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370 名前:1/17  ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:27:57 ID:BEFSazhu
「桜咲,お前が試合に出てくれたら麻帆良は優勝間違いなしなんだけどな〜。」
「他流試合は禁じられていますので…。」
「わかってるって。無理言って稽古つけてもらってるんだからね。」

剣道部の部員が刹那に声をかける。それは部活に顔を出すたびに言われるセリフ。
京都神鳴流の名は一応極秘扱いなので,刹那はとある道場の門下生ということになっていた。
その腕前から選手として試合への出場を乞われていたが,剣士としての技量を十分に備えている刹那が中学生の大会に出場するなど論外であった。
そもそも刹那は,剣術に関するというだけで剣道部に所属していて,部活動自体にはほとんど関心が無い。
試合に出れないならせめてコーチをつけてくれという剣道部の主将からの熱心な依頼で,刹那はその依頼を引受けたのだった。
時々顔を出す程度の部活動だったが,大会も近いことから最近は毎日部活動に参加していた。
黒い胴着に身を包み,しっかりと汗をかいた刹那は本日の活動を終わろうとしていた。

「あ……あの,桜咲先輩。これ使ってください。」

ふとかけられた声のほうを向くと,柔らかそうなタオルが差し出されていた。その持ち主は名も知らぬ女子部員…らしい。
ジャージを着ているため部員かどうか良くわからなかったが,ひとまずそう判断した。
先輩と呼ぶからには後輩なのだろうかとぼんやりと考えていた。

「あ,ありがとう。」

差し出されたものを刹那は条件反射で受け取ってしまう。そのような行為には不慣れな刹那は戸惑いつつも汗を拭いた。

「…洗って返しますね。」
「いえ,そのままで良いです。」
「でもそれでは…。」
「イ,いえ…良いんです。」

と,しばらく押し問答が続いた。そうこうしてる内に遠くから聞きなれた声が刹那を振り向かせた。

「せっちゃ〜〜ん,終わった〜?迎えにきたでぇ〜。一緒に帰えろ〜〜。」

371 名前:2/17  ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:28:47 ID:BEFSazhu
道場の入り口でぶんぶんと手を振って木乃香が叫んでいた。

「はーい。今参りまーす。」

そう木乃香に声をかけると,刹那は向き直ってタオルを手にして一言。

「洗って返します。また次の機会で良いですか?」
「は……はい!もちろんです。」
「それでは,私は急ぎますので。」

そう言い残し,刹那はその子を後にした。
更衣室の出口近くで木乃香が待っていると,物凄い早替えで刹那は登場した。
息一つ乱さないその身のこなしには驚嘆に値する。

「……桜咲先輩。」

自分には向けられない刹那の人懐っこい優しい笑顔を遠くに眺めてその子は呟いた。

◇◆◇

「今日も部活頑張ったんやね?」

木乃香は刹那の腕を取り,刹那を引き寄せて言う。

「うぁぁ。お、お嬢さま。いっ,いけませんそんなっ。」
「別にええやん。腕くらい〜。」
「あの,汗一杯かきましたから,その…汗…臭いと思うので……////。」
「……せっちゃんならええも〜ん♪」
「うぁぁ。私が困るんですって。」

372 名前:3/17  ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:29:39 ID:BEFSazhu
木乃香は帰り道で刹那にからんでいると,その手に見なれないタオルがあることに気がついた。

「せっちゃん,それせっちゃんの?」

木乃香が何を指しているのかわからなかったが,木乃香の視線は先ほどのタオルに向けられていることに刹那は気がついた。

「あぁ。これですか。渡されたのを反射的に受け取ってしまったんですよ。」

洗って返さないとと思って,と言葉を続けたとき,不意にタオルに意識を向けると香ってきたのは刹那の好きな香り…。

「うちの趣味と似てるんかな。その子。」

木乃香の元へもその香りは届いたようだ。

刹那を迎えに来た木乃香の目にもその情景は映っていた。道場で刹那の傍らにいた少女。
遠巻きから眺めていたので良くはわからなかったが,多分…。木乃香は感じていた。
そのことについて深く言及するつもりは無かったが,ちょっと嫉妬心が疼いた。

「…せっちゃんはもてるんやね〜?」
「っっんな,何のことですか?」
「なんや…。わからんならええわ。」
「ちょっ,お嬢さま〜。」

木乃香はそんな刹那を嬉しく想う。色恋に疎くて,女心の理解も薄い。
けど,真面目で,実直な刹那は,木乃香に対する思いを自然に表現してくる。

(そんなんやから,うちも安心してられるんやで……。)

まだ幼馴染以上の進展はないけど,以前よりもずっと近付いた距離が今は心地良かった。

373 名前:4/17  ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:30:34 ID:BEFSazhu
「せっちゃんは女心に疎いからなぁ。」
「……ぷぅ。…一応私も女ですけど……。」
「せやねぇ〜。でもせっちゃんやしなぁ。」
「ちょっっ,それってどういう意味ですかっ。お嬢さまっ。」
「言葉のままやえ〜。」

愉しげに会話を交わし,二人は寮へと帰路についた。

◇◆◇

刹那は自分の部屋で自分のものではないタオルを見つめた。
洗濯を済まし,手近の紙袋に畳んでしまった。

「お前らしくない持ち物だな。お嬢さまのプレゼントか?」

真名が物思いに耽る刹那を見て,ニヤリを笑う。

「違う。後輩らしき女子生徒に手渡されたんだ。」

特に何も思うところ無く刹那は答える。

「ふ……ん。やるな,お前も。近衛だけでは飽き足らず,後輩にも手を出したか。」
「ちがーう。そのようなものではない。それにお嬢さまとはそんな関係では無いっ。」

必死に弁明する刹那を見るが,真名のニヤニヤは納まらなかった。

「……戦闘以外では,お前は隙だらけだな。もう少し情緒を養え。」
「なっ?!」

明らかに馬鹿にされた感があるが,図星と感じたのか刹那は黙ってしまった。

(お嬢さまも龍宮もなんのことを言っているのかさっぱりわからん。)

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