ネギパーティーのメンバーは部室として使っているエヴァンジェリンの別荘に集まっていた。
それぞれ、思い思いに修行をしている中、エヴァンジェリンはネギと明日菜の修行を見ていた。
「おい、坊や、神楽坂明日菜。 お前達二人はもう一日残っていけ」
「良いんですか!? 師匠!」
「えぇー? 何でよエヴァちゃんって…… あんた何喜んでんのよ」
ネギと明日菜の正反対な反応を見てエヴァンジェリンは楽しそうに続きを言う。
「修行の成果を見てやろうと思ってな」
二人に居残りを命じたエヴァンジェリンはその場を立ち去ろうとしたが、何かを思い出したように動きを止める。
「そうそう、他のやつらは邪魔だから帰れ。 外野が居ると気が散るからな」
居残りの二人以外のメンバーにそう告げ、エヴァンジェリンは建物の中へと姿を消した。
数十分後。 麻帆良学園女子寮643号室。
明日菜とネギがエヴァンジェリンの別荘に残ってしまった為、木乃香が一人にならないように刹那は三人の部屋にお邪魔していた。
居残りの二人はまだ帰っていない。
その為、今部屋に居るのは木乃香と刹那の二人。
二人はネギ達の帰りを待ちつつ、何気ない会話を楽しんでいた。
「お嬢様、今年のクリスマス何か欲しい物はありませんか?」
「んー… せっちゃんの胸」
「はい? …… えぇーっと……」
「乳!」
「いえ、言い方じゃなくて…… というか、それ私が欲しいものですから……」
刹那が小さく木乃香の台詞に突っ込むが、木乃香は全くお構いなしに話し続ける。
「あんな、あんな、せっちゃんを抱き枕にして寝るんよ! そうすると抱き心地がプリンとかマシュマロとかクリームみたいに……」
「ちょ、ちょっと…… お嬢様!?」
言いながら抱きついてくる木乃香に、顔を真っ赤にしながら刹那は抗議の声を上げる。
「あんた達、こんな時間から何やってんのよ……」
二人きりだった空間に第三者の呆れた声が割り込む。
「あ、明日菜にネギ君、おかえり〜」
「やっぱり、お二人はそうなんですね。 大丈夫です! 僕、誰にも言いませんから!」
「ね、ネギ先生!? 全然大丈夫じゃないですよ! 変な誤解しないで下さいっ!」
「まぁまぁ、刹那さん落ち着いて。 そんなにムキにならなくてもいいじゃない?」
我を忘れてネギに掴みかかろうとした刹那を明日菜が止める。
「それに、刹那さんがそんなにムキになって否定すると、木乃香がいじけちゃうわよ?」
「あ、お嬢様!?」
刹那が慌てて木乃香を見ると、木乃香は俯いた状態で肩を少し揺らしていた。
「せっちゃん…… ウチのこと嫌いやったん……?」
「えっあっいえっ…… そ、そんな事ありえません! 私はお嬢様の事大好きですから! だから、その、泣か、ない、で……?」
俯いたままの木乃香の肩は先程よりさらに小刻みに揺れていた。
しかし、それは泣いているというよりむしろ……
「アハハハ、ごめんなせっちゃん。 まさか引っかかってくれるとは思わんかったわ〜」
「あ…… ひどいです、お嬢様……」
木乃香はあからさまにふざけていたのだが、気が動転していた刹那には木乃香が本当に泣いているように見えてしまっていた。
「ホント、仲が良いんだから」
二人のやり取りを見ていた明日菜がからかうように言う。
だんだんと冷静さを取り戻してきた刹那は、今しがた自分が言った言葉を思い出して顔を真っ赤に染めていた。
「あ、そういえば木乃香。 一年生の子から伝言があるわよ。 帰ってくる時に頼まれたんだけど、「6時に寮の1階で待ってます」ってさ」
「一年生…… 誰やろ?」
「たしか、山神さんだったかな?」
「山神さん? …… あー! 占い研の後輩の子や」
木乃香はちらっと時計を見た。
「6時やともうすぐやね。 ほな、ウチ1階まで行って来るな」
「でしたら私も」
「んー 寮から出るわけやないし、せっちゃんは待っとって。 夕飯食べてってくれるやろ?」
木乃香はにっこり微笑みながら言うと、扉を開けて廊下へ出ていった。
そんな木乃香の姿を見送りながら、刹那は数日前の事を思い出していた。
占い研の活動がある日、刹那はいつも通り木乃香を迎えに行った。
図書館探検部の日は、夕映、ハルカ、のどかの3人と一緒に寮まで帰るのだが、占い研の日は違う。
部長の木乃香は部室の片付けやら戸締りをしてから一人で帰る事が多かった。
護衛の刹那がそれを良しとするはずもなく、修学旅行から帰ってからは刹那が迎えに来るのが当たり前になっていた。
「失礼します」
「あ、桜咲先輩! もうそんな時間ですか?」
刹那が部室に入ると、それに気付いた占い研の一人が話しかけてきた。
刹那はいつも同じ時間に迎えに来る。
その為、部員達の間では、刹那が迎えに来る事が部活の終了を知らせる時報の様なものになっていた。
