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62 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 19:01:46 ID:fgjB1J6r

『最後の一時まで、生きる事を諦めるな・・・・』
――父上?

『私が死んだら・・・・里を去りなさい・・・・ここにいては、あなたも・・・・』
――母上?

『白烏はどこにいった!?』
――逃げないと。

・・・・ただ、走った。
この背中には白い翼があるけれど、まだ飛ぶ事はできない。
走る事で生まれる風が翼に当たって、しみるような痛みを感じる。
あぁそういえば・・・・自分で羽根を毟ったんだっけ。
この白い羽根さえ無くなれば、私も烏族の仲間として受け入れられると思って。

結局、受け入れられることはなかったけれど――。

*

「・・・・っく・・・・はぁ!」

ドクンっと心臓が高鳴り、私は飛び起きた。
いつもと同じ部屋・・・・夢・・・・?

「夢見が悪かったようだな」
「・・・・悪夢だ。それも、思い出したくない・・・・」
「昔の夢か」
「っ・・・・」

63 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 19:02:33 ID:fgjB1J6r

乱れた鼓動が治まらない。
お嬢様に受け入れられて、乗り越えたはずのコンプレックスが蘇る。
私は異端児。
私はケダモノ。
私は――。

「――刹那、お前はどうするつもりだ?」
「・・・・・・・・?」
「聞いてなかったのか」

わざと大きくため息をつく龍宮を相手に、少し頭にきた。
私がそれどころではないと、こいつはわかっているはずなのに。

「だから、"私は今日から月曜まで実家に戻る。その間のお前の予定は?"と聞いたんだ」
「・・・・とくに」
「そうか」

なぜ聞くのかわからない。
他人のことには余り口を出さないこいつが、なぜ私の予定を聞くのか。

「・・・・仕事ぐらいなら、代わりに引き受けてやるが?」

・・・・ああそうか、こいつなりに気を使っていたのか。
だがあいにく今引き受けている仕事は無い。
そう伝えると、龍宮は「ではまた月曜に」と言いながら部屋を出ていった。
龍宮が去った後も、しばらく私はぼうっとする。
背中では、隠している翼が疼いていた。
あの時毟った羽根はもう既に生え揃っていて、飛ぶ事に支障は無い。
色も白のまま。

64 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 19:03:24 ID:fgjB1J6r

そういえば、あの里はどこだっただろう?
神鳴流の道場に預けられてしばらくした後に、「烏族の里を落とした」と話を聞いた事はあった。
式神として召喚される烏族と違って、己の意思で好きに行動できる烏族が集まる、私の故郷。
そこは神鳴流にとって邪魔なものだったらしい。

・・・・断ち切ったはずの過去。
随分と長い間忘れていた記憶たちが蘇ってくる。
決して戻らないと誓っていたはずなのに、なぜこうも私は想いを馳せるんだ?
何度か頭を振って振り払おうとしたが、それも無駄だった。

「・・・・・・・・すみません、お嬢様・・・・少し出掛けてきます」

私は簡単に荷造りをした。
別に深く考えてなどいない。
すぐに戻ってくるつもりだ。
持っていくのは交通費と、術に必要な型や札と・・・・そして夕凪のみ。
ネギ先生との契約の証であるカードや、その他携帯等の連絡手段は全て机の上に置いた。
ただ独りで行きたかった。
任務も何もかも忘れて、生きる術を手に入れたこの身体で・・・・自分の生まれた場所を確かめたかっただけだった。

65 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 19:04:56 ID:fgjB1J6r

*

人の夢というのは、いくつかに分けられる。
予知の夢、願望の夢、思い出の夢。
特に"思い出の夢"というのは重要なもので、人はこれを見る事で思い出を維持するという。
魔法か何かでこの"思い出の夢"をいじると、そのまま記憶も摩り替わってしまうほどだ。

もしネギ先生の魔法で、思い出の記憶をいじる事ができたなら・・・・少しは楽になるのだろうか?
今度頼んでみようか?
・・・・いや、そんな事をいったらきっと明日菜さんやお嬢様に叱られるだろうな・・・・。

『――まもなく、京都です――』

そんな物思いに耽っていたところに響く車内放送。
今私が乗っているのは京都行きの新幹線だ。
あれから私はすぐに京都行きの新幹線に乗り込んだ。
故郷の位置の記憶があやふやなままだったし、出るなら早めがいいと考えての事だった。

京都駅からは自分の足で目的地へと向かう。
立ち入り禁止と書かれた看板を無視し、道を外れて山の奥へと進んだ。
昔もここは、妖怪が溢れていた危険な山だった。
しかしここらの妖怪も私の里と同じように、神鳴流によって調伏されたと聞く。

そんな安全で静かになった山でも、一般の人々は訪れない。
それはきっと、古くから語り継がれる"恐れ"があるからだろう。
日本の古都と呼ばれる京都の地には、こういった一般人が踏み入れない場所が数多く存在していて、
私のような異端の者たちがそこで生まれ、生活している。

66 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 19:06:55 ID:fgjB1J6r
"気"を使って一気に山を走り抜けると、不自然に拓けた場所に辿り着いた。

「随分と・・・・私の故郷は廃れたものだ・・・・」

やはりというか、そこには何もなかった。
数年前に神鳴流に滅ぼされてから、自然と一体化していったのだろう。
所々に何かが生活していたような面影はあったが、それも一時住んでいた私だからわかる些細なものだった。

私はそこからさらに先にある草木が茂った道を進む。
しばらく放置されていた為か、見るだけでは"道"とわからなかった。
そしてこの先にあるのは・・・・小さな滝。
・・・・小さい頃に一人でこっそりと来て羽根を毟っていた、あの滝だ。
ここだけは昔と変わらない。

滝の裏に向かうと、そこにあるのは小さな洞窟。
そしてその奥に立てられた、小さな石。

「お久しぶりです、父上・・・・母上・・・・」

忘れるはずも無い。
自分で作った両親の墓・・・・無事で、良かった・・・・。
先ほど駅前で買った菊の花を添える。
手を合わせると、なぜか気持ちが落ち着いた。

しかし、このとき私の中ではもう一つの感情が渦巻いていた。
それは心の奥深くに封じ込めていた、負の感情。
お嬢様たちが取り払ってくれたはずの、心の闇だった。

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