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70 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 23:18:52 ID:fgjB1J6r

――麻帆良を出て、何日経っただろう?
ここに来てから1週間・・・・それ以上の夜を迎えたと思う。

最初は土日の2日で、麻帆良に帰る予定だった。
それなのになぜか故郷から離れられない。
護衛に戻らないといけない、それはわかっている。
お嬢様に心配をかけさせるわけにはいかない、それもわかっている。

「・・・・廃れても、やはり故郷は故郷なのか・・・・?」

かつて村があった何も無い場所に、寝転んで空を見つめる。
昼下がりだというのに空が暗い。
なんか、雨が降りそうだな・・・・。
こうやって空を見ながら・・・・お腹が空けば川で魚を捕り、夜になれば滝の裏の洞窟で眠って・・・・。
勉強も仕事も無く、ただ自然と生きていくだけ。
それが幼年期の自分が過ごしていた環境。
もし私が"白烏"でなければ・・・・このまま、ここで静かに生活していたかもしれない・・・・。

――せっちゃん。

ふいに空耳が聞こえた。
ここに来てからというもの、毎日必ずこの空耳を聞く。
父と母に会いにきたはずなのに、お嬢様の事が頭から離れない。

71 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 23:22:53 ID:fgjB1J6r

・・・・会いたい。

――戻ろうと思えばすぐに戻れるのに。
なんで戻らないんだろう。
自分の心なのに、わからない。

・・・・お嬢様・・・・元気にしてるかな。

――疑問に思うなら、会いに行けばいいじゃないか。
ここ数日、ずっと自問しているが答えは出ない。

目を閉じ、心を落ち着かせてみる。
不思議と自分も自然と一体化した感じがして、もうずっとここにいてもいい感じがした。
むしろ、もうこのまま動かないで・・・・本当に一体化してもいい・・・・。

風がなびき、少し離れた場所にある木々が音を立てる。
雨の匂い・・・・本当にこれは一雨来るな・・・・。
・・・・どこからか生き物が動く音がする。
獣が私を狙っているのか・・・・。

72 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 23:24:06 ID:fgjB1J6r

――ガサッ!

「・・・・・・・・せっちゃん!」
「え・・・・?」

空耳・・・・?
いや、これが空耳のはずない。
目を見開くと、道らしい道もない草むらからお嬢様が顔を出していた。

「やっと・・・・みつけた・・・・!」
「・・・・お嬢様・・・・なぜ!?」

なぜ、ここに・・・・?
この場所を知っているのは、烏族と神鳴流の者のみのはず・・・・。

「お父様に聞いて・・・・きたんや・・・・」

なるほど・・・・詠春様なら、この場所を知っていても不思議は無い。
お嬢様はこちらに駆け寄ってきた。
慌てて私も立ち上がる。
それにしても――。

「ここまで一人で・・・・!? なんて無謀な――」
「せっちゃんの、どあほっ!!」

――パンッ!

静かな自然の中に、弾ける様な音が響いた。
特に私の耳にはダイレクトに響く。
その直後に左の頬が熱くなった。

73 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 23:26:36 ID:fgjB1J6r

「――っ!?」
「どあほどあほどあほ! こん・・・・どあほっ!!」

・・・・初めて見た。
お嬢様が、こんなに怒る顔を。
叩かれた痛みなど感じなかった。
ただびっくりした・・・・お嬢様に叩かれるだなんて、予想もしてなかったから・・・・。

「・・・・心配、したんやから・・・・っ!」
「お嬢様・・・・」
「お祖父ちゃんもお父様も、知らん言うから・・・・もう会えんかと思うた・・・・っ!」

・・・・。
お嬢様が、泣いている。

「泣かないでください・・・・」
「・・・・だれが、泣かせてると、思うとるん・・・・!」
「・・・・っ」

その答えは、"私"だ。
お嬢様が泣きながら私を抱き締めてくる・・・・でも抱き締め返す事も、謝る事ができなかった。
はがゆいような感じが胸の奥からして、なぜか謝りたくなかった。


――ポツ・・・・ポツッ

雨が降り出した。
私の予想は的中。
・・・・ここにいては、お嬢様が風邪をひいてしまう・・・・。
私だけならまだしも、それだけは避けたかった。

74 名前:故郷[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 23:27:34 ID:fgjB1J6r

*

「滝の裏に洞窟やなんて、ロマンチックやね」

先ほどの憤怒した顔が嘘のように、お嬢様は穏やかな顔で微笑む。
そしてお嬢様は気付く。
洞窟の奥に不自然に置かれる石と、その前に置かれる花に。

「これって、もしかして・・・・」
「両親の墓です」

少し、冷たい口調になってしまった。
お嬢様の顔も少し固くなる。
また、怒らせてしまったかも・・・・。

滝の音が響く中、私とお嬢様は沈黙していた。
お嬢様はずっと私を見ているが、私は顔を合わせる事ができない。
謝罪の言葉も、まだ出ていない。
悪いとは思っているのに・・・・それなのに・・・・。

「なぜ・・・・こんなところまで、きたのですか?」

出てくるのはこういった、引き離すような冷たい言葉ばかり。
・・・・というか、なんで私はこんなことを聞くんだ。
お嬢様は優しいから、だからに決まっているじゃないか。

「・・・・なんで、そないなこと聞くん?」

やっぱり、言われた。
私は下を向いたまま、黙る。

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