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442 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/07(金) 17:17:22 ID:qf3XJIws
僕はわかっているのだろうか。
残された羽の数は後二本。
だからもう時間が無い。
わかっている。
……わかって、いる。
本当は彼女らの十六歳を待つつもりだったけど、そういう訳にもいかなくなってきた。
案外僕もポンコツなんだな、なんて苦笑する。
ポンコツの上人じゃないなんて救いようがないね。
まぁどうせ……化け物だから。
僕を見て怯えない人が居るのなら見てみたいくらいだ。
いや、……会いたい。
僕は化け物だから。
忌み嫌われ蔑まれるのが似合いの生き物。
だからあの翼の姫君がとても好き。親近感、とでも言おうか。
……好きだけど、嫌いだ。
だって同じ化け物なくせにあいつは……
笑っているんだ。
だから、嫌いだ。
でも、とても大切。
……あはは、自分でも何が何なのかよくわからない。
要は僕はあいつに嫉妬しているのだろう。
そっくりなのに、僕とは全然違うあの子を。
僕の欲しいものを持っているから、ってだけじゃない気がする。
……それは多分可能性。
僕は彼女の可能性が嫌なのだろう。
羽を毟ったらもう用は無いし、あのお嬢様の前で殺してやろうか。

近衛……木乃香。
記憶、全て消した方がいいかもしれない。
真っ白な方がより完成度は高い気がする。


443 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/07(金) 17:18:09 ID:qf3XJIws
………………。

不意に脳裏をあのお嬢様が言った言葉が巡った。

………………。
記憶の完全な抹消はやめておこう。
直前までは少しくらい残っていてもいい。そうだよ、翼の姫君への思慕の情が邪魔だっただけなんだから。
それに僕はあのお嬢様が嫌いじゃない。面影を追う方でもないけど、少し惜しいから。
だからほんの少し猶予をあげよう。僕だってそんなに酷い目には遭わせたくない。

イレモノは手に入れた。
邪魔はさせない、時間がない。
鷹峰が居たって関係ないよ。ころしてやる、あいつなんか。死に損ないの爺さん達に飼われているだけの猛獣の何が怖いって言うんだ。
もう僕はあの頃とは違う。柳の下に泥鰌は二度もいないんだって教えてやるだけさ。

もうじき……会える。
君のイレモノと記憶を繋ぐ羽根……、僕は必ず揃えて見せる。
大丈夫、血が付いたらちゃんと手は洗うから。
もしも臭いが付いたなら水を浴びてそれだって消すよ。
だから君を怖がらせる要素なんかないんだ。
大丈夫、大丈夫……。

だから………………、
待っていて。

数百年の時を紡ぐ為用意した役者達はもう既に……僕の舞台の中に在る。


444 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/07(金) 17:19:04 ID:qf3XJIws
*****


長谷川千雨、15歳。(一部の)みんなのスーパーアイドル。
偶然知られてしまった担任教師ネギ・スプリングフィ−ルドを除けば彼女の意外すぎる趣味を知るものはいない。
まだ子供だから大目に見てやるが、これが自分と同等の年の者だったら持ち得る全てのネットスキルで相手を脅迫してでも口を噤ませるだろう。
何故ならそれは普段の千雨の生活態度から言って知られてはならないことだからだ。
メガネがないと人前で話せないような女子がネットアイドルだなんて早乙女や朝倉辺りに知られたらもうこの学校には居られない。いや、マジで。
千雨は在り来たりな平凡を好む。騒がしさなんぞ更々御免だ。
どこぞのラノベヒロインのような「日常を変えたい」なんて思ったことはないし、アルファベット3つ並べた団を作ろうとも思わない。だから校庭に謎の絵を描きもしなければ映画だって撮らないのである。
平凡が一番幸せだ。
千雨は心底そう思う。
第一非日常を望む輩って言うのは要は今の自分の境遇に不満を抱いているわけだ。
そんな毎日を変えたいから、訳のわからん夢を持つ。
その点、千雨は日々に何の不満も持っていない。変な期待はするだけ無駄なことだと理解しているのである。
期待するから疲れる、失望する。
十五でこの冷めた感覚を持った自分に呆れることさえあるが、それでも千雨はこの性格を少し気に入ってもいた。
その実、心の壁を作っているだけだということを絶対に認めはしないが。

そんな彼女の1日はPCの電源を入れる所から始まる。
ヴーン……という独特の音は彼女に今日も変わらぬ平穏がこの部屋にあることを実感させる。だから千雨はこの音が好きだった。
起動確認すると、画面をちらりと見てから顔を洗ったり朝の身支度を手短に済ませる。
それらが一段落付くと盆に簡単な朝食を載せてPCの前に据えられた椅子に座り、壁の時計を見るのがここ数年の習慣だ。


445 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/07(金) 17:20:07 ID:qf3XJIws
ネットに繋ぎ、HPのチェックやメール確認と、ややネット依存の気が感じられる作業を食パン片手に行いつつ時折甘めのコーヒーが入ったマグカップに口を付ける。
このPCの前で食事を取るという行為はあまり行儀が良くないとは分っているが、染み付いた感覚はなかなか抜けないものらしく今日も千雨はキーボードや周辺機器にコーヒーを零さない術を益々高尚化させていくのだった。
ほぼ毎日日記や写真と、何かしら更新しているHPだが最近はそれが出来ずにいた。
原因は担任教師ネギ・スプリングフィールド(10・♂)にある。
「……っだよ、……あいつは…………」
液晶画面にネギの顔を浮べ、悪態をつく。
この微妙な胸のざわつきが何なのかはっきりと分らないことが苛立ちを煽る。
急に呼び出したかと思ったら延々電波な話を振りやがったのだ、それもHP更新に頭が回らない程のレベルの。
なにかファンタジーなゲームか映画かアニメでも見たんだろうか。そうとでも考えなければ現実主義の自分と余りに思考回路が食い違う。
何が悪の組織だ、馬鹿馬鹿しい。
あの時は高畑先生がいた手前適当に話を合わせたものの、実際は果てしなく冷めていた。
何やら二人で会話したそうな空気を感じたのでチャンスとばかりに抜け出してきてみたが、戻ってこなかった為に後からネギに詰め寄られたのを思い出す。か―――っ、近寄るなファンタジー王子が!!
……あいつがいると私の日常は崩れてく気がする。事実、崩れてる。
訳のわからんことに首を突っ込みたがる年なんだろーか。自分のこともままならないのに他人を気にしてどうするつもりなんだか。
それできちんと世話できるならいいが、手を出しておいて結局何も出来なかったらそっちの方が質が悪い。
それ、言ってやれば良かったかもしれない。
前の見えないガキってのは困りモンだ、ほんとに。
目を瞑り奴の話を咀嚼し直す。
……すればする程溜息が出そうになるがそろそろ出ないと遅刻するので一度だけ吐いてからPCの電源を落とした。
それからゆっくりと立ち上がり、本日二度目の溜息を吐いてからカバンを手に取る。
やけに重く感じた。

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