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574 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 23:24:08 ID:BStcs/9c
外はもう完全に闇に包まれている、深夜2時。
寒い、と刹那はふっと顔を上げて思った。
一応上着を着てはいるものの、冷たい空気で指がかじかんでいる。
ひたすら書類にペンを走らせ続けていると、背後に人の立つ気配。

振り返ると、いつのまにか背後にいた木乃香が「せっちゃん?」と眠そうな声で呼び掛けた。




『お手をどうぞ』




「すみません、起こしてしまって…」
「ええんよ〜。ちょっとな、目覚めただけやから」


刹那が謝ると木乃香は屈託のない笑顔で答える。
灯りはやはり付けるべきではなかった、と刹那は後悔した。
木乃香はだいぶぐっすり寝ていたので、付けても大丈夫だろうと判断してしまったのだが。
今日は木乃香が刹那の部屋に泊まりにきていて、先ほど2人で夕食も摂り、寝たところだ。
ただ、刹那は実際には浅く眠っただけで、木乃香がぐっすり眠ったのを確認すると同時にベッドを抜けた。
仕事関係の書類を片付けておこうと思ったのだが、意外と手間がかかり、もうだいぶ夜遅くなってしまったのだ。
もう少しで終わるかと思ったのだが、木乃香が灯りに反応して起きてしまったらしい。
そんなわけで、今ミニテーブルで刹那が物書きをし、背中越しに木乃香がその書類を覗き込むような体勢になっている。
木乃香の手が両肩にかかっているため、刹那としては少々恥ずかしい。
だいぶ身体が密着しているのだから。

575 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 23:25:24 ID:BStcs/9c
それでも抱き着いてこないあたり、木乃香は刹那が書きやすいようにと配慮してくれているようだ。
 そんな木乃香の心遣いが刹那にとってとても嬉しい。
嬉しいの、だが。


「お嬢様、寝られてもいいのですよ…?明日も学校なんですし」
「それはせっちゃんも一緒やん」
「しかし、私などにお嬢様を付き合わせるわけには…」
「ええの〜。ちょっと、起きてたい気分やから」


「そう、ですか」と刹那は返事をして、内心で木乃香に感謝をしながら書類を書くスピードを速める。
刹那が何を言っても木乃香は刹那が寝るまでは寝ないだろうし、だったら早くこの書類を片付けるほうがいい。


「せっちゃん、毎日こんなに遅くまでやってるん?」


木乃香がふいに訪ねる。刹那は「そうですね」と書類から顔を上げて答えた。


「でも、毎日というわけではないですね…。まあ、勉強もあるので、だいたいの日は遅くまで起きています」
「そっかぁ。大変なんやなぁ」
「いえ、あまり苦痛は感じませんよ」



577 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 23:27:39 ID:BStcs/9c
顔を見ながら話せないのが刹那としては心が引けるのだが、木乃香はあまり気にしていないようだった。
興味津々といった感じで刹那の書く書類を覗き込んでいる。
刹那の性格が表れているような、小さく堅い、整った字だ。
木乃香が身を乗り出すようにするため、長い髪がさらりと垂れる。
そこから微かに漂ってきたシャンプーの香りが鼻孔をくすぐった。
刹那は頬を緩ませる。


(あ、いい香り)
「なあ、せっちゃん」
「…あ!はい!」


赤くなり、慌てて返事をした。
木乃香の香りに反応していたことが分かったらどうしよう---などと無駄な心配をしたが、勿論そんなわけはなかった。


「ううん。…なんや、やっぱりせっちゃん好きやなぁ〜って思うて」
「は…はい?」
「えへへ」


照れもせずに笑顔でそんなことを言える木乃香に、刹那がさっき以上に頬を染める。
いきなり何を言うんだこの人は。
だが木乃香は目を細めて続けた。


「せっちゃんにくっついてたら、なんやそう思ってしもて」
「あ…ありがとう、ございます…///」
「…なー、せっちゃんも、そう思てくれてるん?」


578 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/11/27(火) 23:28:26 ID:V7gcAXJI
ほんの少し首を傾けて問うてくる木乃香に、…刹那は言葉に詰まってしまう。
言いたいこと、答えたいことははっきりとしているのだが---それを口に出すことは、刹那にはまだ、出来そうにない。
まだきっと、自分から言うのは刹那には早すぎるのだ。
そんな刹那だから、赤くなって「…は、はい。…あの…」と短く肯定することしか出来ない。
刹那の反応に、木乃香は苦笑する。


「ええよ。そう言ってくれるだけでウチ嬉しいもん」
「…いえ…あの、ありがとうございます」
「ううん。ウチも」


ふっと肩から木乃香の手が離れる。
同時に、背中全体で感じていた木乃香の感触も消えた。
どうやら立ち上がったようだ。
刹那が後ろを向こうか迷っている間に、ひたひたという足音が離れていく。


(…寝られた…わけではない、よな…?)


トイレにでも行ったのだろうか。
刹那はどうしようか少し考えたが、やはりそのままペンを走らせる。
休まずずっと書いていたために、だいぶあった書類の最後の1枚を書き終えた。
ふう、と大きく息をつき、正していた姿勢を崩す。
床に両手をつき、天井を仰いだ。


「終わった…」


呟いて、小さくあくびをひとつ。動かしすぎて右手がだいぶ疲れていた。
そのまま、ぼおっとした目で天井を見る。

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