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◆yuri0euJXw 氏
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628 名前:4/6 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/16(日) 04:03:44 ID:6ueMKqC5
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屈託無くおいしそうにおやつをほお張るお嬢様を見て,私は邪な考えを捨てる。
にっこりと微笑んで愉しそうに色々なお話を聞かせてくださるお嬢様に私の頬も緩んだ。
少しもお茶菓子に手を伸ばしていない私を見て,お嬢様は徐に私の隣に座す。
そして,次の行動に移られたが,私はその行動に動揺せずにはいられなかった。
「はい♥あ〜ん。」
「!!!」
「だから,あ〜ん,して♥」
どうしてお嬢様はこうも無防備なのか?
他に誰もいなくても,私は緊張しないわけにはいかなかった。
私に逃げを許さないお嬢様の雰囲気に,私は思い切って大口を開けた。
「はいな♪」
ヒヨコに餌付けするかのように愉しそうに,お嬢様は私の口にクッキーを一かけら入れてくださった。
モゴモゴと口を動かし,私はそれを味わう。普段食すクッキーと何ら違いは無いのに,
何故かそれは酷く甘くて,今まで食べた何よりもおいしかった。
たったそれだけの行動で,私の胸は高鳴った。まだドキドキしているのを感じる。
どうにかその雰囲気を払拭しようと,私はお嬢様の襟についたクッキーの欠片を見つけ,それを払うために手を伸ばした。
「おっ…お嬢様っ,襟についていますよ。」
動揺が現れてしまったか,言葉が詰まってしまった。
そしてお嬢様の襟に手を伸ばした瞬間,お嬢様に腕ごと急に引き寄せられて,私は倒れこんでしまった。
警戒していなかったために,普段ならバランスを崩すことも無いちょっとした引力にそのまま体をもっていかれてしまったのだ。
形の上では,お嬢様を押し倒しているように見えるかもしれない。
私の目の前には,真摯な視線を私に向けたお嬢様の顔があった。
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629 名前:5/6 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/16(日) 04:04:35 ID:6ueMKqC5
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本来なら,直ぐに退かなければならない。それに,いつもの私ならそうしたはずだ。
けれど,至近距離で見たお嬢様の表情に,私は捕らえられてしまった。
熱っぽい視線を絡ませてくる。私の高まる鼓動を更に激しくさせる妙な期待感を含んでいた。
潤んだ瞳が,妙に色っぽくて私を捕らえて離さない。
桜色の唇が私を誘う。
「せっちゃん……」
濡れた唇が切なそうに私の名を紡ぐ。私の掌はじんわりと汗ばんでいた。
(お嬢様は,私を求めていらっしゃるんだろうか…。)
自分の決断にいまいち自信が持てなかった。そんな私の葛藤が顔に現れていたのだろうか。
お嬢様の手が私の頬に触れた。ひんやりとした掌が紅潮した私の頬に気持ち良かった。
「うち……せっちゃんならええ。だから我慢せんで。」
「…お嬢様…何を……。」
「うちかて……せっちゃんと同じや。」
何事も無いように仰るお嬢様だったが,これからを期待してか,うっすらと頬を紅潮させ恥かしげに呟かれた。
私は,お嬢様の言葉に後押しされ,濡れた唇にそっと近付く。
私とお嬢様の間を埋めるために必要な距離はたった十数センチ。
ほんの少しの距離なのに,私はその距離詰めるのに長い時間を要した。
一歩一歩近付くたびに感情が昂ぶり,目頭がじわっとしてくる。
でもそれはお嬢様も同じで,目尻には涙が溜まっていた。潤んだ瞳が一層潤んで私をどんどん引き寄せる。
あと一歩で,お互いの唇が重なるというその瞬間,がんがんとドアをノックする音が響いた。
「木乃香〜。刹那さ〜ん。いる〜?」
その声から,来訪者はアスナさんだということがわかった。
私とお嬢様は,その音に驚き,慌てて体を起した。
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630 名前:6/6 ◆yuri0euJXw [sage] 投稿日:2007/09/16(日) 04:05:13 ID:6ueMKqC5
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「今日はお預けみたいやね?」
「!!……。」
いたずらっ子のような表情をお嬢様は,私に向ける。
「そんな残念そうな顔せんでも,直ぐ次の機会があるえ?」
お嬢様の言葉に,そんなに残念そうな顔をしていたのかと自分の顔を抑えつけ,2,3回叩いた。
私はお嬢様に視線を向ける。お嬢様は嬉しそうに微笑みを返してくれた。
私はそのとき,何時の間にか縮まっていた距離に中々気付けなかったことを知った。
お嬢様もそれを望まれていたのだ。
おそらく,私とお嬢様の距離が「0」になる日もそう遠くは無いだろう。
それにしても…。
私の気持ちをお嬢様は全部お見通しなのだろうか…。
いつまでも一枚上手なお嬢様に頭が上がらない。しかし,そんなお嬢様が私はやはり大好きなのだ。
私はお嬢様に優しく微笑みを返し,がんがんとうるさく鳴り響くドアへと向かった。
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