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358 名前:近鉄川西[] 投稿日:2006/09/30(土) 13:29:03 ID:UiuSNJnu

 それはまだ残暑も少し感じられる9月の半ば頃。斜陽の射す放課後の教室で彼女は窓際に根が生えたように立っており、帰寮していく生徒達を虚ろな目で見ていた。
その顔は一言で言えば透明感漂う物であるが、人に寄っては憂いを帯びていると言うかも知れない。
今日も‘今日’という一日が終わりつつある。昨日と何等変わらない一日が。其の事が、これまで自分が歩んできた道からしてみればどんなに平易そうで難しい物だっただろうか。
教室を橙色に染め上げる光を送る陽にふと視線を移しつつ、彼女はそう思った。
―刹那はこの日、放課後の教室に‘一人’で残っていた。この時間、いつもなら早々と寮に戻っている時間だったが、この日だけは違っていた。
一緒に帰る事を朝の内に約束していた刹那の最愛のお嬢様こと木乃香が、学園長に呼ばれたのだった。
帰ろうとする直前にそうなったので、木乃香はちょっと待っていて欲しいと告げその場を後にした。
学園長は木乃香の祖父でもあるので、何か内密な話でも有るのだろうと思って、刹那は暫く待つ事にした。そうして、かれこれ3〜40分は待っていた様にも思われる。
刹那は視線をあさっての方向へ送り、同時に溜め息をつきつつ思う。
一年前だったらこうはいかなかっただろうと、と。友人と帰る木乃香を陰ながら見守っていればそれで良かったのだから。
しかし、修学旅行で和解した後は、どうもそれだけでは済まなくなっていた。
木乃香と一緒に色んな事がしたいと思う気持ちは、周囲の影響もあってか、加速度的に変わりつつあった。
その変わりつつある気持ちの終着点が何処に至るのか。刹那はまだはっきりとは解りもしていないし、知ってもいない。
まるで、霞か雲の様な物がそこを覆い隠している。が、敢えて、それも強いて言うならば、この気持ちの行き着く先は?
刹那の頭の中に‘恋慕感情に他ならないのでないのでは?’という答えがよぎる。刹那は彼女自身、殊、最近ふとそう思う事が増えたと一瞬思った。
しかし、自分は女性である。木乃香も女性である。どう転んでもその想いは報われることはないし、女性同士では結ばれない事も解り切ってはいる。そもそも、そんな事が許されはしないだろう。
その理由。色々と考えられた。一つ、二つどころではなく。
何気ない一つの想い事を複雑にし、考え込んでいた刹那は、目の前に誰かの両手が覆い被せられた事に気付くのに一拍を要した。

359 名前:近鉄川西[] 投稿日:2006/09/30(土) 13:31:12 ID:UiuSNJnu
「だあれやっ!?」
何の気無しに無邪気に目元に当てられた柔らかい手と声は自分のよく見知っている者の物だった。
刹那は、ゆっくりと問いかけに答える。
「お嬢様・・・ですよ・・・ね?」
「違うえー。さあ、だあれ?」
はてな?と刹那は首を傾げた。では、今、私の目元に手を当てているのは別人だとでもいうのだろか?
すると、悪戯っぽい声で、
「手を当てているのはウチやで。」
と、‘声の主’。
益々変になっていく。
が、間も無く刹那は一つの答えを出すに至った。こう呼ばれる以外ではこの‘声の主’は絶対に「当たり」とは言わなさそうだったからだ。
「このちゃん・・・?」
「当たりやでー。せっちゃん!」
当てがわれていた手がぱっと外される。
先ず、最初に入って来るのは、さっきまで見ていた陽の光に染まった窓の外の景色。
そして、ゆっくりと後ろを振り向くと、鞄を持った木乃香が柔和な顔に微笑みを浮かべて立っていた。如何にもその答えを‘待ってました’と言わんばかりに。
「せっちゃん。長いこと待たせて御免なー。おじ・・・学園長と色々あってん。それで。」
「そ、そうですか。ではこれから帰りましょうか。まだ陽は出ているとはいえ、もう遅いですし。」
「うんっ!」
確かに時計は夕方の5時を打つ直前だった。
二人は足早に教室を後にし、廊下を走って通り抜け、校舎を後にした。

