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909 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:09:45 ID:7uaQfn86

「今日は甘えんぼさんやね・・・・」
「・・・・誰だって、好きな人には抱き締められたいですよ」
「これもいつも、我慢してるん?」
「・・・・・・・・言えるわけ、ないじゃないですか」

刹那は照れた顔を見られまいと、木乃香の胸に顔を押し付けた。
木乃香はくすぐったさに身体を震わせて、撫でる手を止める。

「・・・・・・・・もっと、撫でて下さい・・・・」
「・・・・せっちゃんってば、かいらし過ぎやわ」
「ぅぐっ・・・・むぅ・・・・」

普段の刹那とのギャップに木乃香は喜びを感じ、わざと強く抱き締めた。
少し不満な声を出した刹那だったが、その直後に撫でられて再び大人しくなる。

「いつもの仕事前のせっちゃんと、全然ちゃうなぁ?」
「・・・・仕事前の私は、変ですか?」
「ちょっと、怖いやもしれへん・・・・昔のせっちゃんみたいで・・・・」

修学旅行前の刹那と、仕事前の刹那の鋭い眼光。
それは木乃香にとってトラウマとなっていた。
刹那もそれを知っている。
あのような態度をとる必要があったのだろうかと、今となっては後悔の一つであった。

「でも私は、もうお嬢様の傍を離れたりはしません」
「わかっとる。・・・・でも、やっぱ不安になるんやえ? 今日やて、何も言わんで行こうとしたんやろ?」
「それは・・・・・・・・」

910 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:12:06 ID:7uaQfn86

言葉を濁す刹那を木乃香はしっかりと抱擁する。
その行動は、"理由を言うまでは離さない"と伝えるには十分だった。
渋々、刹那は口を開く。

「・・・・お嬢様を見ると、行きたくなくなるからですよ・・・・」
「仕事に?」
「はい。お嬢様の顔を見ると、ずっと傍に居たくなってしまいますから・・・・」

刹那の腕が木乃香の背中にまわる。
刹那はもう捕らえられてなどいなく、逆に木乃香を捕らえていた。

「もうこのまま・・・・動きたくなくなりました・・・・どう責任とってくれますか?」
「・・・・送り出さな、ウチがお祖父ちゃんに怒られてまうえ?」
「それでも、嫌です・・・・と言ったら?」

駄々っ子のように仕事を拒否し始めた刹那に、木乃香は苦笑。
そして、いつまで経っても離れようとしない刹那を優しく説得する。

「ほなら・・・・仕事行ってきたら・・・・」
「行ってきたら・・・・? ・・・・んっ!?」

瞳を煌かせながら、刹那は顔を上げた。
その際に唇に柔らかいものが触れる。
これは世間で言う、"いってらっしゃいのキス"。

911 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:13:09 ID:7uaQfn86

「〜〜〜〜〜!?」
「・・・・ちゃんとウチの所に戻ってきたら、ご褒美あげるえ。・・・・でもそれは、帰ってきてからのお楽しみや」
「・・・・わ、わわ、わかりました。・・・・でも、もう少しこのままでいいですか?」
「せっちゃん、今日は甘えすぎやえ〜?」

木乃香はわしゃわしゃと刹那の頭を撫で、そして二人は笑い合う。
そしてこれから一週間会えない分を補充するかのように、二人は寄り添い合った。
しばらくそのままでいた二人だったが、無慈悲にも時は止まることはない。
刹那の身体に力が入るのを合図に、二人はそっと離れた。

「・・・・ありがとうございました。我侭を聞いて下さって・・・・」
「これぐらいやったら、いつでも歓迎やえ?」
「はい、またこれからも・・・・あ、いえ、そろそろ行かなければ!」

刹那は赤面しながらわたわたと荷物を持ち、玄関へと向かった。
木乃香も自室に戻る為に、その後を追う。

「せっちゃん、ちゃんと仕事終わったら戻ってくるんやえ〜?」
「はい、必ず!」
「向こうで浮気したらアカンよ?」

ガンッ

「し、しませんよ!」
「・・・・ほんま〜?」

刹那は玄関のドアに頭を打ちつけた。
木乃香が苦笑しながらその打ちつけた場所を撫でると、刹那はさらに赤面して距離をとる。
普段と変わり無いその行動だけで、木乃香は自分の心が落ち着くのを感じた。

912 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:15:44 ID:7uaQfn86

「そ、それでは、いってきます!」
「はよーおかえりや〜。ご褒美用意してまっとるな?」
「・・・・はい!」

刹那は笑顔で返事をし、走り出した。
どうやら出発予定時刻をオーバーしていたようである。
刹那はあっという間に廊下を走り抜け、すぐにその姿を捉える事はできなくなった。

「せっちゃん、廊下は走ったらアカンって・・・・」

届かぬ声は、誰もいない廊下に静かに木霊するだけだった。

「あっ・・・・ネギ君達のご飯作るの忘れとったわ」

刹那が走り去ったばかりの廊下。
いつも通る廊下なのに、特別に感じられるのはなぜだろうっと木乃香は思考を張り巡らせる。

――木乃香はその特別な気持ちを胸に秘めて、部屋に向かって駆け出した。


FIN

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