|
<< 前頁
◆AIo1qlmVDI 氏
次頁 >>
|
70 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/31(木) 20:24:22 ID:L8pj4j8r
|
人里離れた寒村。
豊かとは言えない生活だったが、そこに暮らす人々はその中の細やかな幸せを紡いで生きていた。
その中に………あの少女はいた。
紅く美しい瞳いっぱいに優しい父母の愛情を映しながら。
体格のいい父が少女の小さな身体を抱きかかえる。
心からの笑顔で少女は父に笑いかけた。
その様子を微笑ましそうに一歩離れた木陰の下で母が見つめている。
穏やかな、……当たり前の風景。
一陣の柔らかい風が少女の銀髪を揺らし、可愛いくしゃみひとつ。
少女とその父母が流れついた小さな村。
忌むべき翼を隠し身を潜めるように暮らし始めた彼等を村民は暖かく迎えた。
ふとした時。
何も知らぬ少女は紋白蝶を追いかけ翼を見せてしまう。
鳥族とは何の縁もない彼等の中にもその翼が何を意味するのか知る者がいた。
…だが。
その小さな愛らしい姿はとても禁忌の存在とは思えない。
それに何の害もなく、控え目で優しいこの少女を村民達は可愛く思ってさえいた。
だから誰も何も言わない。
無視しているのではなかった。
腫物に触るような対応をする者など一人もいない小さな村。
少女はこの村が…自然が、村人達が、好きだった。
とても…、とても。
村の誰もが疑わない。
白き翼を持つ少女が異端の存在であろうと赦し守ってきた村民の…そう、誰もが予想すらしなかった。
突然の、余りにも残酷な終焉を。
|
71 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/31(木) 20:26:55 ID:L8pj4j8r
|
*****
今やごく普通の生活などかけらもなかった。
あったのは、………………。
詠春の脳裏に思い出すことさえ悍ましい凄惨な光景が広がる。
立ち上ぼる血の臭い、叫び、怒声、……………悲鳴。
記憶に染み付いたそれらは彼を苛んだ。
すまない、すまない、………………すまない………ッ!!
君に………………君達に…………………何の罪もありはしない…………………!!
ただそこで幸せそうに笑っていただけなのに…………!!
非力さを幾ら呪っても出るのはただただ己への自己嫌悪。
握り締めた拳に、ぽたぽたとあの日と同じ滴が落ちた。
泣いて謝ったところで何になると言うのか。
少女の父母を、彼女が愛していただろう村を。
………その目の前で………殺したのだ。
だが、詠春はその言葉を口にせずにはいられなかった。
洗っても洗っても血の臭いが落ちる気がしなくて、帰還してからも気が付けば手を水に浸す毎日。
実際には臭いも何も残ってはいないのだろう。
だが、彼の目には洗面器に溜めた水がいつも血溜りに見えて仕方がなかった。
気が動転し洗面器をひっくり返して漸く落ち着く。そんなことばかり繰り返している。
そんな筈はないのだ。
ここに張ってあったのは只の水に過ぎない。
常識で考えたら、などと挟む必要すらない。
目の錯覚だ。
|
72 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/31(木) 20:28:16 ID:L8pj4j8r
|
「………………ッ、………ぐっ…………………!!」
ぶちまけられたものは、水。
血ではない。
でも。
…………でも!!
「すま……………ない………………………ッ!!!!」
今の彼に出来たこと。
懺悔と、後悔と、
………………記憶の回帰。
あの日仲間の一人が言った言葉を思い返していた。
『上の意思と計画など………自分達には…………』
老人達は…知っているのだろうか。
彼等が化物と呼ぶあの少女は……
………いや。
彼等の考えを逆読みするなど死に急ぐだけの愚行だ。
それを理解しながら、恐ろしさから反抗の意すら示せずに長の椅子へと座ろうとしている自分が、詠春は……………心底許せなかった。
|
|
<< 前頁
◆AIo1qlmVDI 氏
次頁 >>
|