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475 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:44:33 ID:kiuGQam+
放課後。
HRを終えた生徒達がそれぞれの余暇時間を過ごす為に教室を後にしていく。
教室に残り級友と談笑に興じる者も多いが、長谷川千雨は其の例には入らない。何しろ彼女は団体行動を嫌う一匹狼派である。
鞄に手早く教科書を詰め込むと足早にそこを立ち去る。
五月蝿いクラスメイト達は好きになれなかったし、なるつもりもなかった。
騒いでばかりで中身のない同年代を冷めた目で見るのが自分の役所だと勝手に解釈しつつ、それが一番合うとも思う。
友人が欲しいと思うことはあるが、それに至るまでの係わり合いが面倒で結果いつも独りを選ぶ。
人間関係は煩わしい。
全てはその一言に尽きた。
トモダチゴッコをやるくらいなら少しの孤独の方が後腐れなくて過し良い。
そんなスタンスの千雨に話しかける者はあまり居ない。
が、物事には例外が付き物なのは世間の常であり、非常識が罷り通る3−Aでもそれは常識として認識されていた。
この場合の例外とは朝倉である。
元々朝倉はクラスに馴染もうとしない千雨に小さくは無い興味を抱いていた。それがクラスを纏める為ではないのは勿論だ。
理由としては単純な人的興味である。
これだけの個性派揃いのクラスに身を置いていると、逆に千雨のようなタイプが目に付く。
クラス分けを見た当初は気にならなかったが、もうこの面子とも付き合いは2年目になる。すると級友一人一人に次第に関心が広がるわけで、現在の朝倉の目は千雨に向かっているというわけだ。
「ねー」
人気のすっかりなくなった教室で朝倉が呟く。
しかしそこには誰の影もない。それでも朝倉は言葉を続ける。
「長谷川って何なのかなーぁ」
夕焼けが入ってくる窓辺を眺めながらペンを回す。
「あ」
だが上手いとは言えないそれはあっけなく朝倉の手から離れ、床に転がる。


476 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:45:11 ID:kiuGQam+
「あはは、確かに」
笑いながらペンを拾う彼女の姿を見る者があったなら不審に思うことは間違いない。誰も居ない教室で一人喋り笑っているのだから。
「……そういうもの?」
今度は神妙な表情に変わり、降りた椅子に再度腰を掛ける。
「……や、それは違うけど。
何て言うのかなー、事件のニオイ?みたいな?」
懲りずにまたもペンを回し出す。
数秒後、ペンはころりと手を離れ、宙に浮く。
それにさして驚く様子もなく朝倉は頭の後ろで両手を組むとゆっくり伸びをした。
「……いやね?私だってそんな首突っ込むべきじゃないこととそれ以外のことの区別はついてるつもりだよ。
けどねぇ、ネギ君云々で釣ろうとしたのが間違いだとも思わないしなぁ。長谷川からはフラグの匂いがする……って、それはいいや。
………………あんなん見たら、さぁ?誰だって気になるでしょ。
うん、こーゆうのが良くないってのは分るよ?」
揺ら揺らと浮かんでいたペンはことり、と小さな音をたてて机に降りた。
「なんだったんだろ……アレ……」
朝倉はぼんやり窓を見ながらもその眼は『あの』光景に意識をやっていた。
昨日屋上で見たもの。
ソレは人の形をしていた。ちゃんと足は二本あったし腕も自分と同じ数を持っていた。だから、間違いなく人間だったんだろう。
顔は判別出来なかったが、やけに黒い髪だけははっきりと見えた。
風に揺れるほどは長くなさそうなのにその髪はやけに靡いていて、それが妙に……不気味で。
「……どう思った?」
此処に来てその話し相手は実体化するように姿を現した。
若干透けていて眼を凝らせば向こう側が見えてしまうが、それははっきりと朝倉に見えている。
「……いやな、感じ。
としか……」
「……だよねぇ。私もそう思う。
でも嫌って言うよりは……」
怖かった、と言いかけて口を噤む。
何故ならその理由が目の前の相坂さよに対して失礼な気がしたからだ。


