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736 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/12/14(日) 00:37:36 ID:3FVALIDr

「刹那くん、しっかりと休めてるかい?」
「あ・・・・はい、高畑先生」
「部屋、一人部屋になっちゃってすまないね」
「いえ、お気になさらないでください」

寒くなってきた季節に、刹那は紅葉の美しい山に来ていた。
周りには先ほど話していた高畑。
それとそのほかの魔法教師の面々がいた。

「高畑君、一杯どう?」
「いえ、僕はこのあと学園に戻らないといけないので」
「そうか・・・・確かに学園ががら空きになるのは不安だからな・・・・すまないね」

魔法教師・魔法生徒を中心とした休心目的の旅行といった所だ。
もちろん刹那のほかにも生徒はいる。
龍宮も来ていたし、どこかで見たことがあるようなシスターも楽しげに周りと話していた。

「なんだ、つまらなそうだな。刹那」
「・・・・何もしないというのは慣れてなくてな」
「確かに何もなくボーっとしてるお前は珍しいな。いつも"こ"の付く誰かさんのストーカーを――」
「護衛と言ってくれ。ちょっと凹むから」
「すまんすまん」

普段ぶっきらぼうな龍宮と刹那の会話にも、和やかな会話が見て取れた。
しかし一途な思いで護衛していた刹那にとって、ストーカーという言葉は胸に刺さるものがあったらしい。

「近衛も連れてくればよかったじゃないか」
「お嬢様は魔法生徒として正式な登録をしていないから・・・・」
「学園長の孫で魔法修行中なら、十分許可は取れたと思うがな」

「飲むか?」と龍宮が刹那にコップを差し出す。
刹那はそれを受け取りつつ、「それもそうなんだが」と軽く返した。


737 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/12/14(日) 00:38:59 ID:3FVALIDr

「・・・・夕食も済んだし、部屋で紅葉でも見たらどうだ」
「紅葉を見るだけならここでも・・・・」
「これ以上酔っ払った大人は面倒だぞ」

確かにあまり会話が好きでない刹那の事、酔っ払った教師が話しかけてきても愛想笑いをするしかない。
世渡りが上手な龍宮なら出世に役立てるだろうが、刹那なら疲れ果ててせっかくの旅行がパーになりかねない。
それを配慮しての助言だった。

「そうか・・・・じゃあ宵が進む前に退散するか。・・・・何かあったら――」
「何かあっても教員たちが何とかしてくれるさ」
「はは、そうだな・・・・では今日はゆっくりと休ませてもらうとするよ」

刹那は龍宮の気遣いを素直に受け止める。
そして「お先に失礼します」と周りの教師たちに告げ、その場を立ち去った。

*

自然の中にある旅館なだけあり、部屋に入るとそこはもう無音の世界だった。
刹那の部屋は二人用の和室。
しかし同じ部屋になる予定だった人が急遽これなくなってしまい、一人で使う事になっていた。
その部屋で刹那は特に何をするわけでもなく、窓の外に広がる紅葉を眺めていた。

(・・・・暇だな・・・・お嬢様・・・・)

そこまで考えて刹那はハッとする。
先ほどストーカーと言われたばかりなのに、また木乃香の事を考えている。
誰もいない広い部屋で、刹那は一人悶えた。

(かといって忘れられるわけもないじゃないか・・・・今までずっと見てきたんだし・・・・!)


738 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/12/14(日) 00:41:22 ID:3FVALIDr

そう、ずっと・・・・だ。
木乃香を守るために強くなって、木乃香を守るために麻帆良にきた。
木乃香の事を考える事が刹那の日常である。
今一時仕事を忘れて休めといわれても・・・・。

「仕事を忘れても・・・・お嬢様の事は頭から離れないですよ・・・・」

既に敷かれてあった布団に転がり、刹那は独り言を言う。
・・・・今頃は何をしてるだろう?
夕飯の時間は過ぎたから・・・・後片付けを済ませて、宿題でもしているだろうか。
いや、宿題はエヴァンジェリンの別荘で皆で済ませる習慣になってきていた。
だから明日菜と一緒にテレビでも見ているかもしれない。

(電話・・・・してみようかな・・・・)

手元には、昔は仕事でしかほとんど使っていなかった携帯。
今では着信記録に見慣れた名前が並んでいた。
毎日のようにかかってくる電話・・・・ついに最近、龍宮に『バカップルだな』と言われた。

(今、電話・・・・していいかな・・・・?)

修学旅行が終わった時に木乃香の電話番号を知った。
元々式神を使った連絡手段をとる刹那にとっては、携帯はあっても無いような物。
その必要最低限の番号が入ってない刹那の携帯に、初めて仕事以外の番号が入った。
いや、正確に言えば木乃香関連の番号(もちろん木乃香も含めて)は全て仕事なのだが・・・・。
刹那はその時の事を鮮明に覚えている。

『ありがとうございます。私の番号も教えますね』
『あ・・・・知っとるから・・・・ええよ?』
『え? 教えましたっけ・・・・?』
『おじいちゃんにずっと前からきいとったんよ。・・・・電話する勇気、出ーへんかったけど』


739 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/12/14(日) 00:43:57 ID:3FVALIDr

そのときの木乃香の頬は少し赤くなっていた。
それが照れなのか、悲しさなのかは刹那にはわからなかった。
ただ一言・・・・すみません、とだけその時は伝えた。

(近くにいるときよりも緊張する・・・・なぜだろう)

昔の事を思い出し、こちらから勇気をだして電話しようと試みる。
しかしそのボタン一個一個がとても重く感じた。
なぜこうも緊張するのだろうか。
いつもは木乃香から電話してくれるから慣れてないだけだ、と自分に言い聞かせる。

プルル・・・・プルル・・・・。

木乃香が出たらまずなんと言うべきだ?
刹那は寝転がったまま考える。
今話が出来るかを聞いて・・・・いや、その前にちゃんと挨拶を――。

『は、はいっ、せっちゃん?』
「あ、えと・・・・その・・・・こん、ばんは」

声が裏返った。
普段の仕事の電話なら、もっとハキハキと話せるのに。
木乃香の声が携帯から聞こえた瞬間、刹那の頭は真っ白になり、口はうまく動かなくなる。

「い、今は、どんなご様子かと・・・・気になってしまいまして・・・・」
『う、ウチは・・・・大丈夫やえ?』

明らかに電話の先の声は動揺している。
敵に襲われてるわけでは無さそうだが、傍にいないだけさらに気になる。

「・・・・どうかしました?」
『ち、ちょっと・・・・な。せっちゃんは、何してたん?』
「久しぶりの暇で・・・・電話してしまいました。ご迷惑でしたか?」
『ううん! めっちゃ嬉しいえ!』


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