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596 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 02:05:10 ID:JnundNSl
肺に血が溜まり、呼吸も困難な状態で刹那の父親は言葉を続ける。
その目にもう殺意は無い。
一人の父親として、剣士に話しかけていた。

「――ずっと、悩んでいた・・・・この子を妖怪として生かすか、人間として・・・・がふっ・・・・生かすか・・・・。
 ・・・・頼、む・・・・この子の命だけは・・・・私と妻の、っつな、だけは・・・・」
「――この子は人間。神鳴流が人間に手を出す事はない・・・・安心を」
「感謝、す・・・・この子の、人間の、父、を・・・・――」

そして刹那の父は、最後に刹那を力なく抱きしめて息絶えた。
大切なものを残して逝く、無念を残して。

「ちちうえ・・・・、っ・・・・」

一度村の惨事と母の死を見ている刹那は、すぐに"父は死んだのだ"と察する。
血で染まる父の剣を持ち、神鳴流の男に刃を向けた。

「その剣を持つには、君は幼すぎる」
「く、くるな・・・・!」
「父に似て、やや乱暴な口調ですね。・・・・私の名は詠春と言います」

幼い容姿とは似つかない威厳ある刹那の口調に、剣士は息絶えた烏族と刹那の姿を重ねる。
しかしそのときに刹那に見せた剣士の表情は優しく、刹那の警戒を一瞬和らげた。
その隙に人間は刹那から剣を取り上げた。

「あっ・・・・!」
「あなたを殺すことはしません。・・・・この剣は私が預かります」
「かえ、せ・・・・!」
「あなたと・・・・私の娘が、一人で生きていけるようになった時に返します」

詠春は取り上げた剣を刹那の前に出す。
しかし今返すわけではなく、預かるとしっかり公言した。

「返した時・・・・その時にこれで、私を殺しなさい」
「・・・・!」


597 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 02:06:02 ID:JnundNSl
詠春はそう言い終えて刹那を抱えると、刹那の父に背を向けて歩き出す。
本当ならば刹那の父親を埋葬したかったのだが、それは神鳴流としてはできなかった。
妖怪に情けをかける事は、禁じられていたのだ。

「離せ・・・・!」
「・・・・あなたの父に頼まれ、あなたの人間としての父親を引き受けました」
「い、いやだ・・・・!」
「嫌だと言っても私は約束を守ります。・・・・同じ父親として」

そう言いながら、詠春は一枚の札を取り出す。
詠春がその札に気を込めると、刹那に急な眠気が襲った。

「・・・・刹那君、と言いましたか。ぜひ私の娘とお会いになってください」

眠気でもう何も喋れない刹那に、詠春は優しく声をかける。
その顔を見つつ、刹那は深い憎しみと共に眠りについた。

*

「・・・・ウチのお父様が・・・・せっちゃんのお父さんを・・・・」

刹那より先に目覚めた木乃香は、しばらく放心状態で刹那の顔を見ていた。
外はもう明るく、小鳥のさえずりが聞こえる。
ちょうど刹那が目覚める時間だったので、夢も途切れたようである。

「ん・・・・お、お嬢様!?」
「あ・・・・」

慌てて立ち去ろうとした木乃香だったが、その動揺による気の乱れで刹那が目覚めてしまった。
刹那は木乃香の姿を確認すると、大慌てで起き上がろうとする。
が、その前に木乃香が刹那に頭を下げた。

「か、堪忍!!」
「・・・・え?」
「ほんま・・・・何て言えばええかわからへんけど・・・・堪忍・・・・!」


598 名前:刹那の過去夢[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 02:07:04 ID:JnundNSl
木乃香はさらに大きく頭を下げる。
自分がしたことではないが、自分の父親がやってしまった事だ。
謝らずにはいられなかった。

「えと、あの、怒ってなんていませんよ? 驚いただけで・・・・」
「せやかて・・・・あ・・・・」

木乃香ははっとして頭を上げる。
刹那は木乃香に夢を覗かれた事を知らないのだ。
さらに目覚めた直後に木乃香がいた事に驚き、夢の内容すら忘れている状態。
それに気付いた木乃香は、なんと言えばいいかわからず再び視線を下げた。

「えと、あの・・・・何か約束、してましたっけ?」
「ううん、ウチが勝手に来ただけやけど――・・・・ひとつ聞いてええ?」
「はい?」

木乃香は一息ついて、自分の心を落ち着ける。
そして先ほどの夢を見て気になった事を、遠まわしに聞くことにした。
なんとなく、直接聞いてはいけないような気がしたからだ。

「せっちゃんの刀・・・・お父様のなんやよね?」
「あ、はい。詠春様がまだ退魔の仕事を行っているときに、使っていたものですね」
「なんで・・・・せっちゃんがもっとるん?」

刹那が木乃香の父・詠春を殺すつもりならば、危険な刃物を刹那に与えるはずは無いだろう。
それなのに殺人に最適な得物――さらには自分が使っていた大切な物を刹那に譲った。
それが木乃香には理解できなかったのだ。

「えっと・・・・長が使用していた得物を私が持つのは、ご不満ですか?」
「ちゃ、ちゃう、そんなんやなくてな・・・・ちょっと気になってもうただけで・・・・」

刹那は少し考える。
その横顔を木乃香は注意深く見ていたが、刹那の顔に怒りなどはまったくなかった。


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