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772 名前:週間テーマ 『台風』[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 06:22:49 ID:cSZ7a8AL

私は、雨に濡れない屋上の入り口にいるお嬢様の元へと向かう。
今の気持ちは・・・・『嬉しい』が一番適切な言葉だと思う。
しかし『気まずい』も、かなりあった。
特に今、この右手を見られるわけにはいかない・・・・。

「せっちゃん」
「は、はいなんでしょう?」
「右手、見せてみ?」

できるだけさりげなく身体の後ろに隠した右手に、気付かれていた。
お嬢様の手には魔法練習用のワンドが。
・・・・ばれている。

「・・・・いえ、それよりも・・・・早くお嬢様はおやすみに――」
「――ええから、はよ出し?」

必死に誤魔化そうとしたが、それは無駄に終わってしまった。
お嬢様に右腕をつかまれ、右手を引っ張り出される。
私の右手から滴る雨水には、赤い液体が混ざっていた。

「どうしたん、これ・・・・酷い火傷やん・・・・」
「あ・・・・その・・・・」
「とりあえず、座り?」

お嬢様は口篭る私を階段に座らせ、傷を癒してくれる。
お嬢様の力で、一瞬にして火傷は治っていた。
治癒が終わるとお嬢様は、黙って私を見つめる。
誤魔化すわけには、いかないようだ。

773 名前:週間テーマ 『台風』[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 06:25:13 ID:cSZ7a8AL

「えーと、その・・・・。"雷鳴剣"を、使ってしまいまして・・・・」
「あの、感電するやつ?」
「はい・・・・雨の日は使うなと、注意は受けていたのですが・・・・」

本来ならば、刀の刃の部分だけに電撃が伝う技。
しかし雨などで刀全体が濡れているときにこの技を使うと、柄の部分にまで電撃が伝ってしまう。
つまり、漏電というやつだ。

「技を放つ直前に気付いて、威力は弱めたのですが・・・・既に手遅れで・・・・」
「そうなんや・・・・せっちゃんうっかりさんやな。・・・・でも、無事でよかったわ・・・・」

お嬢様はそう言うと、私の右手をそっと包み込んで微笑む。
これはもう仲直りでいいのだろうか・・・・?
まだ少し躊躇する私を尻目に、お嬢様は私の手を引いた。

「ほな、もどろ? せっちゃん翼もびしょびしょや」
「あ、はい・・・・」
「翼大きいから、拭くの大変そうや――ひゃあ!?」

なぜか階段の踊り場が濡れていて、そこでお嬢様が足を滑らせた。
お嬢様は私の方に顔を向けていたから、気付かなかったのだろう。
私は繋いでいた手を引っ張り、床に叩きつけられる前にお嬢様を抱き上げた。

「大丈夫ですか!?」
「う、うん、ありがとな。・・・・ひゃあ、つめたぁ〜」
「あ、すみません!」
「平気や、平気v」

774 名前:週間テーマ 『台風』[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 06:28:27 ID:cSZ7a8AL

びしょ濡れの私が抱きかかえたのだから、もちろん抱きかかえられているお嬢様も濡れてしまうわけで。
すぐに離れようとしたが、お嬢様の手が私の首にまわっていた。
でもお嬢様の顔は下を向いていて、私からは表情を確認する事はできない。

「お嬢様?」
「・・・・せっちゃんって、ほんま優しいな・・・・」
「え?」
「ウチにあんな酷い事言われたんに、怒らないで・・・・こうやって助けてくれて・・・・」

うつむくお嬢様の手に力がこもる。
私と同じく・・・・いや私よりもお嬢様の方が、夕方の事を気にしていたのかもしれない。
私は一度離しかけた腕を、もう一度お嬢様の身体にまわした。

「それは、嘘をついた私が悪いですし・・・・お嬢様は私の事を心配して下さったのですから・・・・」
「でも・・・・言ってええ事と、悪い事があるやん・・・・ごめんな・・・・」
「・・・・こうして会いにきてくれる事が、どれだけ嬉しいか・・・・もう、気にしてませんよ」

冷たさ以外の理由で震えるお嬢様を、私はさらに強く抱きしめた。
しばらく抱き合った後、お嬢様がふいに顔を上げる。
自然と、唇が重なっていた。

「・・・・これからは、嘘ついて仕事に行かんでな?」
「はい」
「それと・・・・怪我したら、隠さないでな?」
「はい・・・・すみません」

775 名前:週間テーマ 『台風』[sage] 投稿日:2007/07/22(日) 06:29:40 ID:cSZ7a8AL

身体が離れたときには、先ほどまでの気まずさはなくなっていた。
自然と笑うお嬢様。
私もつられて笑っていた。

「ほな風邪ひかんうちに、はよ戻るえ〜!」
「お嬢様、声が大きいです・・・・!」
「あ、あかんあかん。せっちゃんに会うたら、元気になってもうて・・・・」

元気に走り出すお嬢様を前に、私は背中の翼をしまった。
でも部屋に戻ったら・・・・自分の意思で、また出そう。
きっとお嬢様が、冷えたこの翼を暖めてくれるから――。


FIN

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