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262 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/15(金) 21:02:16 ID:OvcK25Ys
「まずね、詠春に対する記憶の一部を。存在は消していないよ、オトウサンだもんね、僕にだって良心はあるから。
後君とカグラザカアスナの存在。あることないこと随分余計なこと吹き込んでくれたみたいだから、ふふ」

上機嫌に語る兼定の前髪が不意に1,2本散る。

「……瞬動?
…………へぇ……」

刹那は眼を狙い跳んだのだがそれは空しく空を切り、長い前髪が僅かに犠牲になっただけであった。

「僕は君が好きだけど、君は僕を好きじゃないみたいだねぇ……ふふ。
困ったなぁ」

身体の奥からじわじわと、しかし確実に滲んでくる恐怖と闘う。
……この笑い方が何かを想起させる。が、それが何かがわからない。

「僕らは10年前に会っているけど、君はそれを覚えてる?」

兼定は前髪を人差し指でぴん、と弾くと距離を詰めながら嗤った。
本能的に後退りした刹那を愉しそうに見やりながら言葉を続ける。

「まぁ……覚えてたら困るから今まで言わなかったんだけどね?


…………もう、いいんだ」


263 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/15(金) 21:03:07 ID:OvcK25Ys
「…………誰だ、
あなたは…………」

「……あはは、自己紹介しようか?
近衛家の進路を決定する審議会の長、コノエカネサダ。
……ってことになってるよ」

「…………?」

「僕には近衛家の血は流れていないんだ」

兼定はその細い腕を空に向かい振り上げた。

「…………が、ッ……?!」

その動きと連動し、刹那の身体が突然浮かび上がった。
兼定が指に力を込めると、首に圧力が掛かる。

「……離れた相手も怖くないんだよ、僕は。
君とは相性が悪いねぇ?ふふ、君は剣士だから接近戦しか出来ないでしょ?」

口許を歪ませながら笑う兼定は刹那から優に5mは離れている。
なのに超至近距離で首を締められているも同然……!!


264 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/15(金) 21:04:01 ID:OvcK25Ys
「苦しい?ねぇ、苦しい?苦しいのかなぁ、その顔は!!
あはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!
いいなぁその顔ッ!!!僕はもっと『イイ』君の顔を知っているけどねぇ!!!!あはは、あは、あはははははははははははははははははは!!!!!」

確かに首を掴まれている感触。なのにその当人はその仕草が見えるだけで実際には掴んでいない。
打開策を模索しようにも意識は今にも遠のきそうで…………。
じたばたと空で身悶えても何もならない。が、あまりにも間合いが広すぎる……!!

その時。
急に圧力が消え、刹那は石畳に叩き付けられるように落下した。
何とか受け身を取り、骨折は免れる。

「…………っ、?!」

兼定は石化でもしたかのように動きを止めていた。
前髪で隠れて読めないが、それは怪訝な表情に見える。
階段下に意識を飛ばし、刹那のことなど既に眼中にないようにさえ思える。
どういうことかはわからないが、自由になった刹那は途切れていた酸素を思い切り吸う。
首に手をやる。
……窒息死寸前だった。
痕が残りそうだ、と霞みかけた意識でそう思う。


265 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/15(金) 21:04:51 ID:OvcK25Ys
「…………あいつか……」

小さな呟き。
あいつ、とは自分を指して居ないのは明らかだ。
とにかく夕凪を握り直し、いつまた来てもいいように構えを取る。
……また今の術を使われれば意味はないのだが、未熟とは言え剣術を習った者として染み付いた癖のようなものだった。

「また…………邪魔をするつもりなのか……」

ゆらりと階段の方へ足を進める兼定に、木乃香と明日菜の危険を感じ走る。
さっき聞こえた轟音もその不安を掻き立てた。
……何があったというのか、そして兼定と名乗るこの男の態度の豹変ぶりは一体……?!
脇を掠めるように走り抜けても、魂の抜けたように兼定は何もしてこなかった。
前髪に隠れた眼はただ階段下を見つめている。
記憶を探しに来たのは確かだし、理由の知れぬ恐怖と立ち向かう気概は勿論ある。
しかし今は木乃香と明日菜が危険だ!!
階段を駆け降りながら後ろを振り向くと、兼定の姿は煙のように立ち消えていた……。

(…………お嬢様……っ、アスナさん…………!!)

走りながら踏まれ乱れた草の痕を頼りに松林を進む。

「……これか」


266 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/15(金) 21:05:52 ID:OvcK25Ys
一か所、松がへしゃげたように折れている。
まさかこれに当たったというわけではないだろう。
明日菜の身体能力は人並みを外れている。『お猿さん』の由来だ。

「……っ?!」

刹那の目が不意に人影を捉える。
そしてそれが草むらに横たわる明日菜だということに気付くのにそう時間は掛からなかった。

風がちりん……と、明日菜の髪飾りを鳴らしたのと刹那が叫ぶのとはほぼ同時だった…………

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