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500 名前:桜の散る時[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 09:41:34 ID:CLd6ixJA
冬から春への季節の変わり目。
暖かくなってきた休日に、刹那と木乃香は二人で買い物に出掛けていた。
その帰り道に通った桜並木では、もう桜が終わりを迎えようとしている。

「桜、散ってもうたね」
「今年も入学式までもちましたね」
「最近の桜は散るの遅いしなぁ」

道路には桜の花びらが散っていて、その上では緑が濃くなった桜の枝が風に揺れていた。
時折吹く強い風で残りの花が散る光景は、どこか寂しさを感じさせる。

「綺麗なんやから、ずっと咲いてればええのになぁ」
「・・・・・・・・そう、ですね」
「・・・・?」

刹那の表情が一瞬曇る。
それに木乃香は気付いたが、なぜかはわからなかった。

「せっちゃん、桜嫌いなん?」
「いえ、嫌いでは無いですよ」
「そう? でもなんや、考え事しとったみたいやから・・・・」

会話を遮る様にさぁっと風が流れ、桜の花びらが二人の間を舞った。
刹那は返事を返さず、木乃香の髪についた花びらをとる。
木乃香は「おおきに」とお礼を言うと、刹那を見つめた。

「ウチは桜だーい好きやよ。桜咲・・・・せっちゃんも綺麗やしな」
「・・・・ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです」
「せっちゃん?」
「さぁ帰りましょう。暖かくなってきたとは言え、まだ風は冷たいので」

501 名前:桜の散る時[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 09:42:41 ID:CLd6ixJA

刹那は木乃香の前を歩いた。
買い物は済んでいるので、後は木乃香と荷物を寮に送るだけ。
・・・・しかし、木乃香は歩き出そうとしなかった。

「お嬢様?」
「・・・・せっちゃん、なに考えとるん?」
「え?」
「なんや、今日のせっちゃんおかしいえ・・・・仕事の時のせっちゃんみたい」

確かにそうかもしれない、と刹那は思った。
せっかく木乃香と二人きりになれたというのに、"護衛"としての自分が大きく出ているような気がする。

「悩み事、あるん?」
「いえ・・・・そういうわけでは・・・・」
「・・・・帰るのはもうちょい後。ちょい回り道してこっ」
「あ、お嬢様!」

木乃香は回れ右をして、帰路を外れる。
刹那もそれを追いかけた。

*

裏道であるために人もいなく、二人の間に静寂が流れていた。
先を歩く木乃香は、場の雰囲気の重さのせいで振り向くことができない。

「・・・・」
「・・・・」

(あちゃ〜、聞いちゃいけない事やったかな・・・・)

502 名前:桜の散る時[sage] 投稿日:2007/04/22(日) 09:43:45 ID:CLd6ixJA

木乃香は謝ろうとするも、刹那の重たい雰囲気に負けてなかなか口を開く事ができなかった。
久々のデートに水をさしてしまった、と後悔を感じる。

「・・・・なぜ日本人は桜が好きなのか、ご存知ですか?」
「へ?」

先に口を開いたのは刹那だった。
驚いて振り向く木乃香に目線を合わせないで、感情の無い口調で淡々と述べる。

「日本人といえば武士・・・・そして、武士の死に際は"死の美学"とも言われます。
 桜の名残惜しむ事無く散るその姿に、日本人は武士の死を重ね合わせて惹かれているんです。
 今はもう武士なんていませんが、それでも心は根深く残っているようですね」

刹那が木乃香の隣を通り過ぎ、また前を歩き出した。
木乃香はそれに遅れない様に慌てて追いかける。

「桜は綺麗ですが・・・・散ってしまえば忘れられてしまう儚いものです」
「え、そんな――」
「それは私も・・・・桜咲家も、同じです」
「・・・・っ!?」
「桜咲の名をもらう者は皆、私のような"わけありの存在"です。
 近衛家に仕え、近衛家のために散る・・・・そしてその存在の記録は、残ることはありません」
「せっちゃん・・・・」
「桜の花のように呆気なく散り、忘れ去られるのが私たちなんです」

再び訪れる静寂。
その静寂の間を翔ける風は、また残りの桜の花を散らす。

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