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199 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/11(月) 22:04:08 ID:ltQDPWSu
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「行きましょうか。
む、……むかじー?が何をしているのか分かりませんが」
「発音違う!ムカG!Gで上がるの!」
「あはは」
よく整備された階段を一段ずつ……確実に登っていく。
この一段ごとに自分の過去との距離は縮まっているんだろう。……ぼんやりそう思いながら夕凪を握る左手に力を込めた。
「アスナさん」
「ん?」
「……怪我、するかもしれませんよ」
「なぁに言ってんの、怪我なんて365日あるっての!」
勿論明日菜には刹那の言う「怪我」の意味合い位理解っている。
だが刹那の顔に少しも冗談らしさが無いので敢えてそう返したのだ。
怪我なら修学旅行の際にも幾らか負った。
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200 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/11(月) 22:04:44 ID:ltQDPWSu
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「ね、刹那さん」
「……はい」
気合いの入った決意表明でも宣誓するのかと、刹那は鈴の音の方向を向く。
「あたしはさ、これでも友達は大事にするタイプ!
それだけ覚えといて!」
「…………ははっ」
「こら、ここ感動するとこよ?」
「すいません、……あは、アスナさんらしいな……。
……はは」
「うぅわ、刹那さんピンチでも放置するよあたし!」
「それはちょっと」
「なはは、任せとけッ!」
明日菜はどん、と胸を叩いた。
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201 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/11(月) 22:05:24 ID:ltQDPWSu
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顎から滴るのはきっと……いや、間違いなく自分の血なのだろう。
……頭が痛い。
殴られたか斬られたかわからないが、どちらにせよ頭部に出血を伴う怪我を負っているのには違いない。
その血が流れ頬を伝い顎から滴る。先程から自身の血が床にその不快な音を立てている。
ぴた、ぴた、ぴた。
極めて等間隔で鳴る音に気が付いてからどれ程経ったのか、何も情報を得られない為見当すら付かない。
腕も脚も予想通り動かない。
比較的夜目の利く詠春の目にも風景はひたすらに闇だった。
触ることが出来ないので何とも言えないが、この闇はどこか不自然だった。
(目隠しもされている……か)
瞼の感覚でそれを探ろうにも詠春にはその気力さえ切れ掛けていた。
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202 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/11(月) 22:05:52 ID:ltQDPWSu
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……この部屋は……どこだろう。
老人達の目の届きやすい場所なのか、幽閉するに適した場所か。
頭主とは言えお飾りに過ぎない詠春には自分の屋敷でも見知らぬ部屋が数多かったのだ。
此所は審議会の面々が『観察』する為に設けた小部屋である。
それは一目では人がいるようには見えない。
書類や滅多に使う機会のなさそうな物を保管しておく為の部屋……とでも言おうか。
外観はごくありふれたレンタル倉庫のようだが、その目に滑る形状には不釣り合いな程頑丈そうな施錠が凡庸な使用目的として設置されたのではないことを暗に主張している。
純和風な景観を損ねることを嫌い屋敷の裏手に隠すように置かれても、それは当初審議会の一人二人から反対の意を唱えられた。
『観察』するならばすぐに目の付く屋敷内に造るべきだというのが反対派の主旨であったが、それは直ぐさま却下されることとなる。
確かに目の付く場所に置くべきなのは逃走の危険も考慮に入れたならば場の誰もが承知していよう。
しかし、そこに幽閉される者が屋敷内部に存在すること。
それは儀式を執り行う事を考えたならば極めて不都合な事象だった。
幽閉される者と汚れた者とは同義だったのである。
`ケガレタ'存在を聖なる領域……近衛家に置く事などあってはならない。
この部屋にその身を置かれた時点でその者の運命はほぼ決定されていた。
この事を詠春は知る由もないが、知らないほうが良かっただろう。
…………誰も自分の死期など明確な日取りとして認識したくはない。
……無知は時に幸福だ。
過去にそう口にした者が居たことも勿論詠春は知る筈もない。
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