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◆yuri0euJXw 氏
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382 名前:13/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:38:27 ID:BEFSazhu
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「せや。せっちゃんの羽,うちにくれへん?」
「えっ!?」
「やっぱ,毟ったら痛いん?」
「おっ,お嬢さまっ!」
木乃香のおねだりには叶わず,刹那はしぶしぶ羽を広げ,比較的綺麗な部位を選んで2本毟った。
「いてっ!」
「あははっ,堪忍。」
嬉しそうに微笑んで,木乃香は刹那の羽を受け取った。
羽をしまうと,刹那は木乃香にどうするのか聞いた。
「内緒や。大事にするえ。」
「はぁ。お嬢様が喜んでくださるならそれで良いんですけど…。」
「うんっ。せっちゃん,ありがとな。」
木乃香は嬉しそうに羽を受け取り,刹那にもう一度良く話した方がいいと助言を与え,自室へと戻って行った。
刹那は木乃香を見送ると,まず今日の出来事についてもう一度良く考えてみることにした。
◇◆◇
「やったぞ,桜咲!入賞したぞ!お前のおかげだよ。」
大会が済んだ翌日,大会の様子を聞きに道場へ行くと,主将をはじめ部員達が駆け寄ってきた。
以前,中々勝ち残れないとぼやいていた部員達だったが,団体戦でベスト3まで勝ち残ったらしい。準決勝で負けてしまったが,3位決定戦でストレート勝ちしたそうだ。
お世辞にも強いとは言えない部だったが,刹那が練習を見るようになってから徐々に強くなっていった。
練習を見ていたのは2年程度だったが,修行の成果というのは努力すれば必ず現れるのだと刹那は改めて感じた。
部員の喧騒から離れて,ふと道場の隅によると,例の少女がもじもじと立ち竦んでいた。
いつもの活気が感じられなかったが,自分のせいか…と刹那は自嘲した。
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383 名前:14/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:39:24 ID:BEFSazhu
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「あの……。」
刹那はその子に声をかけた。声をかけられると思わなかったのか,驚いた表情でその子は刹那を見ていた。
「あの…この前…済みませんでした。なんだか余計なこと言ってしまったみたいで。」
「………いえ…。私が変なこと言ったせいですから…。」
改めて言うのもおかしいかもしれないですが,と刹那は自分が冷静になって考えた結果を話し始めた。
「貴方の好意は嬉しかったのは,本当です。でも私には他に大切なものがありますから,貴方の好意に報いることはできません。」
刹那はその子の様子を見守りながら,それで…と,ポケットから何かを取り出した。
「これ……良かったら使ってください。」
刹那は,竹刀用の鍔(つば)と鍔止めを手渡した。
「いつもジャージ着てますね。どうでしょう?一緒に……剣道しませんか?」
にこっと微笑んで刹那はそれを手渡した。
それはどこにでもあるものではなく,少し意匠が凝っていた。
「私の道場で使っていた入門用のものです。私は竹刀はもう使わないので良かったらお譲りします。」
複雑な表情で,その少女は鍔と鍔止めを受け取った。
それが刹那にできる精一杯の行為だということを直感的に理解したようだった。
「はい……。私も,先輩に剣道教えてもらいたいですっ。」
刹那の伝えたい気持ちが伝わっただろうか。
刹那が手渡した鍔を受け取り,その子は何度もお礼を繰り返していた。
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384 名前:15/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:40:14 ID:BEFSazhu
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◇◆◇
木乃香はいつもよりも早く道場に来ていた。そっと中の様子を見守っている。
何故かいつもみたいに,刹那を呼び出す気にはなれなかった。
(あの子……どうしとるんかな?)
