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608 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/26(水) 21:27:22 ID:XoMCE4z+
「……痛そうだね」
抑揚のない声がぽつりとそれだけ零した。
「死ぬのかな、君」
……………………死。
言葉にすることでそれは急に目の前の現実として刹那の前に提示された。
死ぬのかもしれない。
今、ここで終わるのかもしれない。
この男がほんの少しその気を起こして腹を蹴り飛ばしでもしたのなら。
……その先は容易に想像出来た。

死ぬのか。
此処で、死ぬのか。
生まれた意味さえ持てずに、何の理解もなく理由もわからず死ぬのか。
あんまりじゃないか、そんなのあんまりだろう。
やりたいことがある。
守りたい人が居る。
その手を引いて、出来るなら一緒に歩いていきたい人が居る。

「死んで……たまる、か……ッ!!」
唇を噛んだ所為で端に血が滲んだ。
こんな所で死ぬわけにはいかないんだ、死ぬわけにはいかない、絶対に!!!
「…………死なないんだ、君」
感情の篭らない声が蹲る刹那の真上で響く。
「残念……ながらな、死ぬ予定は今の所……っ、無い」
「……そう」
男はそう言ってから腕を伸ばし腹部にほんの少し、触れた。サラシを巻かれたそこは赤黒く血で染まっている。
「死にたくないんだね、君は。
…………ふふ、僕は神になんかなろうとは思わないけど、生殺与奪は今僕の手の中だ。たまにはそれに手を向けるのもいいよね」
男の手が鈍く光ったように見えたのはほんの一瞬。
「…………、……?!」
「どうかな、もうそこまで痛くないんじゃないかなあ」
「何、を…………」
「無理に喋らない方がいいと思うなぁ、……ふふ。口の中だって切れてるみたいだし喋ると痛いんじゃない?」


609 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/26(水) 21:28:02 ID:XoMCE4z+
ぽたりと口の端から血が垂れて、服の裾に落ちた。
その血が染みた箇所、ちょうど臍の辺り。相変わらず血は滲んだままだが、痛みはほぼ消え失せていた。それでもぴりぴりするような痛みは残っているが、それでもほんの数秒までとは雲泥の差だった。
「何を、した…………」
「何って、瀕死の君を助けてあげたんだよ。
あはは、腕ほどの太さのもので腹を貫かれていたらどんな医者もお手上げだよ?君、僕が居なかったらあの時に冥土に旅立ってる頃さ」
響くような鈍痛に堪えながら男を睨む。
「な、何のつもりか知らないが……、」
言いかけた刹那を制し、男が口を差す。
「好意は受け取っておきなよ、やり方とか細かいことは置いておいてさ。
そんな身体じゃ何も出来ないってことはわかっていたんだろう?」
言われるまでも無く、勿論分っていた。
先程まで蝕むように精神を削ってきた痛みがあれば気魄さえ霞んでしまうかもしれない。
「君、僕を鷹峰だと思ってるんだろうけど僕は兼定だよ。鷹峰は老人達の溜り場に戻った。ああ、僕が追い払った、の方が正しいかな。
どうでもいいかもしれないけどね。同じ顔だから見分けもつかないし証拠も無いけど言っておくよ、僕は近衛兼定。あれとは違うから」
その鷹峰とやらとほぼ同じ会話をしたな、などと思う余裕もなく刹那は立ち上がった。根本的痛みは消えたが、動けば膝ががくがくと震える。
腹を貫かれたのは事実だ。痛みと言うよりは焼けるような熱さ。……はっきりと覚えている。
だが、サラシを巻かれたそこは完全に塞がれていた。
大分血が滲んではいるものの、間違いなく瀕死などではない。戦闘はまず無理だ、と感じた。
夕凪、夕凪はどこだ……?
「君は安静って言葉を知らないのかな」
兼定が刹那の肩に指一本程触れると、まるで力を吸い取られるように刹那はその場にへたり込んだ。
「血が滲むから無理はやめてくれると嬉しいな。
君さ、自分がどうなったか覚えてないのかなあ」
兼定は顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。しかし前髪の向こうにあるだろう表情はまるで厚い霧に覆われているかのように窺い知る事が出来ない。
「君ね?鷹峰に殺されかけてた……、いや、ほとんど殺されていた、と言った方がいいかな。
だって君、腹を貫通されて生きている方がおかしいんだよ?
……ふふ、二度目の生はどう?」
「……二度、目の……生……?」
蹲りながらも刹那の目は縦横無尽に部屋を走る。
視線が突き刺さる先、兼定の手許に夕凪があった。
「普通に考えたらさ、鷹峰が君にああした時点で君は死んでいたって何ら不思議はなかったんだけどね、そこは人為らざる者の潜在的生命力、とでも言うんだろうね?
調子に乗ってた鷹峰の脳髄に一撃浴びせて君を助けたはいいんだけどその時はさっき以上に瀕死だったから僕も困ったよ」


