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179 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 20:55:44 ID:EAi6dJO1
桜の花、舞散る。
どんな芸者も敵わぬだろうその優雅な演舞に見惚れる者、ひとり、ふたり。
そんな風景に溶け込むように少女が笑った。

名が付いてから初めての春。
黒髪の少女は詠春に手を引かれ、近衛家の誇る見事な日本庭園を歩いていた。
桜、春の芽吹き、池の浮草。
初めて見るもののように跳ね回る様子は年相応の可愛らしさで詠春を微笑ませる。

もうあの異形の化物の面影などかけらも見えない。
透き通った銀髪はやや不自然な程に黒く染められ、紅い瞳もまた髪と同じ色に変えられていた。
少女の正確な年齢を詠春は知らない。だが恐らく四,五歳だろうとの事から齢五歳に落ち着いた。
木乃香と年を揃えたのに特に深い意味はないが、遊び相手なら同い年のほうがいいだろうとそうなった。

そして二年の時を少女は神鳴流の元、過ごすこととなる。


180 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 20:56:16 ID:EAi6dJO1
*****



師範に連れられ二年ぶりにくぐったその門に刹那は懐かしさを覚え、思わず表情が綻んだ。

「師範、詠春様は……?」

刹那にとって詠春はいつも優しく自分を気に掛けてくれる存在だった。
神鳴流の門を叩いてからというもの―それは刹那の意思ではなかったが―一度も会う機会がなかったことを刹那は幼いながらに寂しく思っていた。
もうじき初等部に入学する年となる次期頭主の遊び相手に、と久しぶりに訪れた刹那が開口一番口にしたのは詠春の名。

また頭を撫でてくれるだろうか。
膝に乗せて昔話を聞かせてくれるだろうか。

あの穏やかな微笑がどれだけ自分を救ってきたか。
幼心にも思う、詠春の為ならば何だって出来る。
それは父を知らぬ刹那の父性を求める気持ちの表れだったのかもしれない。

181 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 20:57:17 ID:EAi6dJO1
「御当主はお忙しいので今日はいらっしゃらないのだよ。
刹那、御令嬢にお会いしたことはなかったね?」

「ご、れいじょ?」

聞き慣れない単語に鸚鵡返し。

「詠春様のお子様、という意味だよ。
刹那と同い年だからね、是非遊び相手に、とお前を呼んでくださったのだよ。
ほら出てきなさった、失礼のないようにな」

付きの者に連れられ、肩まで伸ばした黒髪の少女が石畳の上をゆっくりとこちらに歩いてくる。
自分と年の近い子供に会ったことのなかった刹那は妙に気恥ずかしくなって師範の背中に隠れてしまった。

「おかあさま、この子?」

「そうよ?木乃香、こんにちはは?」

「せ、刹那っ!お嬢様から名乗って戴くつもりですかっ」

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