気持ちの報われない辛さが,木乃香の共感を誘った。
「あっ,近衛先輩…。」
その声に振り向くと,たった今想像していた少女が目の前に立っていた。
「あ……。桜咲先輩ですか?呼んできましょうか?」
どんどん機転を回してくれるその子を,木乃香はなんとか留める。
「ええねん。様子見に来ただけやし…。」
そう伝えるが,特に意識しなくとも,じっとその子を見つめてしまう。
特別面識があるわけではなかったが,その子は同じ空気を木乃香から感じ取ったようだった。
「桜咲先輩の大切なものって近衛先輩ですか?」
「えっ?」
他に大切なものがあるからって言われたんですと,地面をけりながら,その子は言う。
それを聞いて,木乃香は苦笑する。
「………うちな…,まだせっちゃんの中には入り込めてないねん。」
「せっちゃんの中には,うちが入りこむ隙間はまだないんよ。」
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385 名前:16/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:41:48 ID:BEFSazhu
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刹那が主従関係以上に木乃香を見ることは無いとそう木乃香は感じていた。
木乃香と刹那にとってそれが今の二人の関係だと…。
気持ちを報われてないという点では同じ立場だと木乃香は伝えた。
「そんなこと無いですよ。……桜咲先輩の目には貴方しか映ってないのに…。」
「……知っとるよ。そないなこと気付かんうちや無いえ?」
軽く溜息をついて木乃香はその子を見遣る。
気付いているのになぜそのようなことを言うのか,その少女は木乃香の言葉に驚いている様子だった。
「せっちゃんやからな……まだ自覚ないんやと思うわ。」
せっちゃんには困ったもんやねぇと優しげな笑顔を見せながら木乃香ははにかんでみせた。
刹那を理解する木乃香を目にして,その少女の肩から力が抜けた。
「あーあ,ダメですね。やっぱり私,桜咲先輩のこと全然わかってないんだ。」
「せっちゃんのこと好きになるなんて見込みあると思うえ?」
「……今は諦めます。でも私,この気持ちは変えられませんからっ。」
「まぁ,頑張り〜。せっちゃんのことよろしゅうな〜。」
ぺこっと頭を下げ,その子は道場の方へ戻って行った。
木乃香は,再び自分の部活へ戻り,改めて刹那を迎えに来ようとその場を後にする。
しかし,後から自分を呼ぶ声がして、足を止めて振り返った。
「お嬢さまっ!」
刹那が追いかけてきたのだ。来ているなら声をかけてくれれば良いのにと,刹那はぼやく。
「だってせっちゃん,もてもてなんやもん♪」
木乃香は,部員に囲まれた刹那を形容して言う。二人は歓談しながら,校舎へ向かって並んで歩き始めた。
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386 名前:17/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:44:27 ID:BEFSazhu
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「せや,これせっちゃんに上げるえ。」
木乃香は鞄から何か取り出した。手にしているのはどうやらしおりのようだ。
「これはっ?!」
「せっちゃん,日記付けとるやろ?よかったら使ってや。」
刹那の羽が挟みこまれたしおりだった。木乃香の手作りらしい。
木乃香は,天使の羽根やえと言って,もう一つ同じものを手にして見せた。
「このしおり見て,うちが思うとること忘れんといて。」
「……お嬢さま。」
「うち……せっちゃん大事やからっ!」
いつも通り,優しそうな笑顔で木乃香は言う。
今まで何気なく,心休まる思いでその笑顔に刹那は癒されてきた。
そんな木乃香に,なんとか恩に報いようとそれだけを思って努めてきた刹那だったが,今日は木乃香の笑顔を見て何故か心が弾んだ。
何かが違う。刹那ははじめての経験を経て,何かが変わろうとしていた。
「……大事に…使います…お嬢さま……。」
木乃香の行為に恥かしそうに,でも嬉しそうに戸惑う刹那を見て,木乃香はまた優しく微笑む。
いつかこの関係も変わるときが来るかもしれない。
急がなくてもいい。二人の想いは,二人の間で着実に暖められているのだから。
木乃香は心の中で刹那に伝えていた。
刹那の心の微妙な変化を感じた少女だけは,刹那の鍔を握り締め,去っていく二人の背中をじっと見送っていた。
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