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543 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/21(金) 18:50:13 ID:gUqKeYGw
また明日、と言って別れた相手が今日になって自分を知らないなんてことになったら。
……共有した時間がないものにされてしまったら。自分の中だけの絵空事にされてしまったら。
「それは、……もう違う人間と言えないかい」
「……まぁ、確かに」
「実際そんな事が起きたら、という話だけどね。
ただ君がどう認識しているのか知りたかっただけだからこの話にそんなに深い意味はないよ。
ただ、君に話す上で記憶というものが非常に重要な位置に来る」
この部屋は少し蒸し暑いような気がした。
「輪廻転生を信じない、と言ったね」
「はい」
「Aが記憶喪失ではなく輪廻転生だったのだとしたら、どう思う?」
「……………………はぁ?」
信じないか、との問にそうだと答えたのにそれを前提とされた話を振られ戸惑った。掃除云々もそうだが、高畑は少しおかしいのかもしれない、と千雨は思った……。
「話を少し整理しよう。
Aは君との記憶を失くしていた。通常は記憶喪失だと思うだろう。だが、一向にAは君との時間を思い出す気配は無い。普通ならば徐々に記憶は何らかの欠陥を残しはするかもしれないが戻っていくものだ。勿論例外はあるよ。これは統計的な意見だからね。
Aの記憶が消えたのがもし、輪廻の輪に乗った『誰か』がAに宿ったからだと考えたらどうだろう?」
「ちょっといいですか」
眼鏡を軽く押さえて千雨が言った。
「はっきり言います。さっぱりわからない」
「ははは。僕もいつ君がそう言うかと思っていた所だよ」
「……からかってるんですか」
「いや、そんなつもりはない。
これは極めて君にとって有意義な話さ」
危険を知る、という意味でね。と内心で付け加える。
「単刀直入に言おう。
君が信じない上に一笑に付す可能性が非常に高くて気後れするけれどね」
「この時点で既に失笑モノですから安心してください」
「はは、……食えないね、君は」
苦笑混じりの声で笑ってから高畑は天井を見上げた。煙草で黄色く染まったそこは中華料理屋の厨房と通じるものがある。
ひとつ違うのは、厨房ならばゴキブリが多発するだろうが、ここには生きたモノが高畑と千雨しかいないという一点だった。


544 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/21(金) 18:51:03 ID:gUqKeYGw
ひとつ違うのは、厨房ならばゴキブリが多発するだろうが、ここには生きたモノが高畑と千雨しかいないという一点だった。
「昔、……昔ね。
そう、今では化石でしか見ることの出来ないような生物がまだまだそこらを闊歩していた位の大昔」
今度は何の話だ。千雨の眼鏡の奥の目がそう言っているのを高畑は察していたが続ける。
「ふたつの種族が共存する世界があった。
異種である存在は互いにないものを補い合って平和に暮らしていた。
自分には有り得ない能力を持ち合うのだから手に手を取れば暮らし良いに決まっているからね。
だけど異種は異種であるが故に、些細な事件をきっかけにいがみ合うようになったのさ。
それから後は簡単だ、殺戮と血の惨劇、そしてそれらを繋ぐ憎悪と恐怖。種の片方は片手に残る数を残し死に絶え、残りは繁栄を極めることとなる。
その残り、と言うのが僕ら人間だよ」
「……どこの神話ですか、それ」
「神話、か。
……そう言えなくもない」
「それで?記憶と輪廻転生と神話がどう繋がって私にとって有意義な話になるんですか」
「はは、急かさないでくれるかい、話すのは上手い方じゃない」
「先生がファンタジー趣味だとは思ってませんでした」
「はは、……どっちが年上かわからなくなってくるよ。君とは相性が悪いのかな」
「どっちでしょうね」
「これ以上君に嫌われないように気をつけよう」
高畑は微笑してから口元を締め、言った。
「…………鳥と人とのかつての大戦の傷跡を抉り返そうとしている者が居る。
欲に眩んだ目で、白き翼を見る者が居る」

545 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/21(金) 18:51:41 ID:gUqKeYGw
千雨はその時初めて気付いた。
窓が開いているのに、風が少しも入ってこないことに。
そして高畑の目が哀しみとも哀愁ともつかぬ色をしていることにも、気が付いていた。
それは…………、千雨には静かな怒りとして映った。


そして、物語の幕が上がる。
誰の血が流れるのだろう。
今回は、誰が死ぬのだろう。
彼も、老人達も、誰も知らない。
だが、この時既に決められた事実は確かに其処にあったのだ。

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