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◆AIo1qlmVDI 氏
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479 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:48:12 ID:kiuGQam+
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「さぁ、ね。
なんかヤバイ匂いはするよね」
はは、と軽く笑ってみたが、内心あまり穏やかではない。
何か、このままでは今のありふれた日常が形を失くし崩れていくような気がしたのだ。
「あのさ?」
「はい」
立ち上がり窓まで歩く。開け放した窓から入る空気は少し冷えていた。
校庭を見やると陸上部が部活に励む様子が見える。
「それでさ、長谷川の話になるんだけど」
「……長谷川さん?」
さよは誰に対してもつっけんどんな千雨が少し苦手だった。苦手、と言っても朝倉以外と交流を持てないのだからそれは間違いかもしれないが。
どちらにせよさよは千雨と相称が良いとは言い難かった。
「長谷川さんが、何か」
「私の勝手な予想なんだけどね、長谷川は何か知ってる。……と思う。
あの変な男……っても実際男かわかんないけど」
何故そう思うのかは正直、単なる勘だ。
千雨に興味を持って眺めていたからかもしれない。
その『変化』は些細すぎてきっと誰もわからないだろうが、一人、朝倉は気付いた。
いつも無表情に近い千雨がここ数日、妙にイラついているように見えたのだ。そして千雨はネギに対し何らかの感情を有している、とも踏んでいた。
勿論根拠は無く、これもただの勘だが。
それが恋愛絡みか明日菜のようなお姉さん的心情か、今は置いておくとしても。
「ねー、さよちゃん」
「?
はい」
朝倉の放ったペンをくるくる回していたさよは名前を呼ばれたので自分も窓に移動する。そのペン捌きは達人業と言って良かった。目まぐるしく回転するソレを見ながら相変わらずだな、と苦笑する。
しかし朝倉は急に表情を締めると言った。
「人が最も動く時って何だろうね」
ペンがぴたりと止まり、宙を移動し朝倉の机に置かれる。
「行動、ですか」
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480 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:49:11 ID:kiuGQam+
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「うん」
二人の間に暫しの沈黙が流れた。
バレー部か何かだろう、元気な掛け声が聴こえる。
「…………なんでしょう」
数秒の間があった。
朝倉はさよを見て、言う。
「私は……誰かを想う気持ちなんじゃないかなって、思うよ」
「誰か、を」
「そ。
現実追求型の私が言うとあんま説得力ないけどね」
「いえ。
……そんなことは思いません」
「そぉ?
……あは、ありがと」
横顔が少し緩む。それをさよは柔らかい表情で見つめた。
空気が暖かいものに変わる。
……触れられないのが惜しいな、なんて。
こっそりそんな気持ちを共有していたことを、二人は知らない。
いや、その必要はないのだろう。同じ想いを抱えているのなら、それで十分なのだから。
二人は互いの気持ちを知りはしないけれど。
でも。
その心を染めた色は、きっと同じだった。
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481 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:49:43 ID:kiuGQam+
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「やぁ」
その声に振り向く。
もしかしたらそれは自分に向かって掛けられたものではないのかもしれない。だが今この廊下には千雨しか居ない。必然的にその挨拶は千雨に発しられていたことになる。
HRを終えて早々に教室を後にした千雨だが、何故だか自室にこもる気がしなくてこうして校内をぶらついていたのだ。
……失敗だった、と千雨は思った。
「……高畑先生」
「この間は美味しいお茶をありがとう。それだけは伝えたかったんだけどなかなか君を見かけられなくてね」
小脇に抱えた鞄を持ち直すと千雨は眼鏡の蔓に触れた。
「いえ、礼に及ぶ事をした憶えはありませんから。失礼します」
礼も何もアンタの茶葉だろ、と内心付け足す。
「え?
……あ、はは、素気ないなぁ、君は」
「何か」
千雨は他者との一時的接触を嫌う。理由はただひとつ、面倒だからだ。
関わると碌なことにならないと去年の余りに騒がしい一年間で悟った。
「少し、いいかな」
「お断りします」
高畑が呆気に取られている間にぺこ、と形だけの辞儀をして千雨はすたすたと歩き出した。
「……参ったな」
五m程先の千雨を見て苦笑しながら髪を掻く。
「攻めあぐねるね、あの子は」
少し早歩きをすれば長身の高畑の歩幅だ、あっという間に追いついてしまう。
「すまない、無理強いをしたいわけじゃないんだけどね」
進行方向に回りこむ形になった高畑を、眉間に皺を寄せて見る。
「何ですか」
「少し、時間を貰えないかな。……うん、五分で構わない」
「お断りします」
「……あはは、嫌われちゃったかな、僕は」
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482 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/15(土) 11:50:27 ID:kiuGQam+
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「嫌ってはいません」
明らかにこの態度は今の発言を否定している。
しかし、実際千雨は高畑を嫌ってはいない。ただ関わるのが誰であれ面倒なだけなのだ。
「長谷川君」
返事はせずに高畑を見る。蛇睨み、と言っても良かった。千雨はある種の予感を高畑から感じ取っていたからである。
「言い方を変えよう。
僕も関わり合いにならせるつもりはない。これを知ったことで何かが変わる可能性も否定はしないよ。
だが。……これは、君が聞かなければならない話なんじゃないかと思う。この話を聞き、君がどう思いどう行動するかは自由だ。でも、君は君が思う以上に事に踏み込んでいる。このまま中途半端でいることは君にとって極めて危険な事だ。
せめて何に足を突っ込んでしまったのかを知らなければならない」
「…………は?」
再度歩き掛けていた千雨の足が止まった。
「聞いて欲しい。……君の為にも」
高畑の表情が余りに沈痛なものなので流石に千雨も少し感情を動かされた。
「……何の話をされるのか知りませんが……
聴かない事で私に何かある可能性がなら聞いておきます」
合理主義な千雨の性格を高畑は既に掴みかけていたのかもしれない。
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