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90 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/01(金) 21:04:24 ID:VUfel3rD
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見慣れた正門を前にして刹那は重い溜め息をついた。
…懐かしい筈なのだがその感情を湧かせるには少々無理がある。
何と言って諭そうか。
納得させるには自分の抱えるもの…いや、それ以前の現実を口にせねばならない。
そのことが刹那の足に根を生やさせていた。
あんなに嬉しそうに話してくれた表情を沈めたくはなくて、でも。
下手をして老人達に知られでもしたら間違いなく木乃香は京に止どまらざるを得なくなる。
………馬鹿な真似をしていないと良いのだが。
刹那はこれまでの人生で妥協を見出だすことに慣れていた。
今までだって木乃香の傍に仕えていられるだけで十二分に刹那は幸せだった。
……そこにはごくごく普通の恋があったから。
出来るならその甘さに浸り切っていたい。それ以上を望むことは木乃香の護衛解任に繋がることを知っていたからだ。
勿論、木乃香の申し出は嬉しかった。
本当に。
自分等を本契約の相手として望んでくれた。
その事実だけで満たされる程に、………嬉しかった。
最初の頃は…只の遊び友達。
師範に手を引かれ初めて近衛の門をくぐったことを思い出す。
大人の陰に隠れながらぴょこりと顔を覗かせた木乃香のことは昨日のことのように覚えている。
鞠つき、お手玉、かくれんぼ。
木乃香は自分の知る遊びはなんでも刹那としたがった。
互いに年の近い友達のいなかったせいもあり二人は姉妹のように中睦まじかった。
それを目を細め詠春は眺める。
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91 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/01(金) 21:05:15 ID:VUfel3rD
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そして時折二人の名を呼んでは優しくその髪を撫でた。
捨て子であった自分をこんなに気に掛け、実の子のように接してくれる詠春。
そして時は流れ、二人が十三歳を迎えた頃。
詠春の意向で木乃香は京を離れ遠い麻帆良で新しい生活を始める。
詠春から理由を聞かされた時、刹那は泣いた。
きっと生まれて初めての感情で、…泣いた。
…詠春は泣きじゃくる刹那の髪を昔と同じように、優しく撫でた。
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92 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/01(金) 21:06:16 ID:VUfel3rD
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そんなに遠い昔ではない。
ほんの二年程前の話だが、あの時の気持ちは薄れもせずに記憶にあった。
その頃には、おっとりとした京弁のあの人が…好きだったから。
守ってあげたい、とかそんな気持ちではなかった。
傍に居たかった。
近くに居たかった。
でも、それは望んではいけないこと。
いつの日からか、白き翼の意味、何故捨てられてしまったのかを詠春は説くようになった。
刹那を傷付けぬよう、柔らかい言葉で……少しずつ。
翼を出してはいけない、誰にも見せてはいけない。
髪、瞳を隠し続けることの必要性。
『私は君を大切に思う。
だが、そう思わない人が残念だけどね…、……たくさん、居るんだ。
だから。
君が幸せになる為に、この約束を交わそう。
捨てられたことを引け目に感じることはない。
私も、木乃香も、…君を好きだよ』
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93 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/01(金) 21:06:48 ID:VUfel3rD
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ひとつ、深呼吸。
縁取られた、ささやかな幸せを守ろう。
忌まわしき翼を持つ私に許された一瞬の暖かさの為に。
刹那は続く階段をゆっくりと……登っていった。
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