477 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:46:08 ID:kiuGQam+
相坂さよ。
朝倉の隣席の生徒で、非科学的事象などほぼ解明されている現代において堂々とそれを論破する存在。
つまり『幽霊』だ。
さよは現世に何らかの後悔があり此処に残り続けていると考えられる。
何故ならさよはある一定の場所を言わばテリトリーとし行動しているからだ。勿論、テリトリーとは言ってもそこに侵入した者を攻撃する、という訳ではないが。
そしてそのテリトリーとは主に今二人の居る教室である。
さよは何十年もこの教室の一見空席と思える席に座り続けてきた。
まだ生きていた頃割り当てられた席。そこに愛着を持っているのか違うのか定かではないが、今のさよには明確な理由がある。
朝倉が自分を視認するようになったからだ。
誰とも接触することができなかったさよにとってこの世を去ってから初めて出来た友人だった。
朝倉はいつもさよには理解できない器具を持って校内を駆け回っていたかと思うとこうやって何をするでもなく談笑することもある。
悪い意味ではなく、朝倉は二面性を持った人物だったと言える。
もうさよは自分が何故現世に残っているのかを忘れてしまったが、それでもいいか、と思うようになっていた。
朝倉が自分と話してくれるのがただ純粋に嬉しかったのだ。
そして……その朝倉は口にこそ出さなかったが、思っていた。
……あの男が生きた人間に見えなくて不気味だった、と。
屋上に上がっていくネギを見かけたので3−A爆闘☆ネギ君争奪31凶について説明するつもりで何気なくその姿を追った。
そしてそこで見たものは、時代錯誤にも程がある衣服を纏った痩身の男。
教科書で見たことがある。あれは平安時代の貴族が着用し、今では特殊な職に就く者だけが身に着けている衣服。狩衣、と言ったか。
いや、男だったかどうかもわからない。その身体は痩せぎすで、男性的な体格とは言い難かったのである。
「まぁそんなよく見たわけでもないしね……」
「私も見ていましたけど……痩せた方だったのは確かです」
「うん。
なんか盗み聞きするのも嫌だったからすぐ降りちゃったじゃん?
でもさ、なんか物騒な話してた空気だったんだよねぇ……」


478 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:47:29 ID:kiuGQam+
「何か聴こえたんですか?」
「いや、なんも。
ネギ君が顔強張らせてたように見えただけ。
なんていうか……冷や汗?みたいな感じがした」
冷や汗か脂汗か分らないが、朝倉も同様だったのだが。
「さよちゃんさ」
「?」
「アレに触れると思う?」
アレ、とはあの得体の知れない男の事だろう。
「……どうでしょう。
同じな気がするので出来る気もします……けど」
「けど?」
朝倉の前髪が揺れた。
さよのそれはさよ自身が動いた時だけに限り揺れる。眼に見えるとは言ってもその身体は幽体であり、風や空気に晒され変化を起こす類のものではないからだ。
同様にさよはこの教室にあるものに触れることが出来ない。しかし一部を除いて、の話だ。さよは朝倉の所有する物の一部を触る事が出来る。その理由を単純に朝倉はポルターなんちゃらのお陰だろう、と思っていた。
だが朝倉はさよ自体には触れないし、その逆も言うまでも無く。
更に言うならば幽体と生きた人間が交流を持つことも通常は不可能だ。
存在する世界そのものが違うから、としか言いようがない。
幽体とは肉体を失った魂と考えて良い。魂とは言ってもそれは抽象的な言葉であり、実際は魂という概念は存在しない。
あるのは、自身の無念の残る場所に『在りたい』と願う心だからだ。そんなものと交流出来る筈がないのが普通だが、例外が此処に有り。
「幽霊……ではないでしょうね。
ネギ先生と会話していましたし」
「あ、そか。
私とさよちゃんみたいなのが常識なわけじゃないもんね」
「でも」
「うん?」
「でも……生きている感じも……しなかった、……です」
「…………やっぱ?」
さよがこくりと頷く。
複雑な表情を浮べる朝倉に声を掛ける。
「……何なんでしょうね」

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