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815 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:49:11 ID:tUiZ2mVL
「お嬢様…?」

心配になった私はあわててソファに座り込み、隣にいるお嬢様の顔を覗う。
けれどその口からもれてきたのは意外な言葉だった。

「うち…せっちゃんに甘えてみたかってん…」

「えっ…えええっ!」

ドキドキドキと、急激に鼓動が高鳴り始めた。

「うふふ。ややなぁせっちゃん。何もそんなに驚かんでもええやない。」

そんなことを言われて驚かないはずはない。
私はただあたふたとするよりほかなかった。

「堪忍な、せっちゃん。せっちゃんを困らそうおもぉてした訳やないんやけど。
…やっぱりせっちゃんには迷惑やったね。」

今にも泣き出してしまうのではないかと思えるほどの寂しげな笑顔がそこにあった。
胸の奥をぎゅっとつかまれるような、そんな精一杯の笑顔。
だから私は…

「もし…私でよければ…」

「…えっ。せっ…ちゃん?」

「私のようなものでよければ、甘えてくださってかまいません。」

頬が熱く燃えているのが自分でもわかる。
これ以上ないくらいの恥ずかしさが全身を支配していたけれど、お嬢様の気持ちに少しでも
応えることができるのなら、こんなことくらい何でもないことなのだ。

816 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:51:08 ID:tUiZ2mVL
「優しいなぁ、せっちゃんは。」

そう言いながら、お嬢様はぽすっと体を私に預けてきた。

「お…お嬢様…」

「せっちゃんの体、柔らこうて、あったこうて気持ちええわぁ。」

まるで子供がそうするように、私の事を抱きしめる。
思わず抱きしめ返してしまいそうになる自分の手を、戒めをこめるように固く握った。

「なぁ、せっちゃん。」

「はい。」

「ほんまはうちな、前からずぅっとこうしてみたかったんえ。」

「………」

「…こんなことゆーたら、またせっちゃんのこと困らせるだけやのにね。」

お嬢様の声が、直接体に響いてくる。
本当ならお嬢様のそんな言葉にちゃんと否定の言葉を返さなくてはならなかったのだが。

「本当です、お嬢様。」

「…せっ…ちゃん…」

驚きで顔を上げ、戸惑いを秘めた瞳がまっすぐに私を見ていた。
その瞳は悲しい色に染まりつつある。けれど私は…

817 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:53:13 ID:tUiZ2mVL
「本当に困ったお嬢様です。そんなことをおっしゃられては、私も…お嬢様のことを抱きしめかえしてしまいたくなります。」

「…えっ…」

「お嬢様…」

固く閉じていた拳を開き、サラリと流れ落ちているストレートの髪に指を通して
その頭を胸に抱きかかえた。

「せっちゃん…」

「私も本当は、ずっとこうしてみたかったのです。大切なお嬢様のことをずっと、ずっと…」

互いに体を抱きしめたまま、しばらくは何も言わずそうしていたけれど、
不意にお嬢様がこう切り出した。

「せっちゃん。昔みたいにうちのこと名前で呼んで?」

近衛家に仕える人間が主君に対して軽々しく名前を口にするなど本来なら言語道断。
けれど今なら、この瞬間だけなら許されるのかもしれない。
お嬢様がそう望んでくださるのなら…

「このちゃん…」

その呼び名を声に出した瞬間、お嬢様は更に強く私を抱きしめてきた。

「せっちゃん、せっちゃん、せっちゃん!」

「はい。…聞こえていますよ…このちゃん。」

「うち、嬉しい。せっちゃんがうちのこと昔みたいにこのちゃんって呼んでくれて…。」

818 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/01/02(火) 23:54:28 ID:tUiZ2mVL
その声は心なしか震えているように感じた。
だから私は失礼を承知でその頬にそっと手を当てた。

「このちゃん。私はずっとこのちゃんの側を離れません。そして…」

「うちのこと守ってくれるんやね?」

眠っていると思っていたお嬢様にかけた言葉は、やはりちゃんと耳に届いていたようだ。

「はい、その通りです。いつまでも側にいてお守りいたします。」

満面の笑みでうんうんと頷いたお嬢様の瞳の端から、ほんの少しだけ綺麗な涙の粒が転がり落ちた。

「せやけど、うちにも言いたいことがあるんえ。」

「はい?何でしょう。」

「せっちゃんばっかりにいつまでも頼ってたらあかんもんね。うちもつよぉなる。
つよぉなって、うちもせっちゃんのこと守ったるえ。」

「それはとても心強いです。お嬢様。」

「あーもぅ!ほら、またお嬢様ゆーた。」

「あっ。すみません、このちゃん。」

「ふふっ。やっぱりこのちゃんて呼ばれるんはえぇなぁ。」

お嬢様のこの笑顔を守りたい。大好きなお嬢様の笑顔を。
だから私も微笑んでみた。お嬢様の側にいられるこの幸せな時間がいつまでも続きますようにと。

*終わり

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