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495 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:35:39 ID:SvAZNi0L
「場所を変えてもいいかい。あの後、少し片付けてね。ちょっと動いた位じゃ雪崩は起きないから」
「物騒な話ですか」
「……穏やかな話ではないと言える。全く、余計な入れ知恵は困るが知ってしまったのなら仕方がないことだからね……。今を嘆いても状況は変わらない」
千雨は一つにまとめた髪を少し撫でてから軽く頷いた。
安心したように高畑が微笑する。
朝倉に見られたらまた五月蝿いことを言ってきそうなので足早に二階へと向かう為歩き出す。






496 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:36:39 ID:SvAZNi0L
「………………」
高畑の辞書にある『掃除』という単語にどのような説明が載っているのか見てみたい。千雨は目の前のうず高い書類の山をみて心底そう思った。
高畑は恐るべき馬鹿か、掃除をしたと虚偽の発言をしたかのどちらかに違いない。
何せそれは先日ここを訪れた時と変わらないどころか、その状態は悪化の一途を辿っていたからだ。
ドアノブを掴んだまま硬直して動かない千雨に気付いた高畑が自分の弁護に走る。
「あ、ああ、そこだけだよ、汚いのは。座る場所は綺麗だから」
書類の向こう側に見えるスペースは確かに綺麗、と言えなくもないかもしれない。しかし、この惨劇の舞台と比べたらという話であり、一般的には高畑の言う『綺麗』は通用しないだろう。むしろ逆に分類した方がいい。
どちらにせよ入り口がこんな有様では何も言えたものではない。
……先生の辞書は大幅な改稿の必要がある。少なくとも掃除の項目は全面的に、だ。
千雨は煙草で染まった天井と夥しい量の書類・切抜き・フロッピーディスクで埋め尽くされた一室に高畑の弁明の齟齬を感じながらも異を唱えることはやめておいた。
「高畑先生」
「ん?」
「掃除とは一時的に何とか人を通せるスペースを作る為に物を移動することではないのでは」
しかしあっさりと先ほどのささやかな決意を折る。これは小学生が掃除しろと叱られ机の上のごたごたをとりあえず隅に纏めるのと全く同じだと思ったからである。
「あ、はは……。
掃除は昔から苦手でね」
ずぼらなわけではないのだろうが、高畑は家事が丸っきり駄目なタイプだった。
将来奥さんが苦労するな、と彼の未来の花嫁に黙祷を捧げる。
きっと少し触れただけで大災害だ。
絶妙としか言い用がない角度と密度で構成された山を見て思う。
これ、残してあるということは全て必要なものなんだろうか。しかしこんな有様ではそうとは考えにくい。機密書類の類だったらここまで乱雑にはしておかない筈だ。
だが実際は千雨の予想の斜め上。ここにある書類やデータはどれもが一級品の機密レベルだ。
それがこんなになっていても平気なのは学園に張られた結界のお陰である。そうでもなければ高畑がいくら掃除を不得手としていようとそんなことは言っていられまい。
だがそれに甘んじた高畑の情報管理に対する意識はやや低いと言わざるを得ないかもしれない……。
そして、千雨は知らないがこの部屋自体が結界に覆われている。
侵入しようにもドア自体が視認出来ないようになっているし、仮に入れたとしてもここは実際には存在しない閉鎖空間なのでその心配は杞憂にもならないというわけで、そもそも『入れる』ということは通常有り得ない。


