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812 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:42:42 ID:tUiZ2mVL
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左肩に感じる温かな感触。それほどの重みのないそれは、けれど、私にすれば確かに感じる存在感だった。
「お嬢様…よほど疲れていらしたのですね。」
お嬢様はいつの間にか眠ってしまっていた。それも私の肩に寄りかかって。
ソファに二人腰掛けて、いつものように他愛のないおしゃべりをしていた日曜の昼下がり。
といっても、そうそう楽しい話ができるほどの話術をもっていない私は、お嬢様が色んな話をしてくださるのを
ただ静かに微笑んで相槌を打つことくらいしかできないけれど。
土日はほぼ毎週のように修行のために山にこもっている同居人の楓は、今日もこの部屋にはいなかった。
ゆっくりとお嬢様とお話ができる場所として、計らずともこの場所は居心地がよかったのだが。
「んん…っ…ちゃん…」
私の肩にもたれたまま眠ってしまっているお嬢様の口から、聞き取れないほどの寝言がもれている。
ふとその寝顔を見届けると、自分でも気づかないうちに顔がほころんでいった。
「お嬢様…」
安心したように眠っているその表情は、幼い時の『このちゃん』のままのようにさえ感じる。
随分と立派に成長されたお嬢様を10年ぶりに見た時は、時の流れの重みを感じたが、
今となってはその痛みすら懐かしく思い返すことが出来るほど、私の心もまた安定していた。
そう思えるようになったのも、お嬢様が私に居場所を与えてくれたお陰だけれど。
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813 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:45:11 ID:tUiZ2mVL
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「いつまでもお守りいたします。」
眠っているお嬢様を起こさないように、そっとつぶやく。
それは心の中でいつも思っていたことだった。
ただお嬢様の負担になる言動は避けたかったから、言葉に出して言うことは決してなかったけれど。
その決意を言葉に出すことで、私はもっと強くなれるような気がしていた。
春うららかな陽気がこの部屋に差し込んでくる。お嬢様がついつい眠ってしまうのも頷けるほどの。
柔らかくて、温かかくて、まるでお嬢様のような優しいこの季節が私は好きだった。
換気のため少しだけ開けていた窓から風が入り込み、時折ゆるりとカーテンを揺らしている。
「やはり何かかけるものをもってこよう。」
温かくなってきているとはいえ、眠っているお嬢様にとってはまだまだ肌寒く感じる気温かもしれない。
寝顔と寝息を確認しながらそっと体を離して、お嬢様の頭をゆっくりとクッションの上においた。
「よかった。起こさずに済んだようだ。」
ほっと一息ついて、ソファーから静かに立ち上がった、その時。
「…せっちゃん、どこ行くん?」
ぎゅっと私の手首をつかんでいるのは、紛れもなくお嬢様だった。
「お、お嬢様!起こしてしまったのですね。申し訳ありません。」
振り返りざま床に片膝をつき、私は頭を落とした。
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814 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:47:26 ID:tUiZ2mVL
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「ややなぁ、せっちゃん。何もせっちゃん悪い事してへんねんから、顔あげてぇな。」
体を起こしながら、柔らかい笑い声でお嬢様がそう言った。
「しかし…。お嬢様が眠っていらしたのを起こしてしまったのは、やはり私の不徳の致すところで…」
「ふふっ。せっちゃん、ほんまにまじめやなぁ。」
「いえ、そういう問題では…」
「今のはうちが悪いねんから、せっちゃんは気にせんでえぇのに。」
「ですが…」
「ほんまにせっちゃんは何も気にせんでええんよ。…それに…ほんまのことゆーたら、うち…寝てへんかってんもん。」
思わず顔を上げてしまった。
「…?お嬢様、一体何を…?」
「せやから、うち、ほんまは眠ってへんかってんえ。」
お嬢様の瞳をみる限り、それが嘘でないということは明らかだった。
けれど、そうであるならば一体お嬢様は…
「…どうしてそのようなことを…?」
心に感じた疑問そのままに私がそう質問すると、お嬢様はうつむいてしまった。
心なしか頬が赤く染まっているようにさえ見える。
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