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520 名前:+MsjtAH+[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 05:24:53 ID:PdeLbCoj
「もうすぐ、金木犀の季節も終わりですね」

何気なく、せっちゃんは言った。

帰り道、乾いた風が花の香りを運んできたせいで、そんなことを思いついたのだろう。

夕日が斜めに二人の顔を照らして差して、ウチらの背後には、ふたつの影が道路に背伸びして映っている。


「どうして、やろな」

え、と疑問の声が聞こえたけど、ウチは前を向いたまま、歩き続けた。

だから、せっちゃんも黙ってついてくる。

枯れ葉が目立ち始めた舗道を、隣り合って歩いていく。

せっちゃんの顔を見てはいないけど、いつもの、少し困った顔をしているのだろう。

ウチの大切な人。強くて、凛として、でも儚い。大好きなヒト。


 どうして


その先は口に出せなかった。言葉にしてしまえば、それが本当になるかもしれないから。

ウチの予感は当たるんや。


いつまでも咲き続ける花が無く、移りゆく季節など有りはしないのに。

 どうして、変わっていくのか。

時間も、人も。

自分も、相手も。


521 名前:+MsjtAH+[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 05:28:38 ID:PdeLbCoj
つい最近まで、夏の残りがつきまとっていた気がするけど、気づけばあっという間に肌寒くなってきた。
時間の流れることなんて、昔はあまり意識せずに過ごしてきた。
ほんの、つい最近になって考えるようになった。
楽しい時間は飛ぶように過ぎる、なんて聞くけれど、そうなのか。
年齢を重ねれば、自然と気づくもの。そうかもしれない。
でも。違う。少なくともウチの場合は。
じゃあ、こんな事考えるのは、誰のせい?


「最近は、急に寒くなってきましたよね」
少し、恐るおそると言った様子で声をかけられた。
ウチがだんまりして、気を遣ってくれているのだろう。
まったく。そういうところも大好き。

恋人同士の、どこが好きかという問いに対する、すべてと言うありきたりな答え。
そんなん気恥ずかしいし、つまらないけど、実はウチにとっての模範解答。
つまり、せっちゃんが大好き。
そんな些細なことで幸せを感じるウチも、なんや。ちっちゃいなぁ。

まったく。

自分の些末な憂いに、思わずため息をついてしまった。
ふぅ、と吐いた息は、白いもやのように変わって、少しだけのぼって消えた。
確かに日中でも冷え込むようになってから、間もない。
クラスメイト達の服装も、制服ではあるけれど、ちらほらと厚着になってきた。
そのため息が、ウチの顔色を窺うせっちゃんを惑わせたようだ。

「あ・・で、でも!まだ残暑も続きそうですね!」

そやないって。かわいいなぁ。


522 名前:+MsjtAH+[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 05:31:22 ID:PdeLbCoj
でもね。せっちゃん。

スキとキライは正反対ではないんよ?
つまり、ウチを含めて、他人に気を遣うせっちゃんはキライや。
優しいところも。強くて凛々しいところも。全部キライ。

いわゆる嫉妬や、やきもちではない、それは分かっている。
だって、せっちゃんが一番愛してるのは、ウチのことだから。

‥‥自惚れてる、かなぁ。うん、半分はただの願望やな。
とにかく、このままじゃあ、せっちゃんの全てをキライになるかもしれないってことや。


「あの、やはり四季の中で秋は一番過ごしやすいですね。‥‥ですよね?」

うん、あのねせっちゃん。そういう話じゃないんよ。
やっぱり少しズレてるなぁ。しっかり者のくせに。
かわいいけど、ねぇ、本当に分かってる?

「本当に分かってるん!?」

と、不覚にも心の声が飛び出してしまった。
電気が走ったようにビクッと肩をふるわせるせっちゃん。驚くのは無理もない。

「あぁ、ご、ごめんなさい‥!春の方が好きでしたか!?」

と、ウチの理不尽な言葉に対しても、やはり少し抜けた回答。
まったく。意図せず微笑がこぼれる。
対してせっちゃんは、なぜ笑われたのか分からず、さらに困った顔になる。


523 名前:+MsjtAH+[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 05:33:27 ID:PdeLbCoj
「せやからなぁ、せっちゃん?」

二、三歩ほど大きく足を出し、せっちゃんの前に出てから、振り向いた。
斜陽に背を向けたウチの顔を、せっちゃんはまぶしそうに覗く。

「ウチの予感は当たるってこと!」

そして、早く帰ろう、と背後のせっちゃんを急かし、ウチは走り出した。
ひと間置いて、戸惑いを含んだ声で、待って下さいと呼ばれた。
同時に、駆け足の音がついてくる。

「な、なにがそんなに愉快なんですか?」

ほどなくして継いで問われる。

せっちゃんにはウチが楽しそうに見えたみたい。それは良かった。
だって、さっきの、ウチのほんの一握りの訴えをぶつけたとき、自分では分からなかったから。

ウチは、自然に笑えていただろうか、と。

せっちゃんからして逆光だったのが僥倖。でも、
ホントは気づいて欲しかったから、不運。

どちらにせよ、この秋空に沈んでいく夕日のせいだと思った。



もうすぐ、金木犀の季節も終わる。


524 名前:+MsjtAH+[sage] 投稿日:2008/10/08(水) 05:36:30 ID:PdeLbCoj
読んでいただいた方、ありがとうございます。
今回はここまでです。
最初に改行を多く取りすぎて、失礼しました。
続き物ですが、次回はいつになるか未定です。
では。

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