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762 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 01:29:22 ID:DqGfwWfA
「せっちゃーん。大丈夫?」
「…大丈夫…じゃないかも、です」

刹那はぐったりとした様子で、ベッドに顔をうずめながら答える。
そんな刹那を心配そうに見やる木乃香。

今日は3連休の最終日。学生たちが最も遊び呆ける日だ。
にも関わらず、刹那はこの連休ずっとこんな調子だった。

刹那を苦しめている原因は「雨」だった。
窓の外で振り続けている、しとしととした雨。
普段の雨なら別になんともない刹那なのだが、春と秋に降る雨には何故か弱かった。平
気な日もあるのだけれど、今週は特に頭痛が酷かったらしい。なそれが烏族の血に何か
関わりがあるのかは分からないのだが、いわゆる偏頭痛持ちなのであって。

「偏頭痛は、ウチの能力じゃ治せんのになぁ…」
「…お心遣いありがとうございます…」

ベッドから顔を上げ、木乃香の方を見て刹那が弱々しく答える。最近は頭痛のせいで体
力もだいぶ弱っているようだ。

雨が続いていると部屋から出るのも億劫らしく、刹那はほとんどの時間自分の部屋に籠
ってしまう。木乃香が誘えば無理をしてでも付いてくるのだが、さすがにそれは酷い気
がした木乃香が刹那の部屋にやってくることが多くなった。
しかし刹那としては、自分がこんな状態でも木乃香に気を遣わずにはいられない。

763 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 01:30:28 ID:JIIZ9jk4
「お嬢様、お茶のおかわり煎れてきますね…」
「あ!せっちゃん無理せんといて!」
「し、しかし」
「ウチがやってくるから、座っとって」

立ち上がろうとする刹那を押さえ付け、木乃香がコップを持って茶を煎れにいく。
後ろで「すみません…」という刹那の申し訳なさそうな声が聞こえた。
コップにほうじ茶を注ぎながら、木乃香はため息をついた。

(ウチの能力で治してあげられればええのに…。…せっちゃんが大変なときに、役に立
てないんやから)

自分のことを恨めしく思いながら刹那のところに戻る。刹那は、だるそうに机に突っ伏
していたが、木乃香が戻ってくると顔を上げた。無理に背筋を伸ばそうとする。
そんな刹那を見兼ねた木乃香が口を尖らせた。

「せっちゃん、ウチの前じゃ無理せんといてよ」
「え…ですが…」
「辛いときは別にだらーってしてて良いんよ。ウチに出来ることがあったら言ってくれ
ればいいし」

少し強めに言おうと思ったのに、訴えかけるような口調になってしまった。コップを机
に置いて、木乃香は刹那に向き直る。
刹那は戸惑ったように視線を落としていたが、やがて「…あ、あの」と唇を動かした。
小さな呟きを聞き逃すまいと、木乃香は刹那の方に身を乗り出す。

「…で、では、大変失礼ながら…お願いがあるのですが」
「うん。何?」
「あ、あの、多分ちょっと眠ったら頭痛も少しは治まってると思うんです。昨日もそう
でしたし…。…で、あの」

764 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 01:31:17 ID:JIIZ9jk4
口籠りながら刹那が言う。「何〜?」と木乃香はさっきより顔を近付けて聞いた。
刹那が少し赤くなって続ける。

「お、お嬢様に少し寄っ掛からせていただけないでしょうか…?」
「へ?ウチに?」
「お、落ち着いて眠れそうな気がするので…」

ダメでしょうか?と刹那が木乃香を見る。
木乃香は一瞬呆気に取られてしまい、刹那があわてて両手を振った。

「すすす、すみません!!いきなりそんなこと…っつ…」

頭痛がまたぶり返してきたらしく、刹那がこめかみを押さえた。慌てて木乃香がその手
の上からそっと自分の手で押さえる。

「無理せんでな…ええよ、そんなこと。全然」
「え…えっと…」
「せっちゃんから言ってきてくれるん珍しいなって少し驚いただけや」

でも嬉しいんよ?と木乃香が刹那に微笑みかける。刹那はますます赤くなった。そんな反
応を楽しそうに見ながら、木乃香が刹那の隣に座る。寄っ掛かりやすいようにするため
だ。

「これでええかな〜?」
「…は、はい。…ありがとうございます」

765 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 01:32:12 ID:JIIZ9jk4
小さく礼を言った後、失礼します、と呟き刹那が控え目に木乃香に寄り掛かる。木乃香
がそっと撫でるとぴくりと身体が固まったが、やがて数分もすれば聞こえてくる寝息。
相当、弱っていたようだ。

「…せっちゃん…?」

木乃香が小さく名前を呼んでみたけれど、刹那は目を閉じたままだった。その髪をゆっ
くり撫でながら、木乃香は刹那を眺める。

(…ウチの能力って役立たずやなぁ…)

心の中で呟いて、すぐ横にある刹那の顏を見た。さっきまでしんどそうに顔をゆがめて
いたけれど、眠っている今は穏やかな表情だ。ずっとこんな表情をさせてあげられたら
いいのに、と木乃香は考える。
ただでさえ学生生活の上に退魔の仕事、剣の稽古をこなしている刹那は一般人に比べれ
ば苦労も多いだろう。そういえば今日は無いけれど、明日になればまた仕事が控えてい
るらしい。

(それまでにせっちゃんの頭痛、治るとええなあ)

魔法で役に立たなくても自分がこうすることで刹那が休めるならそれでいい。
せめて、こうして自分と居ることで少しは楽になれるのなら、いくらでも傍にいよう。
木乃香は心の中でそう決めて刹那の背中にそっと手をまわした。

766 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/09/24(月) 01:35:09 ID:JIIZ9jk4
「なぁ、せっちゃん」

語りかけるように刹那に言う。勿論刹那は眠ったままなのだが。
そんな幼馴染を、慈愛の表情で木乃香は見守る。


せめて、今は安らかな休息を。
明日からはまた大変な毎日が待っているのだから。
頑張るのは明日からでいい。


「だから、今はゆっくり休んでな…せっちゃん」


起こさないように気を付けながら、そっとその額にキスを落とす。
外の雨の音が、少しだけ弱まった気がした。

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