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378 名前:9/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:34:24 ID:BEFSazhu
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気を取り直して,刹那は今の状況を打破すべく,自分の心情を伝えた。
「私のこと好きになってくれて,ありがとうございます。」
「でも私は貴方のことを良くは知らないし,貴方も私のこと知らないでしょう。だから…。」
「知ってます。先輩のことずっと見てましたから。」
切迫感をもってその子は言った。でもその言葉に刹那は自分の中に生まれた不愉快さを感じた。
「……でもあなたは私が黒を好む理由を知らない。」
「そんなっ。」
「…木乃香お嬢さまは…ご存知でしたよ…。」
「何も知らないのに,私の事を知っているなど,軽々しく口にするものではありません。」
「…ごっ,ごめんなさい。」
刹那の静かな剣幕に驚き,引き合いに出された木乃香を羨みながら,その子は刹那に謝罪した。
刹那はその様子をみて少し反省しつつ,穏やかな口調で続けた。
「私こそ偉そうなこと言って済みません。私を好きになってくれてありがとう。この数日間の歓談は愉しかったですよ。」
「…先輩…。」
「この大会も終われば,道場へ来るペースは少なくなるでしょうが,また時々顔を出しますので,その時はよろしくお願いします。」
「はい……。」
部活動での関係を望むと,間接的に言い残して,二人の会話は終了した。
それでは,と刹那はその場を後にする。後にはじっと立ち尽くす少女の姿があった。
まだ木乃香は部活中の時間のはずだったので,刹那は校舎の方へ向かうため道場の角を曲がる。
するとそこには木乃香が立っていた。思いもかけない木乃香との遭遇に刹那は驚きを隠せなかった。
「お嬢さまっ!なんでここに!」
「しーっ。大きな声出したら聞こえてまうえ。」
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379 名前:10/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:35:23 ID:BEFSazhu
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刹那は声を潜め,木乃香とともにその場から離れる。
「丁度な,剣道部の子が帰るのが見えてな,部活終わったんかと思て様子見に来たんや。」
「いつからあそこに……?」
「堪忍な。せっちゃん。うちせっちゃん達の話し聞いてもうた。」
木乃香は手を合わせ,刹那に謝った。ばつが悪そうに刹那は尋ねる。
「あの……どこから?」
「はじめから,全部や。あの子が「一緒に帰ろ。」言うたとこから。」
「……一部始終ですか。」
二人は寮へと帰路につく。しばらく沈黙が続いた。
「……可愛ええ子やったね。」
木乃香は,徐に口を開いた。
「やっぱせっちゃんは,もてもてやな。」
うちの言うた通りやろ?っとにっこりして刹那の顔を覗きこんだ。
「…他人から好きと言われたのは初めてなので少し嬉しかったのですが,でも,それだけでした。」
「うちはいつも言うとるよ?」
「おっ,お嬢さまは別です!!」
自分の心情を吐露する刹那をからかっているわけではないが,木乃香が刹那を茶化しているように刹那には聞こえてしまう。
「……むしろ私は……お嬢さまのことが知りたい……です。」
恥かしそうにでも,はっきりと刹那は自分の気持ちを伝える。歩みを止め,刹那は木乃香の目を見つめた。
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380 名前:11/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:36:13 ID:BEFSazhu
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「……どうしてお嬢さまは私が黒を好む理由をご存知なんですか?」
木乃香は優しい微笑を返して,そっと刹那の手を取り,その暖かさを確かめた。
「今から。せっちゃんの部屋行ってええ?そしたら教えてあげる。」
黙って頷くと刹那はそのまま,自室へと向かった。木乃香の手はずっと刹那の手を握ったままだった。
◇◆◇
刹那の部屋には人の気配は無く,しんと静まり返っていた。真名はまだ戻っていないようだ。
それに寮全体もまだ人の気配が少なかった。
木乃香は窓を開け,部屋の空気を入れかえる。刹那は,冷蔵庫からジュースを取り出して二つのコップに注ぎ分けていた。
「せっちゃん。あの子にな,あんなこと言ったら可哀想やよ。」
「?」
ジュースを一口のみ,徐に口を開く木乃香が意図する内容が刹那にはわからなった。
「うちは,せっちゃんの秘密知っとるから。だからなんよ,きっと。」
知らん子にあんなん言ったら可哀想や,そう言って木乃香は刹那を見る。
「でも…だからって。それだけでなぜ?」
真剣に尋ねてくる刹那に,木乃香は軽く溜息をついて答えた。
「……せっちゃんは,ずっと黒い羽が欲しかったんやろ。」
「黒かったら,故郷を離れることも,仲間から嫌がられることも無かったって。」
「自分の不幸の原因はずっと白い羽だって思ってきたから……そうやないの?」
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381 名前:12/17 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/02(日) 03:37:39 ID:BEFSazhu
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刹那の黒に対する思い入れがどこを発端にしているのか,木乃香なりの分析を刹那に伝えた。
自分が同属と認める仲間からの迫害。きっとそれは木乃香の想像もつかないくらい過酷なものだったに違いない。
本来守ってくれるべき両親もいない中で,どうやって刹那が生き延びてきたのか。
木乃香は知りたかったが,聞くに忍びず,いつか話してくれる日が来ることをずっと待っている。
苦しい過去は,誰かに吐き出すことによって,幾分軽くなると木乃香は信じていたから。
木乃香は刹那にとって,そんな存在になりたいと思っていた。
木乃香の言葉を聞いて,刹那の体に緊張が走る。
自分の持つコンプレックスがまだ根強くそこにある。木乃香に見抜かれていたことを知った。
「……お嬢さま。」
「でもなっ。」
木乃香は,続ける。
「せっちゃんの羽が白うなかったら,うちはせっちゃんと会えんかったんやえ。」
「せっちゃんが黒くなることに憧れを持ち続けとることもわかるけど,うちはせっちゃんの羽が白くて良かったと思うとるんよ。」
無責任に聞こえるかもしれんけど,堪忍な,と木乃香は続ける。
「でもせっちゃんの心はせっちゃんのもんや。うちがどうこう言えることやないえ。」
優しく微笑んで木乃香は自分の考えだと言ってそれを伝えた。
刹那は,木乃香に自分の心が見透かされて恥かしい気持ちもあったが,それ以上に木乃香の思いが暖かかった。
「私も……貴方に会えて良かったと思います。今では,この羽を疎んではいません。むしろお嬢さまが仰るように…。」
「この羽があったからこそ,今の自分がいると…。今は,両親に感謝しています。」
刹那は自分のコンプレックスが,少し軽くなった気がした。
そう簡単にこのコンプレックスは無くなりはしないが,木乃香に自分が受け入れられた時のように,心が軽くなった気がした。
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