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228 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/06/09(土) 00:57:44 ID:z1htO2sO
「なんだお前達,盛大に結ばれたと思ったらもう終わりか。儚かったな。」

龍宮の解釈では,お嬢様の”別れて”の対象は私のようだった。

「そ……そんなことはない。どうしてたったあれだけでそんなことが言えるんだ。」

思いもかけない龍宮の反応に戸惑いを隠せない。考えたくないもない未来は脳裏から
消去されていたからだ。しかし龍宮は言う。冷静な推理だ,と。
そして龍宮なりの考察を述べはじめた。

「まず,珍しく部屋に来てと連絡があった。そして,簡潔に用件を述べるために
 携帯を使った。さらに,携帯が繋がらない。ということはだ,もう連絡とりたくない
 という意志の現れなんじゃないのか。」

ここまで言わせるかと言う顔をして,龍宮は続けた。

「……それとも何か?近衛の誘いを無下にするお前に愛想を尽かしたとか。」

(な……何の話しをしている!!!)

こぶしをワナワナと震わすも,突込みをいれる元気もなかった。

信じたくない未来が現実に起こりそうな不安。まだお嬢様ご本人から
聞いたわけでもないのに,別れが迫っているかもしれない不安に駆られる。
お嬢様との数々の記憶が走馬灯のように流れていった。
例えどんなことでも私はきっと動揺なんてしない。天と地がひっくり返っても,
西から太陽が昇っても,それでも私は動揺なんてしないだろう。
お嬢様だからこそ,こんなにまで私を不安にさせるのだ。

229 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/06/09(土) 00:58:38 ID:z1htO2sO
普段のように食ってかからない私に調子を崩したのか,龍宮は真面目な口調で私を
諭し始めた。

「早く行け。どんな事情にしろ,あのお嬢様はお前を踏みにじるようなことはしないさ。」

とにかくきちんと話し合ってくるのだ,と私の背中を押す。
そうだ。わからないことや知らないという不安要素がこんなにも私を追い詰めているのだ。
私の信じたお嬢様だ。何かきっと,きっと事情がおありなのだ。

不安を不安のまま抱いているよりも,振り切ってしまいたい。そして気持ち良くお嬢様の
護衛の任に戻れば良いのだ。私には過ぎた想いだったと,自分を慰めることもできよう。

「すまん龍宮。先に帰っててくれ。私はお嬢様のお部屋に寄ってから行く。」

重い足を引きずりながら,私は真実の扉を開きにお嬢様の部屋へ向かった。

「もう,無駄弾を使わせるなよ。」

優しさのこもった龍宮の一言は,私の背中に向けられたものだったが,
私の元へ届くことはなかった。

230 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/06/09(土) 00:59:28 ID:z1htO2sO
◇◆◇

覚悟は極めてきたものの,やはり気持ちは重い。お嬢様に会ったら,なんてお尋ねすれば
良いのだろう。ドアの前で,しばらく逡巡する。そのとき私の頭の中では別れを切り出す
お嬢様がシミュレートされていた。

すると,不意にドアが開けられる。そっと開く隙間から顔を覗かせるのは,愛してやまない
木乃香お嬢様だった。

「やっぱ,せっちゃんか。なんかそんな気がしたんや。」

にこっと微笑むお嬢様の顔を目にすると,私の中の緊張感が音を立てて切れた気がした。
心の内面から涌き出てくる不安感。堰を切ったようにあふれ出てくる複雑な感情。

「……せっちゃん?」

にっこり微笑むお嬢様を前にして,とうとう私の感情は面に現れてしまった。
お嬢様と離れることなんてできない。お互いの気持ちを知ってしまった今,
例えお嬢様が心変わりしようとも,私にはまだ受け入れることなんてできない。

「……ない。」

「どないしたん?思い詰めた顔して。」
「別れたくない。」

「???」

木乃香の頭上に疑問の記号が並ぶ。

「うち,このちゃんと別れとうない。うちのこと捨てないで。」

231 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2007/06/09(土) 01:00:59 ID:z1htO2sO
言ってしまった。私の目に涙が溜まっていくのがわかる。抑えきれない気持ちが
涙に姿を変えて,どんどん溢れ出していく。とうに枯れ果てたと思ったのに,
涙なんか見せない,強い精神を鍛えてきたはずなのに…。
でもお嬢様だけは,この手で掴んだ幸せの形だけは,どうしても手放すことはできない。
しかし,お嬢様が望むのであれば…。

そう思うと,私はお嬢様を力いっぱい抱き締め,顔を寄せて泣いていた。
もしかしたらお嬢様の体温を,香りを傍で感じることができるのはこれで最後かもしれない。
そんな思いも,私を後押ししていた。

「ムぎゅ。くるしぃなぁ。一体何の話し?」

別れ話を切り出されると信じてやまなかった私の耳に届くのは,お嬢様の無邪気な感想だった。

「うち,せっちゃん捨てる気なんて全然あらへんで?」

その言葉を聞いて今度は私の頭上に疑問の記号が飛ぶ。涙ぐみながら,木乃香の
顔を見るためにきつく抱き締めていた腕をわずかに解いた。

「だってお嬢様,私と別れ話をするために今日お呼びになったんじゃ…。」

今度はお嬢様の目が点になる。そして,ぷっと笑い出すとにこやかな笑顔で私の鼻を摘んだ。

「なんでそないなことになっとんのや〜。うちはただせっちゃんの分まであんみつ作ったから食べに
きて欲しかっただけやぇ。」

(!えっ!!!)

だってそんなこと一言も書いてなかったじゃないですか!
焦り始めて言動も怪しい私だったが,それでも問いを止めることはできなかった。

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