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182 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 20:58:18 ID:EAi6dJO1
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名乗ろうとした木乃香を制すように師範は手を振った。
空いた片手で頭をこつん、と小突かれ刹那は恐る恐る顔を覗かせる。
周りには大人しかいなかったのだから無理もないのだが、それでも刹那は名乗れずにただ眉を下げていた。
大人の事情や身分の違いなど今の刹那には理解するにはまだ難しすぎた。
不意に木乃香が微笑む。
それは彼女なりの友愛の情を表した笑顔。
刹那もややぎこちなくはあったが、はにかんだ微笑を返した。
近衛木乃香。
桜咲刹那。
出会いすら仕組まれた幼い二人の運命は間違いなくこの日から絡まり出したのだった。
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183 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 20:59:19 ID:EAi6dJO1
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「なー、せっちゃん?」
「……せっちゃん?」
「せつなゆーんやろ?
だから、『せっちゃん』」
「……せっちゃん」
生まれて初めて付けられたその呼称に少し戸惑う。
今まで刹那はその名の通りにしか呼ばれたことがなかったから。
木乃香が口にしたそれは、愛称だった。
何か思い付いたようにしゃがむと舞散る桜の花びらをひとつ摘み、木乃香は刹那にそれを差し出した。
「……?」
「せっちゃんにようにあうな、さくら」
受け取ったそれを見つめる。
どこが似合うのか、よくわからなかった。
「にあうからさくらざき、ゆうんやろ?」
「……わからへん」
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184 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 21:00:09 ID:EAi6dJO1
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「なんでー?
せっちゃんのみょうじやんか」
可笑しそうにくすくす言う木乃香に少し申し訳なくなった。
本当にわからなかったのだ、何故自分にこの名が付いているのかが。
名前ならともかく自身の名字に意味を考えるのは先祖に高名な武将や政治家がいる者位だが、白い肌と漆黒の黒髪にあんまり桜が映えるのでつい聞いてしまったのである。
木乃香は知らないが、詠春もそう感じたから付けたのだ。やはり血は争えないのだろう。
「おじょおさま」
「?
ウチ?」
「うん」
「えー、ウチおじょうさま言われるんいややー。
そうゆわれるんはおとながつまらんことでよぶときやもん」
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185 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/02/10(日) 21:01:04 ID:EAi6dJO1
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刹那は困ってしまった。
だって師範がこの少女を「お嬢様」と呼んだから名がそうなのだろうと判断したのにそれを拒否されてはどうしようもない。
わからないのなら聞けばいい、という思考はこの時まだ刹那には備わっていなかった。
古流剣術の流れを汲む神鳴流の基礎と成るものをただひたすらに叩き込まれる日々で、それに疑問を持ったことはない。
だから二年ぶりに訪れた近衛家で刹那が詠春は居るか、と問うたことを師範は意外に思った。しかしそれは例外中の例外と見てもいい。
質問、というものをあまりしたことがなかった刹那は目の前の少女の名を問うよりも、ではどう呼んだらいいのだろうという少しずれた思考に神経を集中させていた。
「このちゃん」
「……?」
「ウチの名前。
このかやから、このちゃんゆうて?」
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