刹那の登場により、後片づけを始める部員達。
しかし、その中に目的の人物が居ない事に気付いた刹那は、さっき話しかけてきた部員に訊ねてみた。
「あの…… 近衛さんは?」
「部長なら、咲と一緒に図書館島に占いの本を返しに行ってますよ」
「咲…… さん?」
「山神咲。 うちの部の一年生です」
「いっつも近衛先輩と一緒に居るし、咲のやつ実は近衛先輩に告ってたりしてねー」
「そう、なんですか……?」
いつの間にか、刹那達の話にもう一人別の部員が加わっていた。
「わっ! バカ、桜咲先輩の前で何言ってんの! あ、桜咲先輩、今のはこいつが勝手に言ってるだけですから気にしないで下さいね」
最初から刹那と話していた部員が、後から話しに割り込んだ部員の発言を慌てて訂正していた。
刹那自身、その時は気にも留めていなかった。
しかし、今は『山神』という一年生に木乃香が呼び出されたことが気になって仕方が無かった。
翌朝、グラウンドからは朝練をしている運動部員達の声が聞こえている。
それに反して、生徒の登校していない校舎内は、グラウンドとは比べ物にならない程静かだった。
そんな静かな廊下に二人分の足音が響く。
周りに誰も居ないことを良いことに刹那の手を握って楽しそうな木乃香と、対照的に元気が無さそうな刹那。
二人がこんな朝早くに登校しているのは木乃香の祖父であり、この学園の学園長を勤める近衛門に呼び出されたから。
二人はその用事を済ませ、教室へ向かっているところだった。
「あぁ〜… たしか、今日の一時間目は世界史でしたよね……」
「朝からまた寝ちゃうん? この前は次の休み時間まで爆睡やったもんね〜」
「日本史は平気なんですが世界史はどうも…… い、いえ、違うんですよ! 寝ちゃってたのは、前の晩仕事で寝るのが遅くなってしまったせいでして」
刹那が必死に言い訳をしている間、木乃香は空いている手で携帯を操作していた。
そして木乃香は満面の笑顔で刹那に携帯を見せる。
「ほらほら、その時のせっちゃん! よだれ垂らして超かわええ〜」
木乃香の持つ携帯の液晶ディスプレイにはよだれを垂らして居眠りをしている刹那の寝顔が写っていた。
「いやいやいやいや、写メとかありえないですよお嬢様! あれ…… でも何でお嬢様がこんなの持ってるんですか……」
携帯に写る刹那の寝顔はどうみても近くから撮られたもの。
席が離れている木乃香にこんな写真が撮れるだろうか? と刹那は考える。
「もしかして…… 釘宮さんですか……?」
「ピンポーン! せっちゃん良う寝とるみたいやったから、くぎみーにお願いして撮って貰ったんよ」
「釘宮さんに何やらしてるんですか…… まったく……」
後で釘宮さんにはお嬢様の頼みを簡単に引き受けないで欲しいと念を押さなければ…… と刹那は考える。
「とにかく、ちゃんと消してくださいよ……? それ」
「えぇ〜…」
刹那に言われ木乃香は仕方無さそうに携帯を操作する。
「しゃ〜ないなぁ…… はい」
ブブブブ……
木乃香が携帯の操作を終了させると同時に刹那の携帯が震えた。
「あ、メールみたいです。 少し失礼します」
刹那は木乃香に一言断りの言葉を告げてから携帯を開いて新着メールの内容を確認した。
差出人は今真横に居る木乃香。
メールに本文はなく、刹那の寝顔画像が添付ファイルとして送られてきていた。
「って、何でわざわざ画像送ってるんですか…… もう……」
刹那は今しがた送られてきた自分の寝顔画像を削除した。
「あ、明日菜とか他の皆にも送っといたから、ウチとせっちゃんのが間違って消えても大丈夫やえ」
「……」
「…… せっちゃん? ちょい手ぇ痛いよ……?」
「すみません、つい力んでしまったみたいです」
引きつった笑顔の木乃香に対して、刹那は珍しく怖いぐらいの笑みを顔に張り付けていた。
「それで本当に送ったんですか?」
刹那は手の力を抜き、木乃香に真面目に聞いた。
「う、嘘やえ〜…… せっちゃん、ごめんな〜」
「このか先輩、桜咲せんぱーい!」
二人がそんなやり取りをしていると、不意に声を掛けられた。
声を掛けられたその瞬間、木乃香は繋いでいた刹那の手をパッと離した。
「え……?」
いつも先に手を離すのは、周りの目を気にする刹那のはずなのに。
木乃香のその行動に驚いた刹那は小さく戸惑いの声をあげていた。
「おはようございます」
「おはよ〜 山神さん」
声を掛けてきたのは、昨夜木乃香を呼び出した一年生の山神咲だった。
「もう、咲でいいですよ。 このか先輩」
「あ、ゴメンなぁ。 まだ呼び慣れとらんから……」
和気藹々と楽しそうに話す二人の姿を刹那は寂しそうに見つめる事しかできなかった。
後編