497 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:37:30 ID:SvAZNi0L
高畑は呪文詠唱が出来ない為に現実離れしたそれを行ったのは彼ではないが。
ネギが何の前触れもなくこの部屋に入れたのには勿論理由があり、ある種暗号のような鍵にあたる言葉を高畑から聞いている為入室を可能にしている。
因みにその暗号とは『僕はフリーの魔法先生。この部屋には時々来るんだ』というふざけたものである。
入室許可の暗号を知っている者と同時であれば何の知識もない人間でもこの部屋に入ることは可能だ。だが、普段は開かずの間どころか学園には存在しない部屋として有るこの部屋に何も知らない千雨を連れてきてしまったネギは軽率だった。
今日は高畑が個人的に千雨を連れてきたからいいが、千雨のほうからこの部屋を訪れたとしたら。つい何日か前まであった部屋がドアもろとも忽然と消え去っていれば誰でも不審に思い、それが騒がしい者であれば要らぬ騒動を起こす可能性がある。
この部屋は立地的に『有り得ない』場所にあるのも理由の一つに挙げられる。
ドアを視認できない状態で見ると、この部屋はコの字型の校舎の一角の最先端にあたる、部屋がある筈がない場所に存在する。
あまりここに来ない千雨はそこまで勘付くことはなかったが、この部屋が奇妙なことに気付いた場合を考え高畑は彼女を呼んだ。勿論、千雨の今の状況を話す目的もあるが。
その危険性を承知してまでここに造られたのにも理由がある。
単純な話だ。魔法先生が多数在籍し、かつマンモス校、更に関東魔法協会理事長でもある近右衛門が学園長を務める麻帆良学園を何らかの敵意を持ち攻めて来る者は皆無に等しいからである。一たび攻めれば即座に関東魔法協会を敵に回しかねない。
目立つ真似さえしなければ、機密管理にこれ以上安全な場所もないと言えた。
鷹峰はそれを知っていた為にネギに接触するだけに留まったと考えられる。ネギは教員であり、接触するならば学園内が最も安易だ。
しかしそれもネギに監視の目を光らせる者が居たとしたら危険な話だが、ネギはまだ少年であり、行動範囲も非常に狭い。
危険だが、仕方が無い。そういう事だろう。

「じゃ、すまないけどこっちに来てもらえるかい」
いつの間にか移動したらしい、高畑が綺麗だと言い放った箇所から声がした。
一体どうしたらこんなに上手く物を積み上げられるのか逆に聞いてみたい。高畑の手にかかればピサの斜塔など寝ぼけながらでも建設できそうだ、などと考えながらそこに辿りつく。
……着くころには山が二つほど倒壊したが。


498 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:38:48 ID:SvAZNi0L
「ああ、いいよ、直そうとすると余計崩れるんだ」
いよいよ掃除ができていないことを露呈していることに気が付いていない高畑だった……。
「じゃ、そこに座ってもらえるかな」
「はぁ」
少し足の曲がった三脚椅子に腰掛ける。若干体が傾く。
「すまないね、備品が行き届いていなくて」
そう言う高畑の椅子は理科室で少し前まで見かけた木製のものだった。処分する寸前だったのをわざわざ貰ってくる程備品が無いらしい。今では理科室の椅子は全て綺麗なものと換えられている。体格の良い高畑にその椅子は低すぎて、それが少し滑稽だった。
「エコロジー。ですか」
「ん?いや、そういうわけでもないかな。単に僕がここで使っていた椅子がもう完璧に使い物にならなくなっただけで」
「そうですか」
ふう、と一息ついたところで高畑が思いついたように言った。
「そうだ、今度は僕がお茶を淹れよう」
「え」
千雨は別に家事が得意ではないし、況してやお茶を淹れるのが特技でもない。
今日発覚した高畑の凄まじい家事音痴と『美味しいお茶をありがとう』発言。
これらから導きだされる結論は…………、
「私が行きます」
きっぱりとした千雨にしては珍しい意思のこもった声に高畑が少し驚く。
「え?いや、今日は僕が。僕が私用で呼んでいるわけだし」
立ち上がりかけた高畑より先に千雨が椅子から腰を上げる。
「先生。私は率先して人を傷つけたくはないです」
「?」
意味を解せぬ高畑を放置し、千雨は一度通り覚えたこの部屋備え付けの給湯室に向かった。
「長谷川君」
声に振り返る。
「ありがとう」

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