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336 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/22(金) 22:02:02 ID:PsQr1uEJ
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長く続く階段を出来る限りの速度で駆け上がる。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返ったそこは今にも何かが飛び出てきそうで、風が草を揺らすその音でも可笑しい位にびくついてしまう。
こんなに自分は臆病だったのか、と苦々しく舌打ちした。
一段一段確実に上がりながら思った。
石灰色の階段がどこか懐かしいのだ。
(なんで今こんなこと思うんだろう)
この階段は幼い頃、木乃香とよく遊んだ場所のひとつだ。
その事を勿論刹那は憶えている。
ただ、何故今それを鮮烈に思い出したのかよくわからない。
まぁ記憶というものは案外曖昧だ。
何をきっかけに何を取り出すかなど想像が付いてしまったらきっとつまらないに違いない。
……ぼんやりと思う。
小さな頃は木乃香が居て、詠春が居て、ただ暖かくて……。
自分が何者なのかもまだはっきりと認識もしていなくて、純粋に木乃香に好きだと言えていた気がする。
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337 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/22(金) 22:02:34 ID:PsQr1uEJ
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(この、……ちゃん)
心の中でその名を呼んだ。
どちら様ですか、と言った少し怯えた顔が浮かぶ。
忘れたわけがない。
記憶を抹消されたのは明白だ。
だが、誰が……何のために……?
記憶を消して何の利益があるというのだろう。
それに対するリスクを考えたら余りにも後々面倒ではないのか?
麻帆良に戻すつもりがない、という自分の当初からの読みは恐らく当たっている。
しかし……。
自分から遠ざけることにこれだけの手荒な真似をするようにはどうしても思えなかった。
どこか凶暴かつ粗暴な何者かの意思を感じてしまう。
審議会には別の目的があるのだろう。
自分などには想像もつかない……、計画が。
だが、それがなんであれ木乃香の記憶と木乃香自身を取り戻す。
そして、あの男との因果関係も確かめなくてはならない。
刹那は走りながらそんなことを考えていた……。
荒い息を整えつつ、あの不気味な男がいつ現れるかと辺りを見回す。
兼定……と言っていたか。
妙な術を使うあの男……、血が巡っていないのではないかと思える程青白い顔色―鼻と口以外は隠れてほとんど見えていないが―が薄気味の悪さを際立たせていた。
アレは何者なのだろう。
自分には近衛の血が流れていないと言っていた。
近衛でない者が審議会の一員になるにはどんな手段があるのかにさしたる興味はないが仮に顔を混ぜることが出来たとしても長にまで登ることが出来るものなのか……?
余計な事を考える必要はないかもしれないが、確実に自分と関係のあるあの男について思案せずにはいられなかった。
アレが木乃香の記憶を消したかはわからないが、指示した若しくは奴そのものが手を下したのかもしれない。
どちらにせよ自分はアレと顔をあわせなければならないという事実に肌が粟立つ。
得体の知れない胸の奥の叫びが足を一瞬止めさせたが、すぐにまた走り出す。
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338 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/02/22(金) 22:03:11 ID:PsQr1uEJ
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階段を上がりきり、つい数十分前まで兼定と対峙していた石畳を踏みしめた。
……誰も居ない。
夕凪を握り締めゆっくりと屋敷へと歩き出す。
明日菜を襲ったのは誰だったのだろう。
轟音しか聞いていない刹那には判りかねたが、ネギと仮契約を済ませている明日菜が簡単に倒れるとは考えにくかった。
ネギが居なければ力が契約者としての本来の力を発揮できないのはそうだが、仮契約によって潜在的能力が引き出される。
その状態の明日菜をあの数分で……。
傷口は物理的攻撃によるものだった。兼定とは真逆の純粋な力技。
兼定がこちらのタイプだったらまだ良かったな、と思って苦笑した。
力で押してこようと超常的能力を駆使しようと刹那にとってアレが恐怖の対象であることに変わりはないのだから……
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