610 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/03/26(水) 21:28:50 ID:XoMCE4z+
面白そうに話す兼定を見ながら、刹那はあることに気が付いていた。尤も、口にも態度にも出す事はなかったが。
「僕さ、血が付くのって嫌だから抱えるわけにもいかなくてね、だけど放って置いたら君死んじゃうし。ふふ、困ったなあ、あれは。
だから一時的にだけど君の傷口周辺を魔力で覆ってから運んだんだ。君が目を覚ましちゃったからそれ、解けちゃったんだけどね」
「…………だから二度目の生、か」
「僕がいなかったら死んだのと同然だったんだから、そう言っても構わないだろう?
ふふ、君はそれでも僕に感謝の意を示してくれるとは思えないけどね」
「…………いや、どんな意かは知らないが……助けてもらったのは事実らしい、礼は通す」
「へぇ?……僕に?」
兼定が少し笑った。
「?
不服か」
「いや?予想外なだけだね、……ふふ、本当……大いにね」
「感謝する。
どんな裏があるか知らないが命は一つだ」
兼定は表情を変えた。変えた、と言ってもそれは口元の微妙な変化であり、刹那は分っていなかったが。
「君は芯根から剣士なんだね。
こんな会話交わす暇があるならさっさとコレを僕から奪って逃げるなり斬りかかるなりしたらいいのに。馬鹿は長生き出来ないって知ってる?」
刹那は腹部を片腕で庇いながら少し笑った。
「お前にも言える事だ、私を助ける暇があったなら、いや、暇以前に見殺しにしておけば良かっただろう。馬鹿は長生き出来ないんだろう?」
「……ふ、あは、ははは…………、そうだね、常識で考えたらね。
でも僕は僕の信念に従って行動しただけだし、それに僕にとって君は脅威には成り得ない。僕のほうが君より何倍も強いよ」
ふ、とその言葉を付してから刹那は応える。
「よもや同じ顔の男二人、その両方に殺されかけるとは思っていなかったが」
「ふふ、貴重な体験が出来たね?
だけど僕は君を殺そうなんて思っていないよ、鷹峰はそうだったみたいだけどね」
…………妙な空気だった。
ついさっき―刹那の感覚なので本当についさっきなのかどうかは定かではないが―まで殺気を滾らせていた二人が談笑とも取れる会話をしているのだから。兼定の弁では殺す気はなかった……そうだが。
しかし、内容は極めて物騒だった為に一層その空気を妙なものにしているのだった。
「その割には窒息死寸前だったんだが」
喉を摩る仕草をしてから言う。
「力加減がね、難しいんだ。直接掴んでいるわけじゃないからね」
「どうやったんだ、アレは?間合い外からの飛び道具は反則だろう」
「それは言えないね、僕にも秘密はあるよ。飛び道具か。面白い言い方をするな、君は」
くすくす笑う兼定を見ていると、本当に自分はこの男に殺されかけたのだろうか、と思ってしまう。鬱陶しい前髪が覆うその顔は爽やかさとは程遠いが彼の現在の態度は非常に穏やかで紳士的と言えなくもなかった。しかし内容は相変わらずのものだ。
「何故助けたかも秘密に入るか?」
「ふふ、そうだね、最重要機密だ」
「そうか」
それ以上食い付くこともなく会話を切る。
「……ああ、サクラザキセツナさん」
兼定は夕凪を刹那に手渡しながら言った。旧知の友人にするかのようなその動作は一瞬刹那に目の前の人物が敵だということを本当に忘れさせていた。
そっと渡された夕凪を手にし、何とはなしに兼定を見た。


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