を唱えはじめる。
魅惑的な唇が一層の潤いをもって震えた。

「......Dont' leave me alone......」
「ど...ドント...リーブミー....アロン....」

(………?)

妙に感情のこもった言い回しが,刹那の胸を捉える。台本にもない台詞が
何を意味しているのか,刹那にはまだわからなかった。しかし感覚として
何かが彼女の心の奥に漣(さざなみ)を立てていることを感じていた。

「お…お嬢様……?。」
「あかんで,せっちゃん。センセの言うことよく聞かんと。」

「さ,次いくで。」と木乃香は刹那を促す。木乃香の艶をもった唇に
刹那の視線が捕らわれる。その唇は次のフレーズを紡いでゆく。

834 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/19(土) 12:41:52 ID:OG9xJjKa
「......I...need...you......」

(お……お嬢様……?)

さすがに刹那でも意味もわからずそのまま復唱を…と言うわけには
いかなくなってきたようだった。しかし,木乃香はそんな刹那の
羞恥から来る抵抗など既に見通しているのか,更に追い討ちをかける。

「せっちゃん。意味わかんなくていいから続けてや。約束やろ?」
「は…はい。あ……アイ……にーじゅー……」

(意味わかんなくていいからって…。わかりますよこのくらい私にだって。)

自分の心を代弁してくれるフレーズに一瞬戸惑いながらも,これはレッスンの一部だ
という木乃香の言葉に仕方なく復唱を続ける。

「さあせっちゃん。ラス2や。今度はそっぽむかんとウチの瞳見て言ってや。」

相変わらずニコニコと微笑んでいる木乃香に,刹那は少しだけむくれる。

(あなたの天然さ加減が憎いです。けれど,そんなあなたを…私は…。)

「......I...love...you......」
(………………………………!)

あまりのタイムリーさに極度の緊張が走る。刹那の脳裏を読むかのように木乃香は
次のフレーズを口にする。まだドキドキが止まらない。真っ赤になって狼狽する
顔を木乃香に見られないために刹那はうつむいて気を落ち着かせようとしている。

835 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/19(土) 12:43:04 ID:OG9xJjKa
(お…落ちつくんだ刹那。まずは落ちついて…。こんなことでうろたえていたら
私はお嬢様を愛してますと言っているようなものではないか!落ちつけって。)
正座したひざに握り締められたこぶしはわずかに震えていた。

刹那の逡巡を知ってか知らずか,木乃香は刹那に更に近付く。

「さ,せっちゃん。今度はウチの瞳見て言ってや。」

刹那の面を上げさせると,そう言って復唱を勧める。言うまでもなく刹那に拒否権はない。

刹那は覚悟を決めたのか,どうでもよくなったのか,木乃香の肩をガシっと両手で掴み,
なかばやけっぱちのように復唱した。

「いっいきますよお嬢様!あっあい…らびゅー!!!」

木乃香はにっこり微笑むと「はい♪よくできました。ウチもやでぇ。」と刹那の頭を撫でた。

「じゃ。ラスト!」

この展開で刹那に最後,なにを言わせるのだろうか?もうなんでもこいという感じで
刹那は開き直っている。木乃香はにっこりと最後のフレーズを口にした。淡い桜色の唇は
ほのかに朱に染まっていた。

「......I...want...you......」
「わひゃ?!」

「うはっ♪変な声♪ ほらせっちゃん。最後やで?」

836 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/05/19(土) 12:43:44 ID:OG9xJjKa
木乃香は刹那の手を取り,うろたえる体を自分のほうに向かせる。じっと瞳を見つめ,
もう逃げないように刹那を捉えて,復唱を視線で促す。
刹那は木乃香の視線に捕らわれ,逃げられなかった。木乃香の潤んだ瞳は,
自分の言葉を待っていると感じた。見詰め合う視線が次第に熱を帯びてくる。
無言の静寂の中で,視線に含まれている熱だけが,お互いの求めているものは同じで
あることを物語っていた。

「……さあ……せっちゃん。」

木乃香は握っていた刹那の手を放し,自分の手を刹那の頬に沿えて最後の呪文を唱える。
刹那は視線をそのままに,震える唇で復唱する。

「あ,I want you........」
「Me too!!」

間髪いれずに返したその返事と共に.木乃香の唇は刹那のそれと重なり合っていた。
触れるだけのキスから求め合うキスへと,変化するのにそう時間はかからなかった。

それからしばらくの間,同室の寮生すらその部屋への立ち入りは見えない力で遮られていた。

「仕方ないな。この貸しは高いぞ。刹那。」

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