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905 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:04:56 ID:7uaQfn86

*

「せっちゃん、これは?」
「懐中電灯とロープはよく使うので、バッグの上の方でお願いします」

刹那の部屋にて、二人は刹那の荷物の準備をしていた。
刹那は随分と木乃香の申し出を拒否したが、結局は受け入れてもらえなかったようである。

「これで終わり?」
「はい、お嬢様のおかげで早く終わらせる事ができました。ありがとうございます」

感謝の意を込めて、刹那は頭を下げた。
その際に木乃香の顔が険しくなったのを、刹那は頭を下げた為に気付かない。

「・・・・お茶を淹れ直しますね」
「ウチがやるえ、せっちゃんは仕事に備えて休んどって?」
「いえ、私の部屋ですし・・・・」
「ええから!」
「は、はい!」

無理矢理座らされる刹那。
先ほどの教室での会話を盗み聞かれてから、主導権はすべて木乃香へと移っていた。
木乃香が淹れたお茶をすすりながら、刹那は恐る恐る訪ねる。

「・・・・あの、お嬢様・・・・ご機嫌斜め・・・・ですか?」
「うんv」
「うっ・・・・」

906 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:05:46 ID:7uaQfn86

黒い笑顔で木乃香は頷いた。
刹那はその、何とも言えない威圧感に言葉を失う。
しばらくの沈黙の後、木乃香は表情を曇らせてポツリと呟いた。

「・・・・なんで、ウチやなくてアスナやネギ君に言うかなぁ・・・・」
「え?」
「なんで、ウチやなくて、アスナ達に、言うかなぁ?」

同じ事を、区切りながら繰り返す木乃香。
いくら勉強が苦手な刹那でも、それが意味することを理解した。
この繰り返された言葉が、ご機嫌斜めの理由ということである。

「え、えと・・・・仕事・・・・の事ですか?」
「そや」
「しかし、仕事とお嬢様とは関係ありませんし・・・・」
「ウチとせっちゃんは関係ないん?」

ずいっと顔を近づける木乃香。
刹那は座ったままジリジリと後退する。

「そ、それとこれとでは話が・・・・」
「大ありやん! 一週間もせっちゃんと会えへんのやろ!?」
「でも仕事ですし・・・・」
「せっちゃんはウチと一週間会えなくて、平気なん? 仕事以外はどうでもいいん?」

木乃香は刹那を壁に追い詰めた。
逃げ場のない刹那に、木乃香はさらに詰め寄る。

907 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:06:46 ID:7uaQfn86

「ここに来てからもそうや。ウチがいるのに仕事しか考えてへん」
「お、お嬢様・・・・」
「・・・・ウチって・・・・せっちゃんの何なん・・・・?」

木乃香の勢いがここで止まった。
目には涙を溜め、やり場のない感情を必死に刹那に訴えていた。

「・・・・仕事の方が・・・・大事なん・・・・?」
「私は・・・・ただ・・・・」
「・・・・ただ?」

刹那は言葉に詰まる。
しかし今目の前にいる木乃香には、隠し事などできないと本能的に察した。

「・・・・我慢、してるだけです・・・・」

追い詰められて出た刹那の本音。
過去を思い出し、刹那は俯いた。
それは両親がいない半妖の刹那が経験した、生きていく事の辛さ。

「生きていくには・・・・仕事が必要ですから・・・・」
「・・・・そうやね。コタ君も苦労してた言うてたもんね」
「・・・・それに・・・・お嬢様の傍にいるためにも、仕事は必要です――・・・・え?」

ふわりとした優しい香りと共に、刹那は暖かいものに包まれた。
とっさに刹那は木乃香を見ようとしたが、木乃香の顔はすぐ横にあり表情は見る事ができない。

「でもな・・・・たまには我侭言ってもええんとちゃう?」
「・・・・我侭、ですか?」
「うん・・・・せっちゃん、頑張りすぎやえ?」

908 名前:遠出[sage] 投稿日:2007/05/21(月) 23:07:38 ID:7uaQfn86

木乃香は刹那を包みこんだまま、優しく頭を撫でる。
そのまま撫で続けていると、次第に緊張していた刹那の身体から力が抜けていった。

「仕事よりウチの事見て欲しいっていうんが本音やけど・・・・」
「お嬢様・・・・えと・・・・」
「せやけど・・・・我慢しすぎとちゃう?」
「・・・・ぁ、ぅ・・・・」

刹那は何かを言おうとしていたが、なかなか言葉が続かない。
そんな刹那のことを、木乃香は抱き締めながら待っていた。

「では、その・・・・」
「うん」
「・・・・もう少し、このままでいてくれますか?」
「・・・・・・・・え?」

予想外の返答に、木乃香は驚いた。
普段なら、そろそろこの状況から逃げ出そうとする頃だと思っていたからだ。
そんな木乃香の様子に刹那が慌て始める。

「嫌でしたら、いいんですが・・・・!」
「あ、嫌やないえ! ・・・・これでええ?」
「ん・・・・はい・・・・」

木乃香は刹那を包み込んだまま撫でる。
すると、次第に刹那は木乃香に身体を預けてきた。
まるでこのまま寝てしまうのではないかと思うほど、穏やかな呼吸音が聞こえる。
それと反比例するように高まる、木乃香の鼓動。
立場はいつもと逆になっていた。

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