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745 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/04/19(土) 18:42:47 ID:5Pz1Ybk6
「着きましたよ」
運転手が会話を遮るようにそう言った。





「こうしているとなんだか間柄を疑われそうで困るかもしれないね」
何を今更、と千雨は突っ込みたかったが一見朴念仁の教師が実際は違うことを知っているためにそれは胸にしまっておく事にした。
確かに自分と高畑が一緒にいるのは外見的に不自然だ。親子にはまず見えない。かと言って兄弟でも無理がある。残るは友人・恋人だがそのどちらも厳しいだろうな、と思う。
こんな状況に陥ると思っていなかったので何も考えていなかったのだが、これはかなり異様だ。超がつくほどの変人(と千雨は思っている)教師でも流石に部屋を同じにはしなかったらしく、今二人が居るのは高畑が使うことになった方だった。
日当たりも良く、窓際に置かれた籐椅子に柔らかい日差しが延びている。ここで昼寝したらさぞ気持ちがいいだろう。あまり広いとは言えないが、簡素で上品な印象を与える和室はデジタル趣味の千雨にも好感を持たせた。部屋の隅に生けられた花が、今が春だと知らせている。
籐椅子を引き寄せ、高畑がそこに腰を落ち着かせたので千雨も倣い対のそれに座った。
「フロントでじろじろ見られてね、何か聞かれたら参るなあ、なんて思ったよ」
あはは、と笑う高畑だが、あまり冗談になっていないので千雨は笑わなかった。ネギとならばまだ兄弟で通じるのに、と思いかけて千雨は顔を軽く振って眼鏡を押さえた。
なんで今あのファンタジー教師が浮かんだんだ。自分の脳内構成を呪いたくなる。
……少し頬が熱かった。
「先生」
「うん?」
備え付けのティーバッグでお茶を淹れる背中に声を掛ける。
「英単語間違い講座の開講はまだですか」
嫌味たらたらで言うが、高畑には通じなかったらしい。頭上にはてなマークを浮かべられたので言い直す。
「後で話す、って言ってた話です」
「あ、ああ」
漸く前後が繋がったようで、高畑はバツが悪そうに笑った。
「氏家鷹峰のことだね」
「うじいえ……?」
タカミネという人物はコノエカネサダとかいう奴の兄弟だと言っていたはずだ。何故苗字が違うのだろう。婿入りでもしたのか?
そこは汲み取れたらしく高畑が答える。
「ええとね、近衛家の家系図を紐解く必要があるんだけど簡潔に言うとね。近衛家はうんと昔、氏家家の分家に当たる位置にいたんだ。遠い親戚と考えてもらえればいい」
「はあ」
「鷹峰と兼定は間違いなく兄弟だ。だけどね、何か事情があったのかどうか知らないけれど鷹峰は本家である氏家の家に養子として入ったんだ。だから兼定とは姓が違うんだよ」
本当はまるで違うのだがあながち間違いでもないし、そこまで説く必要も無い。そう高畑は思った。
「ええと、それで……、うん。
鷹峰の別称が何故Eなのか、という事だったね」
「はあ」
「鷹=ホークでその頭文字だとHで卑猥だから……というわけじゃないよ」


746 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/04/19(土) 18:43:37 ID:5Pz1Ybk6
「わかってますよ」
そんなこと今時中学生でも言わねえよ、と言ってやろうかと思ったがやめておく。尋ねる、という漢字でニヤニヤした世代なんだろうか。
「三鳥項という言葉があってね」
「さん……ちょう、こう?」
聴きなれない所か聴いた事もないそれに思わず鸚鵡返ししてしまう。
「鷲・鷹・鳶。それら三つの猛禽と称される鳥達を纏めた言葉さ」
「はあ」
「君は知らないかもしれないが、世界には人間ではなくとも知能を持った種族と言うものが存在する。そのひとつが鳥族なんだ」
自分で淹れたお茶を一啜りして、言葉を選ぶように高畑は一度黙った。その間が少し長かったので千雨も高畑に先ほど手渡されたお茶に口を付ける。
……悪い意味で、個性的な味がした。
「鳥族はね、成人すれば単体で複数の人間を相手に戦って勝てる程の戦闘力を持っている。けれど非常に温厚で危害を加えなければ攻撃してくる事は無い。
……とりあえずそこだけは憶えておいてくれるかい」
「はあ」
「彼らはふたつに分類することが出来る。
まず戦闘を得意とし、かつ強力な力を持つ者。そして逆にあまり戦闘を好まない者。さっきの三鳥項とされる鷲・鷹・鳶は前者だね。後者は鳩か燕と呼ばれる。
そして氏家鷹峰は鷹の鳥族。近衛兼定は燕の鳥族だよ」
「え?人間……、じゃないんですか」
古めかしい名前だな、とは思っていたがこうもあっさりと人外であると断言され、千雨は少し戸惑った。
「ああ、人ではないよ。だけど一部の鳥族は生活形態がかなり人間よりだし外見は人と変わりない。彼らは人間の姿を借りることも出来る。言わなければまず鳥だとは思われないだろうね。
知能は人間並みだから人として生活している鳥族もそう珍しくない。羽根さえ見られなければ何の問題もないかもしれないね」
「……羽根」
「鳥だからね。羽根を持っているよ、当然。仕組みは知らないが上手く隠せるらしい。
それからね、彼らはある組織に属している。
近衛家だよ」
「攫われたとかいう、……近衛?」
「ああ、近衛木乃香の生家に違いない。属していると言っても服従しているかと言ったら恐らく違うだろうけどね」
「……?じゃあ何の為に」
高畑は一呼吸溜めてから押すように言った。
「生きる為、だよ」
「生きる……、為」
「氏家鷹峰も近衛兼定も本当ならとうの昔に死んでいる。彼らが生きていたのは数百年も前の話だ」
「……………………………………はあ?」
「やはりそう返してきたね。あはは、予想はしていたけど少しやりにくいものみたいだ……」
くすくす笑う高畑に、壮大なドッキリに掛けられたかと思いかけた千雨だが、すぐにその考えは棄てることになる。
高畑が……あまりに真剣な顔をしたからだった。
「彼らは平安時代末期に生きていた鳥族でね」
言ってから高畑は個性的フレーバーのお茶を湯飲みに注ぎ足した。千雨にも目で勧めるが軽く手を振られたので急須を置く。
「鳥の寿命はそう長くない。長生きして三十程度かな。氏家鷹峰は十五、近衛兼定は十七で死んだ。だけど彼らの死因は寿命じゃない。二人とも殺されたんだ」
「殺され、た」
「そう、殺された。
………………輪廻転生を、信じるかい」

