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938 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 20:39:14 ID:Oiuc8j0a
桜が咲いていた。
並木道を埋め尽くすように植えられたそれから花びらがちらちらと散っている。
まるで別の世界のような美しさに歩みを止めて見入ってしまう人も少なくない。
まぁ、私のことですが。

……こんな風に咲いていたんだ。

何度となく見てきた筈の桜なのに可笑いですね、綺麗だなんて思ったのは初めてです。
きっと、今までの私では感じることの出来なかった気持ちだろう。
散り行く花びらを手に取る。手の平に佇むそれは淡い淡い色を湛えて春の訪れを体現していた。

ふふ、と小さく笑って隣を歩く人が私の髪に触れた。

「花びら、付いとるよ」

「え?
あ、すみません」

慌てて髪をぱたぱたと叩く。
はらはらと幾つか落ちていくのを見て笑ってしまった。

「間抜けですね」

「剣士ともあろー者が頭上を許すなんてっ」

「申し訳ありません」


939 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 20:41:39 ID:Oiuc8j0a
冗談めいたその口振りにまたも笑う。
それにつられたかどうかは定かではないが、お嬢様も咲く花に負けずとも劣らぬ笑顔を返してくれた。
お嬢様と背中合わせに立つ桜に見惚れるふりをして、その実この人を見ていたのは……言うまでもなく。

「みんな浮れてまう季節やねー」

「…はは」

あまりに浅はかな誤魔化し方がばれたのか、とぎくりとする。

「…まぁ、ウチも浮かれるし?」

「え、


……わっ?」

不意に手を取られて躓きかけた。

「走れぇ〜、せっちゃーん」

「お、お嬢様ッ」

どこに行くつもりなのか、等と問う隙さえなくて引かれるままに走る。

二人をけしかけるように、追風。
風に乗り桜が舞散る。

お嬢様と、私を……認め祝うかのように。


940 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 20:42:40 ID:Oiuc8j0a



そう、桜だけが。

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