軽く頷き返し、歩みを進めようとした時、もう一度呼ばれその足を止めた。
「今日はちゃんと戻ってこなきゃだめだよ」
にこりと笑い高畑が言った。
誰かがドアを開ければ離れていても高畑には分るようになっているが、今日はそれをしていない。
流石にいつも通り、ドアを外からのみ視認不可能な状態にはしてあるが。
「………………」
無言で会釈し、千雨は給湯室に向かっていった。
……書類の山がまたひとつ、崩れた。

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499 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:39:32 ID:SvAZNi0L | ||||
軽く頷き返し、歩みを進めようとした時、もう一度呼ばれその足を止めた。 「今日はちゃんと戻ってこなきゃだめだよ」 にこりと笑い高畑が言った。 誰かがドアを開ければ離れていても高畑には分るようになっているが、今日はそれをしていない。 流石にいつも通り、ドアを外からのみ視認不可能な状態にはしてあるが。 「………………」 無言で会釈し、千雨は給湯室に向かっていった。 ……書類の山がまたひとつ、崩れた。 | ||||
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500 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:40:29 ID:SvAZNi0L | ||||
「………………………」 湯気を上げながら黄緑色の液体が湯飲みを侵食していく様をぼんやり眺めながら千雨はネギの話をまたも反芻していた。 悪の組織。攫われた近衛家令嬢。救出に向かう二人の少女、そしてその危機。 やはりどう考えても納得がいかない以前の問題だ。誰がこんな阿呆話を真に受ける? 早乙女、朝倉を筆頭とする馬鹿集団なら飛びつきそうだがそれは非常識なあいつらだからこその話であり、普通の一般人である自分には縁遠い、と思う。 「…………デスメガネ登場、ね……」 呟いてから天井を見やった。 ここの天井は幸い本来の白さを残している。しかしドア一枚隔てたこの先はザ・煙草天井と化している。一体どれ位吸えばあれ程になるのか見当もつかない。……付ける気はないが。 まぁそんな瑣末な事はこの際どうでもいい。 千雨の現在の懸案事項。それは……。 「この話がマジだったらどーすんだよ……」 仮に近衛木乃香が何者かに攫われたとしよう。実際千雨は目にしていないが、アレだけの豪華絢爛なお屋敷に住んでいたんだ、身代金も期待できるだろう。 悪の組織っていうのはネギの大袈裟な話というだけで単なる刑事事件にすぎないのではないか?神楽坂と桜咲には悪いが、あの二人は馬鹿だったんだ。警察に任せておけばいい話を自らの手で、という要らぬ正義心に駆られ突っ込んでいった、と。 (無理な想像じゃないな) だが、この仮説を覆すのは先日届いたという退学届。 ……これの意味が全く分らない。第一誰が出したんだ、それは。 犯人?確実に違うだろう。メリットがない。 犯人でないとするとでは、誰が? …………まぁ、高畑の話を聞けばこれの真相がどんなものかわかる。出来れば穏便な話であってほしい。 高畑の口ぶりがそれを否定するものだったことを棚に置いて千雨はそう願った。 給湯器の近くに置いてあった盆に湯飲みを乗せるとドアを開ける。 今気付いたが、この部屋は給湯室・トイレ・簡易寝床・更には少々狭いがシャワールームまであった。こんな校舎の奥地にこんな設備付きの部屋があったとは。もしかしたら探せば簡単なキッチンくらいはありそうだ。 高畑はよっぽどここに篭る必要があるのだろうか。それならもう少し住み良い環境にすればいいのに、と千雨は思ったが掃除の定義が既に一般とずれている高畑にそれを提案するのは確実に無駄だろうとの結論に達し進言はやめておくことにした。 | ||||
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501 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/17(月) 10:41:13 ID:SvAZNi0L | ||||
どうもあの先生を見ていると要らない世話を焼きたくなってしまう。流石にこの量では及び腰だが、部屋がもう少し狭ければ大掃除を敢行してやりたい。割と綺麗好きな千雨にとってこの部屋は許しがたいレベルにまで十分達している。 それにファイルや棚その他の収納グッズを活用するだけでここは確実に見違えるのが目に見えるのでそれは余計だ。 床に散乱する書類は一部破れて、更には高畑のものだろうか、足跡までついていた。 「……そりゃ無精髭も生えるよな」 これ以上雪崩を起こさないように、と最大限気を遣うがそれは少し無理な相談で、結果高畑の元に戻ってくるまでに千雨が起こした災害の数は過去最大の5件に上った。 「先生、ちょっと動いた位じゃ雪崩は起きないって仰ってましたけど」 「あ、ははは…………」 物の位置を多少変えただけなので至極当然だが。 申し訳なさそうに短い髪を掻く高畑に淹れたばかりのお茶を差し出す。 「うん、やっぱり君の淹れたお茶は美味しいな」 「……どうも」 本当にそう言っていそうな高畑が普段どれ位悲惨な食生活を送っているのか少し気になる千雨である。……レトルトカレーのチンしないやつとかだろうか。 ずず、と音を立ててお茶を飲んでから傍らのサイドテーブルに湯飲みを置くと高畑が切り出した。 「長谷川君。君はネギ君にどこまで聞いたのか、それと何故ネギ君に話を聞くに至ったのか教えてもらえるかい」 「あぁ、はい……。 まぁ大した理由があるわけじゃないですけど」 「構わないよ、簡潔でいいから話してもらえると嬉しい」 ふぅ、とひとつ溜息を零してどこから説明しようかと脳内で構成を組み立てる。 「まず、ですね」 「うん」 湯飲みを大きい掌で包みながら高畑が千雨を見る。少し話し辛いな、と千雨は思った。 「ネギ先生が帰りのHRの後に私を呼んだんですよ」 その日もただぼんやりと教室に残っていたんだよな、と思い返す。 意味もなく校舎に残ると何かしらを呼び寄せる気質なのかもしれない、とやや本気で思った。 | ||||
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