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228 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/13(水) 20:03:11 ID:zcgxCtUo
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目を疑う、という言葉がある。
それは信じられないものを目の当たりにした時に用いる慣用句のひとつだ。
例えば道の真中に数える事すらままならない大金が落ちていたり宇宙人が降り立っていたとしたらそれは正に目を疑う、になるだろう。
しかし、今は大金を見つけてもいないし未知との遭遇もしていない。
ただ近衛家へ続く階段を上がりきり、どうやって木乃香と詠春を探そうかと思案していただけなのだ。
ある意味、『目』は疑わなかった。
見慣れた探し人がまるで明日菜と刹那の為に用意されたかのようにそこにいたから。
疑ったのは……『耳』。
「木乃香…………ッ!!良かった、無事なんだね?!
えっと、イケパ……じゃない、お父さんは?!」
肩を掴み問質す。
それは音声が無かったとしたら強奪風景にすら見えただろう。それ位に明日菜は動転してしまっていた。
無理もない、無二の親友が幽閉だのなんだのと物騒な話ばかり聞かされていたのだから。
「え、……あ、あの……?」
「お父さん大丈夫なの?!
ドッキリだったとか?!」
「父……は……お祖父様の所……に……居ます、が?」
「学園長?な、なんで?」
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229 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/13(水) 20:04:08 ID:zcgxCtUo
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「アスナさん」
明らかな違和感を覚え、刹那が手を離すよう制す。
「……お嬢様……?」
「あの…………、失礼ですが……
どちら様……ですか?」
二人の動きが凍る。
少しびくついた様子で自分達を見る木乃香に刹那、明日菜共に思考が止まっていた。
先に口火を切ったのは明日菜。
「…………ちょ、あはは、何言ってんの、冗談……きつい……って……」
努めて明るく振舞う口調すら今は寒々しい、ムードメーカー的役割の明日菜にも処理しかねる悪い冗談。
「お嬢様…………何が……あったのですか」
「え……?あの……」
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230 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/13(水) 20:04:38 ID:zcgxCtUo
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木乃香は戸惑っていた。
見知らぬ二人組は自分の知らない何らかの事情を掴んでいるように見えた。
……どうして自分の名を知っているのだろう。
面識はない。だが今の様子はそうとは思えなかった。初対面で名を知る筈がない。
そして……何より、父を話題に出したこと。
この事が何かとてつもなく重要な事象に感じられて…………。
「ちょ、なんか……意味わかんないけどとりあえずさ、木乃香はあたしが連れてくから刹那さんはお屋敷行ったらいい!!ような気がする!」
「そ、そうですね……!お願い……出来ますか」
「当たり前田のクラッカー!!
行こう、木乃香!」
「え、わ、?!」
二人は目配せを交わした。
明日菜は木乃香を学園に戻したら自分も駆け付ける、という意思表示。
刹那は木乃香を任せる、という信頼のつもりで。
小柄な木乃香をひょいっと抱えると明日菜は階段を駈け降りる。
その背中に敬礼でもするかのように刹那は腰を折った。
自分も行こう、と足を踏み出したその時。
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231 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/13(水) 20:05:35 ID:zcgxCtUo
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「………………あ…………」
それはまるで……金縛りだった。蛇に睨まれた蛙、と言ってもいい。
……脚がぴくりとも動かない。
しかしこれは妙な術や魔法の類ではないことはわかった。
何故なら、自分を凍らせたのはあの時と同じ恐怖だったからだ。
「…………こんにちは、……ふふ。……待っていたよ。
悪いけど、お嬢様は渡せない。
君にとってあのお嬢様は命に換えてでも守るべき対象なんだろうけど、僕だってあの子が大事……だから」
階段の中腹辺りで起きた物音を、常人より遥かに優れた刹那の耳は捉えていた。
「あぁ、君にも聴こえた?
……ふふ、逃げ出されるわけには……いかないからね。
ダメだよ、大人に逆らっちゃ、……さ」
屋敷と階段とを繋ぐ石畳。
そこに『彼』は居た。
鬱陶しい程に伸びた前髪に隠された表情を、刹那は見るまでも無く理解していた…………
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