747 名前: ◆AIo1qlmVDI [sage] 投稿日:2008/04/19(土) 18:45:28 ID:5Pz1Ybk6
既に何度か高畑の口を出ているその単語。
「……信じろと、言いたいんでしょう」
「……はは、参ったな……、そんなに僕の考えは駄々漏れなのかい」
「信じざるを得ない話なら信じなければ進まないでしょうが」
高畑は苦笑して湯飲みを口に付けた。……不味いな、と思った。
「輪廻がどんなサイクルかは知らないが、兄弟揃って同じ時期に巡り生まれるなんて神は偉大だね、誠慈悲深い」
「……本気で言ってます?」
「まさか」
視線を下に落とし高畑が薄く笑う。
「作為的なものだよ。だから本当は輪廻転生なんかじゃないんだ」
「え?」
「『呼び出された』のさ。遂行の為には力が、化け物が必要だから」
「……話が見えません」
「そうかい。じゃあ要約して説明しよう。
氏家鷹峰、近衛兼定は過去既に死んでいる。だが間違いなくこの世界に存在している。つまりは二度目の生だ。それがどういうことか。
まず氏家鷹峰。彼はある組織が必要としたから『呼び出された』。だから今この時間軸に生きている。
そして近衛兼定。彼は一度死に、だが何らかの方法で再度命を得ている。
彼が生きる為には膨大な魔力が必要だ。彼は自身の羽根に込められた魔力を使うことで今まで生き続けてきた。だから羽根が尽きれば彼は生きてはいけない。
召喚された鷹峰には羽根があるけど、兼定には羽根が無い。
ここまでは理解できたかい」
「…………ぶっ飛んだ……話ですね……」
思い出したように眼鏡の蔓に触れる。
「……確かにね。じゃあ続けるよ。もし分からなければ遠慮なく話の腰を折ってくれて構わない」
了解の意を込め頷いた千雨を見てから高畑は先を話し出した。
「召喚に必要なことがひとつある。
なんだかわかるかい」
「……いえ」
「残された意思、だよ。
自縛霊の話を聴いた事はあるかな」
「人並み程度になら」
「そうかい、それは結構。自縛霊というのはこの世に未練があるからその場に残り続けている幽体のことだね。彼らは目的を果たせず死んだ、もしくは恨みがあってそこを離れられないか大概どちらかだ。
氏家鷹峰は殺された。その相手を殺したかった。だから殺された土地に浮遊し続けていた。
ある組織は力が必要だった。だから強力な力を持つ者を探していた。
ここに契約の条件は揃っていたんだ」
「……契約?」
「召喚には対価が必要なんだよ。それを払ってまで現世に戻らせてやるから言う事を聞け、という約束事さ。召喚された者は現世で果たせなかった思いを叶えるチャンスが与えられる。
そしてその組織は氏家鷹峰を手中に入れた。彼を使い目的を遂行しようとしている」
「……目的」
「欲に目が眩んでいるだけだよ。……迷惑な話だね。
その対価というのはね、……召喚される者、この場合は氏家鷹峰だね。彼と同等の力を持つ鳥を転生先として用意すること。魂を呼び出しただけでは駄目なんだ」
「相応しい体が必要、ってことですよね」
「そういうことだね。そしてその組織は氏家鷹峰召喚の為に転生先を探す。だがそんな鳥はそう簡単には見つからない、何せ三鳥項のうちのひとつなわけだからそこいらをうろついて見つかったら苦労はしない。
だが彼らは年月を掛けてそれを見つけてしまった。
……………………桜咲、刹那。
……彼女のことは……知っているね?」

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