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585 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 20:24:03 ID:xVOYJQX9
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かたん!
(あちゃ・・・・)
誰もが寝静まった夜中、小さな物音が響く。
普通の人間ならば誰も気付かないだろうが、これから向かう部屋の住人ならば気付いてしまっただろう。
特にこんな時間には、部屋を抜け出す者などいないのだから。
(・・・・気付かれんかったかな?)
部屋を抜け出して寮内をうろついていたのは、この寮の使用者でもある近衛木乃香だった。
本来ならば消灯時間後の外出は禁じられている。
それでも抜け出す人間はちらほらいるのだが・・・・学園長の孫でもあり優等生の木乃香が抜け出すのは、珍しい事だった。
かちゃ・・・・パタン
木乃香は出来る限り大きな音を出さないように気をつけ、とある部屋へと入る。
とはいえ、この部屋の住人はとても鋭い。
もう気付かれているだろうから、音を気にしすぎることは無かった。
それでもそぅっと忍び足でベッドのある部屋まで進む。
「あれ・・・・起きとるん?」
机の電気はついたままだった。
しかし返事はなく、ベッドにも人がいる気配はない。
ふと木乃香はソファーの方を見る。
「・・・・すぅ・・・・」
「ありゃ・・・・?」
机の主はソファーの上で寝ていた。
普段の疲れがたまって、転寝してしまったのだろう。
同居人は仕事なのか、姿はなかった。
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586 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 20:24:45 ID:xVOYJQX9
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(せっちゃん・・・・気持ちよさそうに寝てんなぁ)
つんつんと頬を突付くと、刹那は少し表情をゆがめる。
そして聞き取れないほど小さな声で、何やら寝言をつぶやいた。
(せっちゃんも人間なんやし、やっぱ夢見るんよなぁ)
最初は一緒に寝ようかと思って忍び込んだ木乃香。
しかし久しぶりに見る刹那の無防備な姿に、悪戯心が疼いた。
刹那の上に毛布をかけると、折りたたみ式ワンドを取り出した。
「プラクテ・ビギ・ナル・・・・・」
刹那を起こさないよう、小さな声で呪文を唱える。
唱えるのは夢見の魔法。
木乃香は寝ている刹那の夢を覗きたいと思ったのだ。
「夢の妖精、女王メイヴよ、扉を開けて夢へといざなえ・・・・」
ネギに習ったばかりの魔法だったが、無事に刹那へとかかった。
いつもなら魔法抵抗力のある刹那にはかからないのだが、日頃の疲れが抵抗力を下げてしまっていたのだろう。
(少しぐらいなら、ええよね)
木乃香には悪気などまったくない。
そのまま、刹那の夢の中へと入っていった。
*
『・・・・ここはどこやろ?』
刹那の夢の中へと入った木乃香は、見慣れない森の中にいた。
耳を澄ますと、どこからか水の音がする。
流れるというよりも流れ落ちるといった音で、滝が近くにあるのだと木乃香にでも容易に予想する事ができた。
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587 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 20:26:15 ID:xVOYJQX9
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『なんやか、夢にしてははっきりしとるなぁ・・・・どないな夢見とるんやろ?』
意識だけとなった木乃香の身体は、自然と滝の方へと引き寄せられていった。
『あ、せっちゃんや。小さいなぁ・・・・ありゃ?』
木乃香が見つけた刹那は、滝の下で翼を広げていた。
容姿はかなり幼く、木乃香と刹那が出会った時よりも小さいように思えた。
「なんで・・・・ウチのは、しろいん・・・・?」
刹那は自分の背中に生える白い翼を見て、悲しげな顔をする。
刹那が暮らす村で白い翼を持つのは、刹那だけだった。
自分と同じようにほかと違う人といえば、翼すら持たない母のみ。
父は村の烏族たちと同じように、黒い翼を持っていた。
「ウチ・・・・ニンゲンでも、ウゾクでもあらへん・・・・」
まだ小さな刹那だが、それでも周りの冷たい視線で自分が異端だという事は知っていた。
人間でも妖怪でもない自分にも、幼いながらにも気付いていた。
「これさえ、くろければ・・・・!」
刹那は羽根を掻き毟る。
物心ついた刹那は、よくこうやって一人になり羽根を毟っていた。
それはストレスとコンプレックスによる行動。
自然と流れる涙は、痛みよりも精神的なものだった。
むしろ翼の痛みが心の痛みを和らげていた。
「ひっく・・・・あかん、かえらな・・・・ははうえが、まっとる・・・・」
すっかり沈んだ太陽を見て、刹那は水から上がる。
夕飯までには戻ってくるようにと、母親に言いつけられていたのだ。
重い足取りで、刹那は自宅へと歩き出した。
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588 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 20:28:08 ID:xVOYJQX9
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「・・・・ただいま」
「刹那? どこ行ってたん、遅かったやな――」
帰りの遅い娘を心配していたのだろう、刹那の母親はすぐに家の奥から出てきた。
叱るつもりでやや強張った顔で出てきたが、刹那の血に塗れた翼を見て驚いた顔に変わった。
「翼・・・・またやったんやね・・・・」
「ははうえ・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」
泣いて謝る我が子に、母親は怒らなかった。
母親は刹那を優しく抱き寄せ、『治癒』と書かれた札を刹那の翼に張る。
刹那の母親は陰陽道にも通じていた。
「刹那、よく聞き?」
母親は泣きじゃくる刹那の顔を見て、言い聞かせる。
刹那も嗚咽を漏らしながら母親を見た。
「翼が白うても、刹那は刹那や。他の誰でもないん、あなたなんやえ」
「う、ひっく、でも・・・・ちちうえはヨウカイで、ははうえはニンゲンで・・・・」
「堪忍な・・・・でも私たちは刹那が生まれて嬉しかったんよ」
・・・・カタン
突如、部屋の奥から物音がした。
刹那の父親も帰宅していたようだ。
烏族でありながらも、人の姿をしている妻と我が子を優しげな表情で見ている。
父親のその雰囲気は、どこか他の烏族と違った。
「おいで、刹那」
「・・・・はい」
尊敬する父に呼ばれ、刹那は怒られる事を覚悟して恐る恐る近づく。
しかし予想に反し、刹那は父親の大きな翼に包まれた。
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