360 名前:近鉄川西[] 投稿日:2006/09/30(土) 13:33:55 ID:UiuSNJnu
それは木乃香の一言からだった。寮へ向かう途中に木乃香がおもむろに言い出した。
「なあなあ、せっちゃん。」
「何ですか、お嬢様?」
一呼吸分間を空けて木乃香が顔を赤らめつつ刹那に訊く。
「せっちゃんは、ネギ君の事どう思ってるん?」
「え゛っ!?ど、どうと言われましても・・・。」
それは余りにも唐突過ぎる質問だった。と、同時に答えにくい質問でもある。
当初、刹那はネギの事を10歳の教師という事もあって、どこか遠い所から冷めた目で見ていた。
例えば、クラス内で何か問題が起きた時、対処しきれないネギを、不甲斐無い、とか情けない、とかいった目線で。
しかし、その見方が決定的に大きく転じたきっかけの出来事が今年度に入ってからすぐにあったあの修学旅行の一件だった。
あの時、刹那はネギの驚異的な才覚とか実力を目の当たりにする事となった。
そして、その後も折に触れてネギの実力は垣間見えている。
そして何と言っても木乃香との仲を取り持ち、昔のように、仲良しだった時の様にしてくれた。
今の刹那があるのは半ばネギのお陰の様な物と言っても過言ではないだろう。
刹那は訥々と話し出す。

361 名前:近鉄川西[] 投稿日:2006/09/30(土) 13:36:53 ID:UiuSNJnu
「私は先生は私を良い意味で変えてくれた人だと・・・そう思っています。初めの内はその、余り頼りに為らないな、とそう思っていましたが。」
「ううん。せやのうて、なんて言うんかな?・・・一緒に居たら胸がどきどきしたり、一緒に居れたりするだけで幸せやって思う事ある?」
「へっ!?」
迂闊だった。木乃香は刹那にネギをそういう対象として見ているのかどうかを訊いていたのだ。
とぼけた顔をして木乃香の方へ顔を向けると、木乃香は少し照れた顔をして刹那を見ていた。さて、どう切り返すべきか?
以前、学園祭準備中に明日菜と木乃香の前で、気になる男性は?と、訊かれて‘強いて挙げるなら’ネギ先生と答えた事がある。
一度そんな事を言って、今迄撤回するのを忘れていた。一度口から出た物は引っ込みようが無いし。
「確かに、私はネギ先生の事は好きですが、交友関係としての事であって、その・・・。」
つっかえつつ刹那が言うと、浮かべた笑みを崩さずに木乃香は言った。
「それなら、せっちゃんがそう思える人って、だあれ?」
一気に頭に血が昇る。そう思える人が誰あろう、その問いかけをしている本人などと、照れずにさらっと言えたらどれだけ気が楽になるだろうか?
しかし、例えそう答える事が出来たとしても、果たして木乃香はどんな顔をするだろうか?
自分の事をどう見るだろうか?
返答の例としては二つ考えられる。先ず、一つ目は、
「えーっ!?せっちゃん、変やなー。」
と、言われてドン引きされる。あまり考えたくは無い。
次に、二つ目には、
「ほんまにぃ?・・・あんな、ウチも、その、せっちゃんの事が・・・。」
と、言われてギュウッと抱き締められる。承服したいのはこっちだが。
おそらく、その道を選んだら、もう二度と‘まともな’関係には戻れやしないだろう。
その瞬間、まだ蒸し暑さの残るその日の夕暮れ時に似合わない一陣の冷たい風が二人の間を通った。
刹那は、それを合図に、戸惑いを残しつつ答える。

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